障害者雇用「代行」ビジネスの急増とその問題点

日本では、全ての事業主に法定雇用率以上の割合で障害者を雇用する義務が定められています。

法律の改正により法定雇用率が段階的に引き上げられることが決まっており、2023年6月時点での民間企業での障害者の法定雇用率は2.3%とされていますが、2024年4月より2.5%、2026年7月より2.7%へ段階的に引き上げられます。人数に直すと、障害者を1人雇用しなければならない事業主の範囲は、2024年4月より「従業員40人以上」、2026年7月より「従業員37.5人以上」となります。

障害者雇用の実現方法については企業に任されており、法定雇用率を満たすために就労を希望する障害者の雇用を事実上代行するビジネスが急増していることが、厚生労働省の調査や共同通信の取材で明らかとなりました。全国で約800社がこのビジネスを利用し、働く障害者は約5千人に上ります。
出典:障害者雇用「代行」急増 法定率目的、800社利用(共同通信、2023.1.9)

・現状の詳細

ビジネスの形態としては、企業が貸農園などの働く場を提供し、その場所で障害者が農作物を栽培するという形をとっています。大半の企業の本業は農業とは無関係でありながら、障害者を雇うために企業の事業所外で農作物の栽培を開始しています。作物は社員に無料で配布されることが多く、これは違法ではありません。

・問題点

しかし、この手法は企業が形式的に法定雇用率を満たすための手段として障害者の雇用率を売買しているとして問題視されています。

「障害者雇用を通しての共生社会の実現を目指す」という障害者雇用促進法の理念に照らすと、障害者は職業に従事する者としての自覚を持ち、能力の開発及び向上を図ることが求められています。また、雇用する事業者は、障がい者の有する能力を正当に評価し、適当な雇用の場を与えるとともに適正な雇用管理を行うことによりその雇用の安定を図るように努めるとされています。このビジネスは本当にこれらの基本的な考え方に沿ったものでしょうか。

・反響と対策

国会でもこの問題が取り上げられ、厚生労働省は対応策を打ち出す方針です。企業が法定雇用率を満たすためだけでなく、企業が障害者も含めた共生社会実現のための具体的な方策が求められます。

障害者雇用のための補助金や制度の活用だけではなく、障害者が本来的に持っている能力や特性を活かす職種への配慮も重要です。特性を活かした雇用創出は、障害者自身の働きがいや生活の質向上につながります。

更には、障害者雇用についての企業内教育の充実も求められます。ともに働く人たちが障害の理解を深め、障害者が働きやすい職場環境を作るための知識や手法について学ぶ機会が必要です。

このように、企業が法定雇用率を満たすためだけでなく、障害者が働きやすい環境を作り出すための具体的な取り組みを行う必要があります。これが共生社会の実現につながり、障害者雇用促進法の理念に沿った、真の意味での障害者雇用の推進につながるはずです。

・まとめ

このビジネスの急増が示すのは、障害者雇用の現状とその課題です。法定雇用率の達成と障害者の職業生活の向上、この二つの目標は両立しなければなりません。NPO法人ここのばでは、企業と障害者が真の意味で共生できる社会の実現を目指して活動していきます。

非営利活動法人ここのば 代表理事 百瀬洋介