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七月の夕景は君を恋う(葵木ゴウ)

遥か空の彼方から どうか君へ
「忘れたい」と縋った夕景より 伝えたい事がある
下手くそだけど勘弁な
じゃないと君はそうやって泣いたままだ
あの日に囚われたままなのだ
僕らの夏を終わりにしよう

梅雨明けのニュース
前髪がうねる
それを指差して笑う
君も大差ないのに

オンボロのチャリに
ふざけた名前をつけて
ニケツで駆け出した
七月の夕暮れ

出会いも別れも真夏のゲリラのよう
見慣れた風景もほんの数秒で
その姿を変えることでしょう

刹那的だったとはいえ
これまでの軌跡を"思い出"って言葉でしか形容できなくて
その事実に吐きそうだ
向こうの入道雲はもう君に会えないと悟った僕の心
もうそんな顔で泣くな 君よ

好きだって言ってた割るタイプのアイスも
君が全部食べていいんだよ
味も好きにしな

「来年の夏もはんぶんこずつね」
そんな些細な約束も果たせないのだ
もう

時間の流れは容赦なくて
"思い出""約束"も解けて
ただ、それはそうあるべきで
分かってるのにね

新たな出会いもあるでしょう
正直、耐え難いよ
でも 君が笑える未来がいいよ

雨が降る

買い食いした行き付けの駄菓子屋も
寂れた第一公園もキスも
駅舎も校庭も
全て洗い流すんだ
この天気雨が僕の精一杯だ
「忘れたい」ってその感情もそうだ
荷物になるから

ほら、どうした 早く行け
もう二度と立ち止まるな 振り返るな
やがて七月の向こうへ駆け出した背に手を振った
"この夕景の赤はまだ君に恋い焦がれる僕の熱情の色"
もう聞いちゃいないよな

さらば 君よ

在りし夏よ

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