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③こども誰でも通園制度は、誰を救済する制度なのか?などを考えてみる

前回と前々回で、こども誰でも通園制度のニーズ実施モデル園のヒヤリングから推測をしてみましたが、今回は「利用方法」と「実施方法」について考えてみます。


メリットとデメリット

私は良し悪しを考える時に、なるべく色々な立場で見るように意識しています。一方の見方だけでモノを考えるとどうしても考えが偏ってしまいます。
私は、この制度を採点しようとは思っていません。そもそも、どんな方法で実施しても、必ずマイナス点は出てきます。それを理解したうえで実行していけば、不測の事態を多少は防げるのではなないでしょうか?

まずは、預ける側(保護者)と預かる側(保育施設)のそれぞれの立場で考えてみます。「まずは」と前置きしたのは、こどもの立場自治体の立場でも考えるべきであると考えているからです。

話は変わりますが、この検討会の有識者には、保護者代表みたいな人は入っていないんですね。もしかしたら、この制度の対象は、保護者団体の役職に就くような方がいない家庭が想定なんですかね。

全ての人が納得のいく制度なんて存在しませんが、いずれにしても「やってみるか」と多くの施設が、前向きに取り組むことのできる制度にはなって欲しいと思っています。

利用方法と実施方法

最初に、利用方法と実施方法を簡単に説明します。
決まった園、曜日、時間で定期的に利用できるのが「定期利用」。反対に、園、曜日、時間を固定せずに利用できるのが「自由利用」です。

また、実施方法としては、こども誰でも通園制度で預かる枠を別途で設ける(一般形)、現状の施設における余力(特に人員)を活用する(余裕活用型)が挙げられています。

この利用と実施の2つの方法を保護者と保育者のそれぞれの立場で考えなければなりませんので、少し複雑になります。

定期利用のメリット・デメリット

◆安定性(保育施設メリット)

定期利用の子どもたちが予め決まった日程で通園するため、人員配置や収益の予測が比較的容易になります。しかし、安定した運営を目指すのであれば、実施方法を一般型にしなければ、安定を実現させることはできません

なぜなら、余裕活用型では、時期、曜日、時間帯によって繁閑の波が発生しまうからです。それを的確に予測し、受け入れ態勢を作っていくことは難しいのではないかと思います。しかし、この波の影響をあまり受けない園もあります。それは、地域の少子化が進み園児の確保ができずに人手が余っている園です。

このような状況であれば、一般型であろうが余裕活用型であろうが対応は対応は可能であると考えられます。

◆人員確保(保育施設デメリット)

一般形で実施する場合、保育士の確保が必要になります。状況によっては新たに人材採用を行う必要があります。現在、通常保育でも人材確保がままならない中で、果たしてどれくらいの施設が定期利用を積極的に導入しようと考えるかは疑問です。

◆確実なスケジュール(保護者メリット)

予め定まった日程で利用でき、保護者の日常スケジュールを組みやすくします。一度受け入れが決まれば、安心して預けることが可能になります。
しかし、「誰でも」ということであれば、地域での需要を満たせる受け入れ体制を作ること必要になります。

◆途中の利用の難易度が高い(保護者デメリット)

利用者が固定されるため、需要の多い地域では、途中からの利用は難しくなります。この問題は、保育士の配置基準により弾力性を持たさなければ解消できません。施設の人材確保の課題とリンクしますが、利用者数に対しての補助ではなく、人員配置に対しての補助が必要になります。

◆一貫性の提供(共通メリット)

クラス編成がしやすく、教育プログラムを効果的に設計でき、一定のグループ仲間と関わるため、関係性やルーチンを築きやすく、現場の負担も多少は軽減できます。また、保護者とのコミュニケーションの密度を上げていくこともできます。

自由利用のメリット・デメリット

◆柔軟性の確保(保護者メリット)

いつでも利用が可能で、かつ地域の数的需要を吸収できるのであれば、本当の意味で誰でもという制度を実現できます。また、利用する園が制限されないのであれば、空き枠がない場合、近隣の別園で預かってもらうことも可能です。

また、遠方の園でも利用できれば、出張先に子どもを連れて行ったり、旅行中ちょっとだけ預けるなどが可能になり、子育てを全国で支える制度になります。

ただし、この場合、一時保育と何が違うのでしょうか?
そして当然、保育施設の負担は大きく増えてします。アレルギー事故や置き去りなど以外にも予測していなかった問題も発生する可能性もあります。

◆新規収益の機会(保育施設のメリット)

 施設にとって自由利用のメリットは、あまり無いように思えます。(*地域の保育を支えるというものは保護者メリットで考えています。)
強いて挙げるとしたら、予期せぬ需要に応じて、新たな子どもたちを受け入れることで新たなニーズを発見できる可能性があります。

しかし、人材不足に悩む保育業界にとって、不確定要素を増やしてしまう方法は、多くの経営者にとって受け入れがたい方法ではないでしょうか。

実施方法は今の園の状態がカギ。

実施方法は、一般形にしても余裕活用型にしても、結局、保育士を確保できるのかがカギとなります。

現在、大幅に園児を減ってしまった保育施設にとっては、新たな需要を喚起する制度かもしれません。しかし、定員一杯の園では実施したくても空きスペースの確保が問題になりますし、ただでさえ、保育士不足の業界でリスクを負って実施する園がどれくらいあるのでしょうか?また、現在一時保育を行っていない園は、導入していくのでしょうか?

私は、「こども誰でも通園制度」の前に、保育士の配置基準の弾力性を上げていくことの方が、優先順位が高いと考えています。

配置基準の弾力性とは、「例えば、1歳児6人に保育士1人という現行の配置基準に対して、3~6人に1人という基準に変更し、プラスアルファの人員配置についてはインセンティブをつける。」というようなものです。

経営者として、事業の存続を考えると配置基準ピッタリにする方がリスクが少なく、現状の保育士確保におけるコストを考慮すると、人件費の補助だけでは、人員の確保が進まないように思えます。

また、弾力性を持たせることにより、受け入れ枠にも弾力性が出てくるため、潜在待機児童の解消にも貢献できるのではないでしょうか?これらを実現した上で、こども誰でも通園制度の導入を行う方がスムーズに進むと思います。

保育問題の多くは、配置基準の弾力性の低さに起因しているため、この課題の解決を優先するべきだと考えています。

皆さんはどうお考えでしょうか?

参考資料

こども誰でも通園制度(仮称)の本格実施 を見据えた試行的事業実施の在り方 について



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