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【科学夜話#23】世界の共通神話の由来とは?

 羽衣伝説で有名な静岡県の三保の松原には、天女がその羽衣をかけた松が実在します。この羽衣伝説は、世界各地にその類型があって、世界共通神話のひとつに挙げられます。
 はるか昔にあった大洪水や、先住民族としての巨人族の物語。
 こうした神話が世界に広がった、もしくは代々伝えられてきた背景には、何があったのか? を調べてみました。

パブリックドメインQより

ノアの洪水は本当にあった?

 大洪水伝説は、世界で200を超える地域に存在している。
 なかでも有名なのは、旧約聖書の「創世記」に出てくる大洪水の話。類型としては、増長した人類を滅ぼすために神が大洪水を引き起こす。
 しかし、自分を崇めてくれたノアとその一族を救うことにし、大きな舟を建造させる。

 このとき、ノアが集めることができた遺伝子のみが生物として生き残り、恐竜などが滅びた。
 世界中に散らばる洪水伝説はこの類型で、選ばれた者が生き残って、その子孫たる自分たちが繁栄したのだ、というもの。

 このため、自然に適応した者が生き残るのではなく、偶然によって選抜されることになる。これは「ボトルネック効果」と呼ばれる。
 本来、花粉症で滅ぶはずだったノアが生き残ったので、その子孫は花粉症という負の遺産をもっているのに、進化の勝者となってしまう、という不合理が偶然によって起きる。

 しかし、中国の洪水伝説のみは異質。
 紀元前2000年頃とされる中国最古の王朝、「夏(か)」の時代に洪水が頻発し、九年かけても治まらなかったので、担当者のクビが切られた。これは文字通り切られた、らしい。
 その後、一三年かけて治水に成功したのが、夏王朝の初代皇帝。

 中国の場合は、洪水を逃れたのではなく、治水に成功した者がリーダーになったわけ。しかも神は民を滅ぼしてはいない。
 リアリティ重視の社会派ミステリの作者が、中国には存在していた。
 ちなみに、聖書では神は200万人ほどの大量殺戮を行い、悪魔が滅ぼしたのは10人程度。
 こんな神が選別した人類が、争いを止められないのは必然だ。

イラストACより

先住巨人の伝説

 今年の巨人は弱くて、今現在最下位に沈んでいる。
 しかし人類が繁栄する前には、進撃してくる無敵の巨人たちが世界各地にいた。

 巨人を表す英語のジャイアント(giant)は、ギリシア語のギガース(Gígas)に由来するらしい。
 オリュンポスの神々に戦いを挑んだが、あえなく敗れてしまった。
 ギリシアの最高神ゼウスの前の時代には、ティーターン神族という巨人達がいた。

「創世記」には、神と人のハーフであるネフィリム(Nephilim)という巨人族が登場する。
 一説によると、神がノアを選別した洪水を引き起こしたのは、ネフィリムを滅ぼすため、とも言われる。

 生物は遺伝子の多様性を確保するために、遠隔地の同種との子孫は、生存能力が高くなることがあり、これを「雑種強勢(heterosis)」という。
 巨人の誕生とは、古代において遠隔地の部族との婚姻を象徴したのかもしれない。

 日本にも「ダイダラボッチ」という巨人伝説があるが、割と友好的で「富士山」を作ってくれたのも彼らであった、という。

世界各地にある羽衣伝説

「羽衣伝説」は、天から舞い降りてきて、無防備に沐浴する天女と、のぞきだけでは飽き足らずにその羽衣を盗んでしまう男、が登場人物。

 現在なら通報される事案だが、天女が男と結婚して子どもを設けるハッピーエンド型や、羽衣を見つけて実家に帰ってしまうアン・ハッピー型など多様な類型がある。

 発祥はインドのプルーラブアス王の話、という説もある。
 インド神話は構造が複雑で、多くは話中話の形をとったりする。「大いなる物語」と訳されるブリハット・カターは現存しないが、そのほんの一部である『屍鬼二十五話』でも結構な量である。

 羽衣とは、鳥の羽で作った軽く美しい衣で、今ならダウンジャケットに相当する。羽毛には、ダウンとフェザーがあるらしいが、あまり縁がないので区別がつかない。
 天女の羽衣は、ユニクロのフェザーだろう。

 天女を白鳥の化身とみて、異類婚姻譚(いるいこんいんたん)とする類型もある。
 人と動物、あるいは精霊などと結婚する説話群だ。

 インドネシアの東部からミクロネシアでは、女性に魚やイルカなどの水中動物の場合がある。
 ヨーロッパなどでは、白鹿や泉の精など、ご当地の事情に応じた異類譚のバリエーションがあるようだ。

イラストACより

背景にあった事実

 事実だった洪水伝説
 紀元前3000年ごろ、黒海(ヨーロッパとアジアの間にある内海)に面したトルコ北部のシノップで発生したとされる大洪水は、史実だと言われていた。

 2004年に行われた黒海周辺の大規模調査の結果、黒海が急激な異変を起こしたことがわかった。
 黒海の海底調査では、水深100メートルにかつての文明痕が発見された。

 これほどドラスチックな洪水でなくとも、近代に至るまでに人類は洪水に悩まされており、治水は大きな課題だった。
 大洪水伝説は、こうした事実に基づいたものだろう。

 過去の遺物の解釈を誤った巨人伝説
 
多くの人類学者は巨人の存在を、別の動物の骨をまちがえて解釈した、と考えているようだ。なかには、恐竜の骨を持ち出す説もある。

 しかし、イタリア半島の西、エーゲ海のサルデーニャ島には5000年前のものとされる「巨人の墓」がある。
 墓から出土した顎と歯の大きさから、3メートルの身長がある人骨だそうだ。もちろん「ムー」情報である。

 インド発祥の羽衣伝説
 羽衣伝説は、インド説話が仏教の経典などとともに広がった、ものとされている。
 だが、北米や南米にも同種の伝承があり、人間の根源的な願望のあらわれなのかもしれない。

 もちろん、異星人の来訪仮説も排除してはいない。

 世界に共通する伝承、神話のモチーフには魅力的な展開があって興味が尽きません。
 これらの神話とDNA分析を比較すると、これまた面白いことがわかるのですが、また機会を改めて・・・

#大洪水伝説 #巨人族 #羽衣伝説 #比較神話学

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