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障害のある子に残すべきもの

お金より大事なものとは?

障害のある子にお金を残すことを考える親御さんは多いと思いますが、実は子どもに残すべきもので、お金よりも大事なものがあります。それは信頼できる「支援の輪」だと考えています。

「支援の輪」とは?

「支援の輪」とは、子どもの苦手なところを補って手助けをしてくれる人たち、つまり支援者に囲まれている状態のことです。

日中活動場所のスタッフ、グループホームのスタッフ、計画相談事業所の相談員、成年後見人、余暇活動の場の人々、職場の人々、近所の人々、きょうだい、親戚、かかりつけの医者など、いろいろな人に囲まれて暮らしています。
その中の数名でもいいので、親身に子どものことを考えて、理解して、必要な手助けをしてくれたらどんなに心強いでしょうか。

成人しているのであれば、現時点の「支援の輪」を書いてみると現状がよくわかると思います。支援者が多ければいいという訳ではありませんが、支援者が周りに少ない場合は支援者を広げることから始める必要があるかもしれません。支援者はいるけれど、信頼できる人がいない場合は、信頼できる人を探し求めて行かなといけないかもしれません。

親あるあいだに親がやるべきことは、子どもの手助けを直接し続けるのではなく、親なきあとも子どもの手助けをしてくれる「支援の輪」を作ることだと考えています。

いくらお金を残しても、お金だけでは生きていくことが難しいかもしれません。また、お子さんだけではお金をうまく使えない場合、手助けしてくれる支援者が必要でしょう。逆にお金がなくても、信頼できる「支援の輪」があれば必ず何とかしてくれることでしょう。

「支援の輪」のイメージ図


信頼できる支援の輪

「支援の輪」の力


あるお母さんの言葉が忘れられません。

重度知的障害がある息子さんはグループホームで暮らしていますが、中年になってから身体に退行が見られるようになり、様々なサポートが必要になってきました。グループホームの職員は老人ホームに出向いて話を聞くなど介護の勉強をして息子さんを引き続き支えています。グループホームの職員は、高齢になったお母さんに「息子さんの面倒は我々が見るから心配いりませんよ。」と言ってくれるそうです。日中活動事業所の職員も同じことを言ってくれるそうです。

息子さんを置いて先に逝くのが心配なお母さんは、息子さんに先に逝ってほしいと昔は思っていたそうですが、安心して息子さんを任せることができる支援の輪ができた今では、歳の順に逝くべき、との考えに変わったとのことです。お母さんの心境の変化から、信頼できる「支援の輪」の力を感じることができると思います。

信頼を作る

支援者との信頼は簡単に構築できるものではありません。支援者といい関係を築かれているお母さん・お父さんの話を聞いていると、共通していることが2点あるように思います。

①支援者としっかり対話をしている

適切な支援をしてもらうためには、まずは子どもを理解してもらい、その上で親が望む支援を伝えることが必要になるでしょう。支援の方法に満足できない場合は、建設的な対話を通してお互いに理解を深めることが必要となります。対話の際に、”簡単には引き下がらない”との姿勢も大切となる一方で、クレームと受け取られかねないので、何をどこまで、どう伝えるか、について皆さん非常に悩まれています。支援者といい関係を構築されている親御さんは、このあたりのコミュニケーションをうまくされているように感じます。

②親がやる通りのことそのままを期待しない

人それぞれ考え方や習慣が違うので、親と全く同じ支援を求めることは無理な場合があるかもしれません。母親と父親でも考え方が違い、子どもへの支援方法も違うくらいですから、第三者が支援する場合はなおさらです。

親の支援方法そのものを支援者に求めると不満ばかりになりかねません。支援のやり方は様々ですから、ある程度割り切って”支援者にお任せ”する部分があってもやむを得ないくらいの気持ちがあった方が楽に信頼関係を構築できるかもしれません。ただ、譲れない部分はじっくり建設的に対話することが必要でしょう。

さきほどのお母さんの話ですが、息子さんについている成年後見人に対してお金の使い方への注文があったとのことです。成年後見人とお母さんがよく話し合った結果、結局後見人の意見にお母さんが納得されたようです。お母さんの要望とは少し違うけれども、後見人に任せた方がいいと思われたのでしょう。

地域の人と民生委員

”支援の輪”と言うと子どもの面倒を日頃から見てくれている人たちのことを思い浮かべがちですが、地域の人々に支援してもらえることはとても心強いことだと思います。支援といっても、何か特別なことをやってもらうのではなく、障害があることを周りの人に知っておいてもらうことで、何かあったときに手を差し伸べてもらえたり、どこかに連絡してもらえるというようなことです。

地域にいらっしゃる民生委員も心強い味方です。民生委員は地域の社会福祉協議会や役所と密につながりながら地域の見守りをされています。何か異変があったり、支援が必要と感じられた場合に、しかるべき所につないでくれる地域における社会福祉の一番身近な存在です。機会があれば顔見知りになっておいた方がいいでしょう。

「支援の輪」がなんとかしてくれる

親御さんに万一のことが急に起こった場合、お子さんはどうなるでしょう? 例えば親子二人暮らしの家庭で、親が自宅で急変し亡くなったときに、子どもは親の死を認識せずにそのまま過ごしているケースが実際にありました。そのような場合、子どもが通所してこないことで、日中活動の事業者が自宅の様子を見に行き事態が発覚することがあります。「支援の輪」があってこその発覚と言えるでしょう。

そのような緊急事態においても信頼できる「支援の輪」は心強い存在です。その日から子どもの新しい住居を確保できるとは限りませんが、新しい住み家が見つかるまでショートステイやグループホームの体験入居などでなんとかつないでくれることでしょう。子どもをよく理解しているので、子どもに合う住み家を探してくれるでしょう。収入が足りない場合は、生活保護の申請を手伝ってくれるでしょう。お金の管理が必要であれば、成年後見人等の申し立ての手助けをしてくれることでしょう。

「支援の輪」に親の考え方を伝えていれば、親の意向を反映した支援をしてくれるかもしれません。「支援の輪」は、決して子どもを見捨てることなく、子どもがまともに暮らせるように体制を整え、そして日々の生活をサポートしてくれるはずです。

もちろん信頼できる「支援の輪」がなくても、子どもが一人になり困っていることが発覚すれば、自治体等が支援体制を作って同じような支援をしてくれるはずです。ただ、親御さんが急にいなくなると、子どもは悲しみ、そして不安になっているはずです。信頼できる「支援の輪」がない場合は、支援者は子どもを知ることから始めるないといけないため、とても時間がかかる上に、知らない人に囲まれた子どもの不安は増すばかりでしょう。支援者が子どものことを短期間で十分に理解してくれる保証もないので、支援が子どもにフィットするかもわかりません。

いざという時に、やってくれる支援の内容は同じでも、信頼できる「支援の輪」による支援と、新しい支援者による支援では、お子さんにとっても、支援者にとっても大きな違いがあります。

まとめ

  • 信頼できる「支援の輪」を作って残すことが一番大事

  • 親の役目は子の直接支援ではなく「支援の輪」を作ること

  • 現時点の「支援の輪」を書いてみると現状がよくわかる

  • 信頼できる「支援の輪」があれば何とかしてくれる

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