大阪日記③

今年は雨がよく降る。
車の中から深々と降る雨を何回彼と一緒に見たのだろうか。

雨女。
前の彼氏にも言われたっけ。
仲のいい友達と遊ぶときはひどい。
しっかり予定を立てたときこそ台風になる。
40年ぶりの大寒波に旅行が当たったのは2人の力なんじゃないかと思う。

彼はよく喋った。
自分の恋愛観や仕事のこと、日常のことまで。
連絡もマメにするような人であった。
彼と付き合い始めたのは何回かご飯に行くようになってから。
お酒を呑んで帰ろうとした時に
『付き合おう』と言われた。
この言葉は嬉しいものだ。
ドキドキ心が騒ぎ出す。
しかし、嬉しいはずなのに、不安も一緒に迫ってくる。
それはいつものこと。
始まりのはずなのにもう終わりへと向かっていくのだと感じてしまう。
まるで1つゲームをクリアしたような感じだ。
少しの安心感と次のステージへの期待と不安。

一緒にいる時間は心が落ち着いて、愛に満ちていた。
彼のことをもっとよく知りたいと思った。
自分のことをちゃんと知ってほしいとも思った。
だんだん彼に夢中になっていた。
しかし、それに反比例するように彼は私から距離を取ろうとしていくのだ。
彼の言動は知らぬ間に私の心を侵食し始める。

付き合い始めて3ヶ月程経つ頃、出会った当初に約束をしていたサーカスを観に行った。
その日も雨。
目玉のホワイトライオンは餌の食べ過ぎで巨大な猫にしか見えなかった。
テレビで見る野生のライオンとは全く違う。
飢えを知らない。
人間に餌と縄で操られる百獣の王はなんだかかわいそうに見えた。
それから近くのショッピングモールでご飯を食べ帰路につく。
ポツポツ雨が降る、少し肌寒い日のことだった。

それから彼に会うことはたった1回だけである。
連絡は来るが、会うに到らない。
自分の役目は果たしたと言わんばかりに距離を取ろうとしていった。
そして終わりの日が来る。
サーカスに行った日からそんなに月日は経たない、2015年秋。
袖の長さが少し伸びた時期だった。

大阪に来て2回彼氏ができた。
どちらともワンクールの恋。
1回目は冷めたと言われ、2回目は会いたいと思わないと言われた。
今になれば笑い話だが、当時はだいぶへこたれた。
どちらとも自業自得なのだが、その時は見えない。
私の依存心が終息の種であろう。

誰かとの別れはそんなに私の心を寂しさへと突き落とさない。
“会いたいと思わない”という連絡がLineで来たこの距離の取り方に、話し合いの余地なしという拒否の仕方に私の心はズタズタだった。
もう一度会いたい。
未練ではなく、和解したい。
大阪へ来て仕事場以外での交流がほとんどなかった私は、私を拒否した相手にでさえまだ友達としての未練があった。
しかし、Lineの履歴もアカウントも消してしまった私は連絡の術は無く、ただただ彼と会える奇跡を信じるしかなかった。

だいたい会うのは職場の近く。
彼も同じ駅を使っていたので都合が良かった。
ならば、本当に奇跡が起きて会えるのではないか。
そんな淡い期待を抱いて私の通勤は彼探しに当てられる。
エスカレーターに乗っていないか、本屋にいないか。
そんな風に当たりを見回していると、ふと1つのことに気づくのだ。

…あれ?
こんなにイケメンて多いんだ。

ということに。
スーツ姿のサラリーマンからオシャレな服装のお兄さん。
さらに若いピチピチの筋肉大学生。

星の数ほど男はいる

こんな使い古された失恋時名言は本当だったのか。

下を向いていては気づかない。
1人を見過ぎでも気づかない。
世界の広さと人間の多さ。

ズタズタだったはずの私の心はイケメンというオアシスのおかげで少しずつ回復していく。

本当に少しずつ。
確実に。
私は私を取り戻していく。

続く

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