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向いている仕事

 ひさしぶりに会った友達の羽振りがよかった。

 お互いの結婚や出産でいつの間にか連絡すら取らなくなった友達のひとり。

 偶然街で会ったから、まあお茶でも、と軽くお茶をする事になった。

 見ると彼女が持っているのは高級化粧品の紙袋。それも大きな方の紙袋。中にはきちんと封をされたデパートの包み。

 化粧品はその人の生活レベルを表すものだと思っている。ブランドバッグは高くても残る。終わったりしない。どんなにくたびれてもそこには使った日々の思い出や愛着が残る。メンテナンスもできる。

 だけど、化粧品は消耗品で、毎日使うものだから使った分だけ減る。1回買っても永遠には使えない。1滴も出てこなくなるのだ。

 御守りではないのでちゃんと使わなければ高級化粧品でも効果は発揮しない。

 だからその化粧品を使い続けられるレベルがその人の生活レベルなんだと思っている。もちろんこれはただの持論だけれども。

 高級化粧品が気になりつつも、今のお互いの話をして空白の時間を埋めていく。

 聞けばご主人とは別居中だそうで、彼女は仕事もしていないという。仕事をしていなくても高級化粧品を買える資産があるのだなんてうらやましい。

『ごめん、、時間だから後少しで行かなくちゃ』そう言って彼女は早口に自分の事を話し出す。

『パパと待ち合わせなの。』

『これもパパにお小遣いを貰って買ったの』と、高級化粧品の紙袋を指差した。

 私の心を読まれた気がした。

 パパだなんてどこで見つけるの?その人何をしてるの?その素敵な服もバッグもパパなの? 

 この際だから全部聞いてやろうと思った。きっと彼女も話したくて自分から口を開いたのだから。

 パパは社長だけど、ほんとは私も仕事をしていて1時間1万円もらえる仕事。だからバッグは自分で買ったと彼女は話す。

 色々と頭の中を駆け巡ったけど口には出さなかった。かわりに出たのは、1時間で1万円貰える仕事?そんなのあるの?すごいね。と いう言葉。

『デリヘルだよ。』

『本番はないし、お喋りできるし、自分のペースで仕事できるし。ほら、私、黙々とする仕事は向いてないから。』

『デリヘルは私にむいてると思ってるよ』


 うん。

 確かにそう思う。昔から常に人恋しくて、寂しがりで、人の懐に入るのがうまくて、なんというか懐が深い人だったから。

 デリヘルを彼女にむいてる仕事と納得した自分に驚いたけど、心からむいていると思ったのは彼女を見下したわけでもなく、ほんとにフラットに彼女の性格とコミュニケーションの部分でマッチしていると思ったから。

 コミュニケーションをとって、触れ合って寂しさを埋めあって疑似の恋人ごっこができるデリヘルのお仕事はほんとにむいていると思った。どうしてもそれしか選択肢がなくて嫌々やっているのなら止めたのかもしれない。

 でも、大人として色々経験した中で選んだ仕事が自分に合っているなんてよかったね、って思った。

 彼女の寂しさが埋まるなら、現実を少しでも逃れられるなら。癒されるなら。どんな職業でもそれでいいと思った。

 家族がかわいそう、なんて安い言葉はかけられない。当事者にしかわからない。私は部外者だし、私に批判されるために秘密を教えてくれたわけじゃない。むしろ批判されないとわかっていて告げたのだから。そのくらい私達は昔のお互いを知っている。


 こんなご時世だから身体だけは気をつけて。


 それしか言えずに彼女を見送った。

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