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【映画の噺#4】説明せず描くとは?「SUPER 8」

 ちょっとひねったSF映画が得意な、J・J・エイブラムスが脚本を書いた『SUPER8/スーパーエイト(Super 8)2011年 米国』は、ノスタルジックな1970~80年代のオハイオを舞台にしています。
 8ミリカメラを使って、自主制作映画を創ることに熱中している少年たちと、大人との関わり、初恋、陰謀・事件を描いています。
 ある年代、今のようにデジタル化していない、8ミリフィルムがカタカタと回る音が懐かしい世代には、刺さる映画となっています。

(見出し画像のImage Souse='Super 8' Was Ahead of Its Time (vulture.com))

パブリックドメインQより

ストーリーの冒頭

 映画の冒頭、主人公の少年ジョー(ジョエル・コートニー)が寂しげにブランコを漕いでいるシーンから入る。
 彼の家で葬儀が行われている。
 どうやら主人公ジョー・ラム少年のお母さんが、事故で亡くなったようだ。  
 葬儀に集まる人々の噂話から、少年の境遇、父親との折り合いの悪さ、その原因などが頭に入ってくる。

 小説であれ映像作品であれ、冒頭部分というのは気を使う。
 最初の1ページが、読者がその「作品」を買うかどうかの決め手になる。そして最後の1ページが、読者がその「作家」を買うかどうかの決め手になる。

 冒頭では、主人公がどんな人・モノ・モノノケなのか、わかるようにしなければならない。さらに惹きつけられるインパクトがなければ、人は観るのを止めてしまう。

 ベストセラー作家のクーンツは、「ベストセラー小説の書き方」のなかで、冒頭で主人公を困難に直面させろ、とアドバイスしている。
 ハリウッドのアクション映画は、たいていがこの手法だ。

 しかし、まだ感情移入していない主人公が、いくらピンチになろうと「他人事」で済んでしまうので、やはり魅力的な造形が必要だろう。

イラストACより

説明せず、描くとは?

 脚本のエイブラムスは、母親の事故詳細については、ばっさりカットしている。
 不必要なことは描かない。これが結構むずかしい。

 海外ドラマ『メンタリスト』の第一回では、最初に捜索のポスターが写されて、背後にいる両親の会見へと場面が移っていく。
 これだけで、娘が誘拐された両親が悲劇について会見を行っている、という状況が説明なしに視聴者に理解される。

 「説明」せずに「描く」というのはどういうことか?
 あるマンガ原作者は、初めての描き手と組むときは、相手の力量を探る仕掛けを施すという。
 例えば「お腹を空かせた主人公が道を歩いていると・・・」という原作に対して、あなたならどういう絵を描きます?

 大半の描き手は、台詞か思考の吹き出しで「腹減った~」などと言わせる。
 ところがある新人は、ファミレスのショーウインドウに見とれる主人公の姿を入れて、お腹を空かせていることを表現した。
 この新人は、のちに有名な劇画家になったそうだ。

 また「インパクトの強い書き出しから始めよ」と言うと、小説などの創作教室では生徒の多くが、主人公が死んだシーンから始める、らしい。

イラストACより

あの頃の8ミリ映画

『SUPER8』に話を戻すと、ジョーと友人達6人は、自主制作のゾンビ映画を作るため、線路脇で撮影を始める。

 そのとき、空軍の物資を運んでいた貨物列車と車が衝突して、大事故を引き起こす。車を運転していたのは、学校の化学教師で「今、見たことは口外してはいけない」と告げる。

 スーパー8というのは聞き慣れないが、米国コダック社のフィルムのこと。
 むかしは高校や大学の学園祭、となると出し物として8ミリ映画を撮って上映しよう、ということがよくあった。

 気の利いたヤツ、家にカメラがあるヤツが監督になり、クラス1の美少女にヒロインになってもらうよう説得する。
 そして撮影していくうちに監督がヒロインに惚れ、上演後に告ってフラれる、という定例行事が毎年のように行われたものだ。

 この映画のジョーたちも、ちょっと大人びた美少女アリス(エル・ファニング)を口説いて、映画に出演してもらうことに成功する。
 ウッキウキのジョーの姿を見るにつけ、「わかる!わかるぞ、オマエのその気持ち!」と抱きしめたくなってくる。

 しかしアリス家とジョーの家には、因縁があった。

WaldryanoによるPixabayからの画像

ロミオとジュリエット

 実はアリスの父親は飲んだくれで、彼女の父が二日酔いで出勤できなかったため、その替わりとして出勤したジョーの母が、事故に巻き込まれたのだ。

 ロミオとジュリエット的な設定だが、そこはアメリカ映画で全体のトーンは明るい。
 これにエリア51で捕獲された宇宙人、という都市伝説をモチーフにして絡ませており、ジョーたちはそれに係わる陰謀に巻き込まれていく。

 映画史に残る、というような傑作ではないが、自分的にはもっとも好きな映画のひとつだ。

 全体としてはさわやかな「ボーイ・ミーツ・ガール」ストーリーになっており、視聴後も後味が良い作品です。
 エンドロールで、ジョーたちが作中で撮っていたゾンビ映画が流れる、というサービス付き。
 しかしこの作品、宇宙人が出る必要あったのかしらん?とも思うのですが。

#SUPER8 #8ミリ映画 #SF映画 #J・J・エイブラムス

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