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公証役場〜サレ夫の話19〜
人生初の公証役場である。
中は役所の出張所のような感じで、受付の対応も極めて事務的だ。
こちらは様々な思いを経て、今この場所にいる。
だからといって事務員に何かを求めるわけではないのだが、何というか、情緒的な何かがあったらあったで違和感はないと思った。
取り扱っているのは不倫問題だけではないことをこの時は忘れていただけなのだが。
公証人は厳格な雰囲気が漂う初老の男性だった。
時間より早く来ていたからか、別室に案内されて着席してしばらく、まだ隣は空席だった。
じきにHが入室した。
H「この度はすみませんでした。」
日頃から子供に対して"気持ちが入っていない謝罪は意味がない"と教えていたが、まさにHの謝罪はそんな印象を受けた。
なぜなら謝罪はこの時初めてだったし、こんな時は深々と頭を下げて「申し訳ありませんでした。」と言うのが一般的だと認識している。
私「はあ…」
謝罪に対してこんなに気持ちの悪い返事をしたのは初めてかもしれない。
やがて公証人が着席し、事が始まった。
すると冒頭で突然、
H「録音させてもらっていいですか?」
これには公証人も驚きを隠せない。
これから録音するであろう内容は、全てこと細かに書類になるのだ。
この段階での録音は全く意味がない。
公正証書にしたい書類は私が作成していたし、ほんの細かな修正を加えるだけなのである。
書類は事前に郵送して公証人も目を通していた。
それでもどうしても録音したいなら好きにしたらいいけど。
終始滞りなく、内容も双方合意で終わった。
もうHと会うこともない。
我ながら実にスムーズな手続きだった。
公証役場を後にした。
いつ振りだろうか。こんな晴れやかな気持ちになったのは。
長いトンネルをようやく抜けたのだ。
妻と離婚する気はない。
妻も離婚は望んでいない。
妻次第だが、これから2人目をどうするか考えられる日が来ることを願っていた。
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