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通りすがりのあなた 感想

著/はあちゅう  2017年9月刊行

 表紙に惹かれて、書店で何気なく手に取った本である。はあちゅうという人物が小説を書いている事を初めて知った。しっかりとした小説が読みたい気分で、すぐに棚に戻そうと思ったが、帯の"お互いに許容する社会"という著者の言葉に惹かれて購入した。個人的に最近、ある人との関係で"許容"について悩むことがあったからだ。

 ストーリーは7編に分かれており、舞台は日本であったり外国であったり。限られた期間に時を共にした、名前の付け難い関係性の「あなた」との物語。共通点は、女性視点である事だろうか。

 外国でのシーンも多数登場するが、情景描写が丁寧であり、著者のバックグラウンドや経験が織り込まれているのであろう。また曖昧な関係も、飛躍しすぎたものではなく、リアルな世界でも起こりうるものだろうと想像できる違和感のない心地よい設定で、心情に没頭できる良い作品であった。

 本編と解説の間に、エンドロールのようなものという著者のメッセージがあった。この小説は"曖昧なものを、曖昧なまま残しておくのもいいんじゃないかという私なりの提案"だそうだ。なるほど。

 わたし自身はっきりとした性格で二十数年生きてきた。しかしこの年齢になると、社会的立場や人間関係が複雑化し、白黒ではどうしても生きていけないことに気づく。生きていると曖昧さの許容が求められる。曖昧さを許容しないということは、歪みを生む。正しいことと正しくない事の世界には当てはまらないものが、この世界にはあまりにも多すぎるのだ。曖昧さを受け入れることは、不安であり時に不快である。曖昧さというのはマイナスと隣り合わせだ。ただその曖昧さを、楽しむことが出来れば人生は幾分色づくであろうことに、この小説は気づかせてくれる。

 曖昧さを楽しむ、私には出来るだろうか。冒頭で述べた、個人的に許容したいと望む一方で、許容できないとも思う、ある人との関係。まずは曖昧なままにしてみようか。曖昧さを受け入れ、少し身軽になった明日は、新しい私らしい世界なのかもしれない、と思わせてくれる一冊であった。

#小説 #通りすがりのあなた #はあちゅう #感想 #講談社文庫

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