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【科学夜話#12】ノーベル賞をもらったクラゲの謎

 ノーベル賞を受賞したのは、クラゲではなく下村脩さんですね(2008年 ノーベル化学賞)。
 近年では、専門の水族館も誕生するなど、その癒し効果に注目されるクラゲ。
 下村さんがノーベル賞をもらったのは、クラゲがもつ蛍光タンパク質を見つけたからです。でも、ただ珍しいものを発見したから、ノーベル賞をもらった、という受け止め方をしていませんか?
 クラゲの蛍光タンパク質が、生物学を変えるほどのインパクトをもったのはなぜか? 不思議なクラゲ効果を調べてみました。

(見出し画像はPixabay Enrique MeseguerによるPixabayからの画像)

意外に光っている夜の海

 いきなり自分の事を書いて恐縮だが、私は子どもの頃ひどい喘息もちだった。だから自分が一生行くことがないだろう、海の中に興味があって、クストーのテレビ番組などをよく見ていたものだ。

 大学の夏休み、一大決心をして○○海中公園センターで一ヶ月住み込みのバイトをやらせてもらった。
 そのとき、仕事に必要なスキューバ・ダイビングを教わり、夜の海に潜るナイト・ダイビングも経験もした。初めての体験で、ドキドキしながら入った暗黒の世界は、寝ている魚など興味深いもので一杯だった。

 真っ暗な海の底で岩壁に張り付いていると、連れてきてくれベテラン・ダイバーが懐中電灯を消すよう、ジェスチャーで伝えてきた。
 真っ暗になったとき、彼がコンコンとナイフで岩を叩く。するとそれに応えるように、岩肌が緑に光り、その光が生きているかのように流れながら明滅した。
 一生忘れられない光景だった。

 そのあとも、海辺で宿泊する機会があれば、夜の海で表面を掻いてキレイな夜光虫を見たりした。
 夜の海は危険もあるので、安全には留意する必要がある。しかしコツを知れば、夜光虫は意外に簡単に見ることができる。

オワンクラゲとは

 オワンクラゲ(御椀水母、御椀海月)は、春から夏にかけて日本各地の沿岸で見られる透明なクラゲ。大きさは傘の直径が20センチくらい。
 刺激を受けると緑色に発光する。

 受賞した年のインタビューでは、下村さんは十数年で85万匹のオワンクラゲを採取し、総量は100トンを越すだろうと語っていた。
 その後、捕獲したクラゲは100万匹以上という記載も多くなり、必殺技がインフレーションを起こすマンガのごとく、1000万匹を越す日も近い。

 このとき単離したタンパクが、イクオリンとGFP(green fluorescent protein=緑色蛍光タンパク質)。
 下村さんは、イクオリンの発見のほうに重きを置いていたようだが、ノーベル賞はGFPの発見と生物・医学界への貢献が評価されたもの。

 蛇足だがネットの黎明期、その技術で軍のミサイルを発射することもできる、と言われた伝説のハッカー、ケビン・ミトニックと頭脳戦を展開し、見事逮捕に貢献した下村努は息子さんだ。
 この戦いは書籍化され、映画にもなった。
 ジョジョのジョースター家のように、ドラマチックな家系というのはあるものなんですね。

GFPとはなに?

 一般的な日本人はNHKの教育によって、化学物質性悪説に深く染まっている。なので、薬好きな自然崇拝者が多い。
 だからまったく興味をもたないが、タンパクのような巨大分子と分子量が数百程度の低分子では、性質や挙動がちがっている。

 オワンクラゲの蛍光物質であるGFPはタンパク質で、分子量は約2.7万。
 ちなみに、消化管から吸収できる分子量は数百程度。特定の物質を吸収する経路以外で、巨大タンパクがそのまま体内に取り込まれることはない。
 しかし巷には、コラーゲンのような巨大分子を吸収し、翌日には体内で再構成してお肌をぷるんぷるんにする、ミュータントも多いようだ。

 一般的には、物が光るときにはエネルギーが必要だ。だから生物的な発光、よく知られる蛍の光には酵素反応が伴う。
 しかしGFPの特徴として、人の目に見えないような光を当ててやると、暗闇で緑色に光ることができる。
 目に見えない光は波長が短く、振動数が多い。たくさん振動しているのでエネルギーが大きいわけだが、GFPはその一部を吸収して振動数の低い、目に見える光として放射するのだ。

どうしてGFPはノーベル賞級なのか?

 GFPのようなタンパク質は、アミノ酸が繋がったもの。
 アミノ酸は20種類ほどあり、その芯となる構造は同じだが、横に付きだしている構造がそれぞれ異なる。
 そのため、繋がるアミノ酸の種類と順番により、できるタンパクの形が決まってくる。

 遺伝子DNAは、アミノ酸が繋がるの順番を記載したものだ。
 GFPの構造がわかったことで、その遺伝子も逆算して合成することができるようになった。
 この遺伝子を動物が生まれるときに、身体をつくる遺伝子に加えてやると、体表面にGFPタンパクが混ざった動物ができる。
 一時期、闇夜に光るマウスやネコといった動物が作られ、技術がアピールされたことを思い出す人もいるだろう。

 がん細胞に特異的なタンパク質にGFPを付ければ、がん細胞が体の中でどう広がっていくかを見ることができる。またiPS細胞の発見などにおいても、どの遺伝子が働いているかをGFPで知ることができた。
 なにより、生きた状態のまま見ることができるのが強みだ。

 これまでは、生物の体内でさまざまな物質の挙動を調べるには、目的物に放射性物質をラベルする方法がとられていた。
 むかしの医学・生物学の研究所には、放射性物質を扱う隔離施設が必要だった。研究者は放射性物質を扱う免許を取得したりして、対応する必要があったが、今ではGFPなど蛍光物質が代替してくれる。

 しかし前述の光る動物などは、科学技術がもたらす恐るべき未来を喧伝する機会にもなった。
 そして我が国では、技術の医療分野の「恩恵」はあまり考慮されず、「警鐘」ばかり響くようになる。畏れを抱いた人々は、この技術による医学的恩恵を遠ざけ、怖れることがインテリジェンスと勘違いするようになった。
 正しく怖れることは必要だが、今ではデマを広める媒体に事欠かない。

 こうした先進技術に「警鐘」を鳴らし続けた知識人やミュージシャンなどは、ちゃっかり海外で高額な先進医療措置の「恩恵」を受けたりしているのだけどね。


 GFPは1960年頃に下村さんが発見し、その応用が定着した2008年にノーベル賞が授与されました。
 これと同じように、過去の発見をベースにノーベル賞を受賞した技術にPCR (polymerase chain reaction 1993年受賞)があります。
 あと出しジャンケンですが、1950年代のDNA合成酵素の発見時代に、すでに技術基盤はあったと言えます。

 PCRは、コロナの検査法と思っているかもしれませんが、遺伝子の増幅法です。
 PCR法の医学領域への貢献は大きなものです。
 しかし、私のような天の邪鬼な爺は思うのですが、『PCRをウイルス検査に摘要しなければ、人々はコロナ禍に気づいただろうか?』

 コロナのウイルス名は"SARS-Cov2"。あまり話題にならなかったSARSの改訂版。
 コロナの感染者数には驚きますが、ほとんどは無発症もしくは軽症。亡くなられた方はお気の毒ですが、コロナと診断されなければ『肺炎』。
 実際、その前年までにコロナ程度の「なんだか今年の風邪はしつこい」な年はあるのです。

 『技術の功罪』の観点からみれば、コロナ禍で沈下したGDPや影響を被った業界もあります。デマによる過剰反応もやむを得ない側面もありますが、病気の本質に見合った対応だっただろうか、検証が始まるでしょう。

 政府の対応が悪い? 補償しろ? でも日本は、予算の元になる国債を日銀が引き受ける国ですよ。
 父さんの借金を母さんが払うが、彼女が稼いでいるわけじゃない。借金を先送りして多額にし、子どもに払わせる未来図なのですが。。。

#クラゲ #ノーベル賞 #GFP #下村脩 #PCR


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