【猫噺#19】変顔の猫(フレーメン反応)
猫飼いさんなら、猫が「くっさ~」と目を見開き、口を半開きで固まる「フレーメン反応」を知っていると思います。
猫以外にも馬や羊、犬にも見られるフレーメン反応ですが、これにはちゃんと理由があります。
臭いからひもとく猫の行動をご紹介します。
猫が臭い物を嗅いだときどうなるの?
◆「くっさ~」の変顔
猫と暮らしていれば誰でも、足の臭いを嗅がせた、または理由はわからないけど臭いを嗅がれたことがあるはず。
猫が目を見開き、口を半開きにして「くっさ!」。
数秒間固まったあと、「でももう一回嗅いでみたい。やっぱ、くっさ!」というのを見たこともあるだろう。
◆猫以外でもあるフレーメン反応
これが、「フレーメン反応」と呼ばれる変顔行動。
フレーメン反応は猫だけでなく馬や羊、鹿などの蹄のある動物でも観察される。
馬などでは上体を起こして首が伸び、歯や歯茎が現れ嘲笑しているように見える。
ドイツ語の「嘲笑う」(Lachen:ラッヘン)仕草(上唇をまくれ上がらせる)のザクセン古方言(フレーメン)が、名詞として使われたのが語源らしく、「フレーミング、フレーメニング」とも言われる。
猫の仲間では、トラやライオン、そして犬も理由があってこの表情をする。
フレーメン反応をする理由
◆もうひとつの嗅覚を働かせている
猫などには鼻の嗅覚以外に、鋤鼻器(じょびき)あるいはヤコブソン器官と言われる嗅覚器がある。
この器官の吸入口があるのは、ふだん閉じられている口の中で、前歯の裏側あたり。
猫や馬がこの器官に臭いを引き入れようとすると、口がぽかんと開いたフレーメン顔になる。
◆なぜ臭いを嗅ぎたいのか?
①発情期を知るため(オス)
猫ではオスにフレーメン反応がよく見られる。
哺乳動物のメスには性周期があり、発情期を逃さず交尾しなければ繁殖できない。
このため、オスはメスの性フェロモン臭をしっかり嗅ぎ分ける必要がある。だから鋤鼻器を使ってよく嗅ごうとすると、あの変顔になる。
②メスの理由は発情期を同調させるため
メスの場合の理由は、他のメスの性フェロモンを嗅いで発情周期を揃えるため。
動物は幼いときに捕食者に狙われやすい。だから発情周期を揃えて一斉に子どもを産み、少しでも生存確率を高める、という戦略なのだ。
③哺乳類以外の動物は捕食のため
トカゲなどが舌をペロペロ出し入れするのは、臭いを鋤鼻器に取り入れているため。
この器官が口の中にあるのは、食べ物の臭いを識別するというのが理由なのだが、哺乳類では性フェロモンを嗅ぐ用途に特化したようだ。
④マーキングの確認
猫が飼い主さんに頭突きしたり、体をスリスリしたりするのは自分の臭い(フェロモン)を付けるのが主な理由だ。
自分の縄張り内にマーキングし、臭いを嗅いで確認するのが猫の習性。食べ物を運んでくる便利な飼い主さんは、オレのもの!ということ。
オス猫が反応するもうひとつのフェロモンは、尿の臭い成分である。
なぜ足の臭いでフレーメン反応するのか?
◆足の臭いは猫のフェロモンと一緒
メス猫が発情したときの性フェロモンは、ラクトンと総称される環状の有機化合物。またオス猫が縄張りでする尿スプレーの臭い成分は、硫黄を含むチオール化合物。
足の臭い成分も同じ硫黄を含むチオール化合物なので猫が反応し、よく嗅ごうとしてフレーメン反応を起こす。
◆女性に多いチーズ臭
男性の加齢臭成分はノネナールなどのアルデヒド化合物で、雑巾の悪臭。
残念なお知らせだが、女性の足の臭い成分はバクテリアなどによるチオール成分が多いので、チーズ臭と言われる。チーズ菌の作用と同じ理由で、似た臭いがする。
つまり「オヤジ~、加齢臭がくさい!」と非難する娘さんのブーツ内の蒸れた足の臭いは、猫のおしっこに似た臭いなのだ。
それを猫が変顔で非難しているわけ(?)
オス猫でもフレーメンしたがる猫と、フレーメンしない猫がいるようで、ウチだとCoCoが割とよくフレーメンしている。
フレーメン反応を誘発するマタタビ
◆マタタビやキャットニップ
猫を夢中にさせるマタタビやキャットニップに含まれるのは、ラクトン化合物で猫の性フェロモンに似た化合物。猫はマタタビにも反応して、変顔をすることがある。
植物は受粉の助けが必要なとき、この成分で猫を惹きつけて利用するのだ。植物成分は必要なときだけ働き、すぐに体内から離れるのでマタタビの作用は一時的。
マタタビは人に対する麻薬のようなもの、と思い込んで嫌がる方もいるようだ。
しかし、マタタビにはストレス解消や、食欲増進の効果もある。
またマタタビには蚊が嫌う成分が含まれており、猫が体にマタタビを擦りつけるのは、伝染病を媒介する虫を寄せ付けないため。
妊娠中の猫にはよくないが、猫がマタタビ好きで変顔になるのには理由があるのだ。
ある種の植物を加熱するとできる麻薬成分は、マタタビ成分に構造が似ている。しかしマタタビと違って、体内から離れにくいので作用が長く持続する。だから有害になる。
◆猫を安心させる臭い
猫が不安なために尿スプレーなどの問題行動を起こすとき、フェロモン物質を噴霧して止めさせる方法がある。
安心することで問題行動をしなくなる、と考えられる。
人間にもヤコブソン器官の痕跡はあるが、神経伝達機能は退化していると言われます。なので人間には、昆虫や猫のように速効性のある媚薬フェロモンはない、とされる。
しかし人間にも性周期があり、本能に根ざす行動原理があります。だから異性の気を惹くのに有効な、香料の使い方があるのです。
さらに不安感を高め、動悸を速くする香料を加えると「吊り橋効果」によって、異性から好かれる作用が強くなります。
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