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狐おじさんの話




15年以上は経つだろうか。

ふと知り合いからこんな話を聞いた。


『狐が降りてきたおじさんがいる』
「え、それってどういうこと?」

興味を持った私は詳しく聞くことに。

そのおじさんは昔は床屋さんをしていたが
突然山から狐が降りてきて、
おじさんの中にスポッと入ってしまったらしい。

それ以降おじさんは霊感が冴え渡り、整体師に生業を変えたとのこと。



「うーん、なんだか怪しいな」

疑心暗鬼である私に畳み掛けるように知り合いは教えてくれた。

整体師としての腕は抜群で、スポーツ選手について歩いていたとか
霊感も強いため色々と視えてしまうから浮気の相談をした人には
「○○(スーパーだか、店の名前)に行ってみろ、そこで答えがわかる」と伝え
相談者が行ってみると相談者の旦那と浮気相手に遭遇しただとか。



うーん、聞けば聞くほど、興味深い。

ぜひ一度会ってみたいと思ったので私は知り合いにお願いをし連れて行ってもらうことにした。





紹介でしか辿り着けない場所、狐おじさん。

ホームページもないし、
ネットなんかそんなに普及している時代でも土地でもないので口コミ以外での集客方法はないらしい。

しかも本人は気難しい性格であるようで

「おじさんが嫌がるから狐の話は絶対に言ってはいけない」
口酸っぱく忠告された。

見渡しても緑、どこをみても山。

どんどん山の奥深くに連れていかれると
なんだか急に不安になってくる。

新幹線の止まる駅から車でおよそ3時間

山に囲まれた、田舎に降り立つ私。

住宅の横にある比較的広めの駐車場に車を停め、横道を歩く知人の後ろをついて歩いた。


なんてことない
住宅の横にポツンとあるプレハブのような家。

扉はガラガラと横に動かすタイプの引き戸で懐かしさを覚えつつ中に入ると既に何人かが待っているようだった。

『暗黙のルールとして口コミでたくさん人が来るから、来た順で見てもらえることになっていること』

『一人当たりの時間なんてものはないから、数時間待つこともあること』

この辺りは車の中でちゃんとレクチャーを受けていたため、ひとまず目の前にあるソファーに腰掛けて待つことに。





・・・・・・・一体何時間経ったのだろうか。

8時にこの場所についたから、まだ9時か。

光がさす部屋の中で、ソファーに腰掛け下をむき、待っている時間はなんだか時間が止まったような気分になってくる。


決して綺麗というわけではないが、不潔ではなくしかしながら無骨で。

時折、お線香のような匂いがフワッと漂ってくる。


なんだろう、この場所は。
一言で表すとしたら異質
でも、なんとも居心地の良い不思議な気持ち


田舎のおばあちゃんの家みたいだ。
永遠に終わらないと思っていた夏休み。

ラジオ体操は早起きしなくちゃいけないしめんどくさかったなぁ・・


やることもなく回想に耽っていると知人に肩を叩かれる

『順番だよ、行ってらっしゃい』


てっきり知人も一緒に行くものかと思っていたが
…そうか、私は一人で行くのか。

状況を一瞬で理解する中で、
ふと部屋の奥に目を向けると扉が開いており
その奥にちいさな人影が見えた。


『ああ、あの奥にいけば良いのね』



ソファーに沈み込んだ重い腰を持ち上げ歩く
扉の前で靴を脱ぎ、私は小上がりになっている畳の部屋へと自身を招き入れる

畳6畳ほどの部屋にはちいさな煎餅布団のみ
布団を挟んで向かい側におじさんが座っていた

『(今日は)どうした?』

笑顔もなく、
そっけない言葉を投げかけてくるおじさん。


「体をちょっと見てもらいたくて」
『じゃあ、そこに(横になれ)』

布団を指差すおじさんに従って私は横になることに。

私はぼーっとしていた。

なんだかソファーに座っている時から
始まっていたのだろうか
体を触られている中でも頭がぼーっとする。

やることといえばなんてことない整体である。

体を一通りおじさんは触り、気になるところを
「グッと伸ばす」「グッと押す」を繰り返す


『右側がずれとるな。生理が辛いだろ?』
「ああ、そうなんです。(生理痛が)2ヶ月に一度、重たくて」
『だべな。ずれとるから』


言葉少なく、施術は進んでいく。


その時の私はそこまで体に不調を抱えていたわけでもなかったので有難いことにすぐに体感としてはあまり感じないという具合であった。

しかし、
なんとなくおかしいのは骨が動いている感覚。

今までの人生の中で骨が動く(動かされる)という感覚を味わったことがなかったためなんとも奇妙な具合。




15分ほどであろうか。
『もういいぞ』とおじさんに言われ
体を起こし、向かい合う形に。

「今日はありがとうございました」
正座のまま頭を下げ、顔を起こした時だった。


ん・・・?
目の前に狐がおる。

イメージイラスト、実際は動物の狐さんでした



白色だろうか
グレーなのだろうか
外から入る光のせいで色が見えない

でも、たしかにそこにちいさな狐が目の前に座っているのだ。

にーっと笑ったような目をしたちいさな狐さん

びっくりした私はもう一度顔を下げた。


「いやいや、目を合わせないのは失礼だろう」と瞬間的に頭を起こす。


するとそこにはもう狐はおらず
ちいさな部屋に祭壇があり、
その横におじさんが座っていただけであった。


祭壇なんかあったのか・・
そう大きな部屋じゃないのに。
なぜ私は入った時に気づかなかったのだろう。
そうか、このお線香の匂いが香っていたのか。

現実に戻され急に申し訳なくなってくる

ギョッとした顔をしてしまったことにおじさんは気づいただろうか。
変な顔をして、おかしいと思われなかっただろうか

瞬時に色々と考えている私におじさんは

『またこい(来なさい)』


その一言でハッと我にかえり
もう一度ペコっと頭を下げ部屋を出た。




待合室の時計を見ると、
もうお昼を過ぎていた。
私が部屋に入った時間は10時過ぎ・・・
2時間も部屋にいたことになる。

知人に終わったことを告げ帰路に着く。


『(おじさんに)なんて言われたの?』
「特に何も。「また、こい」って言っていたかな」
『ええ、珍しい!うちのお父さんには「もうくるな」って言ったんだよ』



そこから15年、最近ではおじさんには会えていないけれど多い時には年に数回会っていた。


会うたびにおじさんはほんの少し気さくになっていき最後にお礼を伝える時にいた狐は最初からいたり、帰りの時にいたり、
その時によって違うようだった。


おじさんは何年経っても見た目が変わらなかった。

きっと狐がいるから、歳を取らないんだろう。
そんなことを待合室で出会った人から教えてもらった。

おじさんの奥さんと思われる女性は
たまに遭遇するたびどんどん老婆になっていたしお孫さんと思われる小さな子は気づいたら小学校に通っていた。

おじさんのプレハブ小屋横の山には
鳥居がたくさん経っていた。

狐の家はここなのかと後から気づいた。



私はおじさんと最後に会った時に言われたことが今でも脳裏に焼き付いて離れない

『おめはここさすめばいい(お前はこの土地に住めばいい)』



これは私が占い師になる随分と前の話。

私の大切な、想い出の話。






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