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ペッポコ釣り師、八丈島に行く①

 釣り好きが高じて独身時代には八丈島に旅行に行ったことがある。

 もちろん目的は釣りなのだけど、どこで何を釣るとかそういう具体的なプランはなかった。

 そもそもボクの釣りは基本的にそんなもんである。
 特定の何かを狙って釣りに行くことはない。
 基本的には何かが釣れればいいのだ。

 そういう計画性のない所がボクがいつまでも大物に出会えない一つの要素なのかもしれない。

 大物を釣りたいと思ったら、きちんと初志貫徹してその魚を狙う。釣りに行くときは計画的に仕掛けをチョイスして、その魚だけを追いかける。
 釣れなかったら嫌だからとかを考えないで、一筋に釣りを考えることが重要なのだ。
 実際にその覚悟で釣りをして過去に大きなスズキを釣ったのだから、これは間違いない話ではあるのだけど、実際にはやろうと思ってもなかなか難しいのだ。

 釣りに行くからには『何かを釣りたい』という気持ちが強すぎるのかもしれない。

 八丈島に行った時も何が釣りたいとかそんなことはあまり考えていなかった。
 まあ、島に行けば何かが釣れるだろうとは思っていたけど、何が釣りたいとかはなかった。
 とにかく食べて美味しい魚が釣りたかった。

 八丈島。
 どこに位置しているかと言えば伊豆大島を始めとした、伊豆七島のさらに沖合にあるひょうたん型の島だ。
 ボクは東京の浜松町にある竹芝桟橋から東海汽船に乗ってこの島に向かったのだけど、一晩中、船に揺られていた記憶がある。
 島に着けばどれだけ釣れるのだろうと期待していたから、楽しすぎて興奮して眠れなかった。船酔いをするかと思ったがそうでもなかった。やはり釣り船とは違い、大きな船だと酔いづらいのかもしれない。
 三半規管がちょっとおかしくなっているかなと感じる程度で、ボクは八丈島に着くことが出来た。

 着いた日はいい天気だった。
 時間はお昼過ぎだっただろうか。

 行ったのは12月だったが、まったくもって寒くなかった。
 もしかしたら少し熱帯地域に近い気候なのかもしれない。
 そんなことを思いつつ、ワクワクする気持ちを抑えながら船を降りてホテルの迎えの車に乗り込み、ホテルに向かった。
 そこで食事を食べてから、チェックインを済ませ、レンタカーを借りに行った。

 島には1週間ほど滞在する予定だったからレンタカーを手配しておいたのだ。

『え?? 釣り??? 参ったなあ……』
 レンタカーを借りる時にお店のおじさんにそんなことを言われてボクはちょっと困惑した。
『てゆうか、釣りってお客さん、そんな恰好でどこで釣りするの?』
『いや、普通にそこらの堤防でやろうかと……』
『だったらいいけど、ろくな装備もないのに磯に言っちゃダメだからね』
『ああ、はい。それはそのつもりです』
 磯釣りはやる予定はなかった。
 そもそもライフジャケットは所持していないし、滑り止めの磯足袋も持ってきていない。
『釣りだと車汚れちゃうんだよなあ……』
 おじさんは最後の最後まで貸し渋っていたが、こちらは旅行会社を通してレンタカーの予約もしていたから断るわけにはいかなかったのだろう。
『ちゃんと綺麗にして返却してな』
『はい……』
 なんだかんだでレンタカーを借りることができたので、ボクは早速、釣具屋さんを探してエサを購入し、近くの堤防に行った。

 ちょうど時間は夕方。
 そう。
 夕まずめというやつだ。
 少し傾きかけた太陽はため息が出そうなぐらい綺麗だった。
 でもボクの頭の中は釣りのことでいっぱいだった。

 ボクはまだ見ぬ魚が釣れることへの期待に胸を膨らませた。

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