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コンビニ

「飲み物を買ってくる。」

そう言って、加奈子は部屋を出て行った。

加奈子がこのアパートに来たのはこれで2回目だ。
加奈子とは高校からの付き合いで、よく遊んでいたグループの仲間。
高校卒業後、大学進学で大半は上京をした。私と加奈子だけが地元に残った。
地元残り組の私たちは高校の時よりも仲良しになった。地元の新スポットにはほとんど行ったし、年に1回は旅行にも行った。クリスマスも誕生日も年越しも加奈子と過ごすことが多かった。
ただ、そこにはもう一人。加奈子の彼も時々一緒だった。

加奈子の彼も高校のグループの一人。真面目でクールで、正直何を考えているのかわからなかった。それでも加奈子が好きなら、幸せなら私は何も言うことはない。

初めて私のアパートに来た時も2人だった。
高校卒業から2年が経った、ある夏の日。地元を離れた私に会いに来てくれたのだ。

「いらっしゃい」
2人を迎え入れて、当時の話に花を咲かせる。あんなこともあった、こんなこともあった。昔話をツマミにお酒がどんどん進んで行く。次第にストックされていたお酒もお菓子も無くなってしまった。
「買いに行ってくるよ。」
加奈子が言った。よくわからないこの街を散歩もしたい、加奈子はニコッとこっちを見て彼と2人で出て行った。私は二人の邪魔もできず飲み食いしたものを片付けることにした。
しばらくして帰ってきた2人。近くにもコンビニがあったのに、わざわざ少し離れた所まで歩いたらしい。
「お散歩だから」加奈子は楽しそうだった。

この日から、1年も経たない内に加奈子たちは別れを迎えた。彼が東京で加奈子以外に女を作っていたらしい。電話での加奈子の声は力なく泣いた様子もない。感情がなくなってしまったかのように淡々と話をしていた。

あれから1年。
私たちの間柄は何も変わらない。いや、あの一件からさらに強くなった気がする。
感情を忘れてしまった加奈子と夜な夜な話をした。休みを使って加奈子に会いに行った。バカなことをたくさんした。美味しいものも食べた。加奈子の笑顔が見れたことが嬉しかった。

ガチャ

「ただいま〜」
「遅かったね」
「ん?・・うん」

置かれた飲み物の袋は、あの少し離れたコンビニのものだった。

「行ってきちゃった。」
へへ、と笑う加奈子の目は少し腫れている。次第にポタポタとその腫れている目からこぼれ落ちてきた。。
別れてから初めて見る加奈子の涙。

そうかそうか。
良くがんばったね。
震える肩を抱き寄せる。

泣きたい時は思いっきり泣いたらいい。

やっと加奈子に感情が戻ってきた。


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