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2019ベスト10本 下

  では2019年ベストの後半戦です。王道エンタメ、青春クライム、人生賛歌、それぞれ癖があって見応えあるものばかりです。

鉄道運転士の花束

鉄道運転士

 鉄道運転士のイリヤは日々黙々と仕事をこなす。人を轢くこともあるが、花を携え、逃げることなく仕事に向き合う。人生の多くを線路の上で過ごしてきたイリヤだが、ある日、自殺願望の家出少年を引き取って育てることになった。人を殺してきたイリヤが向き合ったひとつの命。人生とは、かくも不思議なものだった . . . . . . 

 「私に罪はない、でもお悔みを」。この作品の精神性を表すのに、これ以上の言葉はないだろう。淡々としたトーンで描かれるイリヤの人生は、シュールなユーモアがあふれつつ、「罪のない殺人」という題材に真摯に向き合う。ふざけることなく、感情に流されず、冷静に、でも愛情深く、そんな心地良い1本。

永遠に僕のもの

カルリートス

 17歳のカルリートスは退屈そうに日々を過ごしていた。街をぶらつき、盗みを繰り返すが、満たされない。ある時、不良と言われている青年ラモンと出会う。盗品売買のつてがあったラモンと組んで、豪邸に忍び込むと、住人に見つかってしまった。咄嗟に銃を向け引き金を引くカルリートス。初めて見た人の死は、あまりにあっけないものだった. . . . . .

 世間を熱狂させた伝説の殺人犯をモデルにしたこの作品の主人公は、童顔ながらも飄々としたまさに美少年。危うさ、狂気、でもその本質は死生観が異質なだけの、ひとりの子どもだった。赤ブリーフにだらしないお腹という視覚でみせる幼さと、あっさりと人を殺す人間的な幼さ、カリスマ犯罪者という一面的なカッコよさで捉えない描き方が魅力。

ドッグマン

ドッグマン

 イタリアの片田舎でドッグサロンを営む、大の犬好きマルチェロ。近所の友人と雑談し、ひとりの家に帰り、たまに離れて暮らす娘と会う。平凡な日々、華やかではなく、清貧とした生活だ。ただ、ひとつの暗い影があった。狂暴で利己的な男シモーネは友人だったが、街の厄介者でもある。断り切れず、ある儲け話に協力させられたマルチェロは、街の人たちからの信頼を失くしてしまう。気の弱い、普通の人間が理不尽に飲み込まれていく . . . . . .

 薄暗い天気、冷たく硬いコンクリート、さびれた街、不安にさせる景色は、私たちの見覚えのある現実だ。金持ちでもない普通の男が、ただ小心者だったというだけで人生が転落していく様は非常に居心地が悪くなる。淡々とした不条理を生々しく描き尽くしたこの作品に、あなたは何を感じるだろうか。

僕たちは希望という名の列車に乗った

希望という名の列車

 ベルリンの壁が建設される直前の東ドイツ、製鉄所労働者の子のテオと、親友で議員の父を持つクルトは官僚養成用のエリート高校に通っていた。「自由な社会」を夢見る2人はハンガリー動乱を知り、連帯を示そうと犠牲者への黙祷をクラスに呼びかける。2分間の沈黙。それは権力への宣戦布告となる . . . . . . 

 時代と場所の設定がすでに面白い。思想、正義、アイデンティティ、衝動、家族、人生、友情、政治の狭間でもがき、揺れて、叫ぶ人間たちの生き様を描いた傑作。思想や育ってきた環境が違う友人への戸惑いや、学生生活と政治のギャップなどあらゆる要素が生々しく盛り込まれている。壁建設後の作品は多いが、建設前がどうだったかを描いているのが新鮮。学生だけではなく親たちの思いも描いているのが良い。

蜜蜂と遠雷

蜜蜂と遠雷

 若手ピアニストにとっては登竜門といえるコンクール。怯える元天才少女の亜夜、生活感漂うサラリーマン明石、完璧を求めるエリートのマサル、「ピアノの神様」のお墨付き、塵。ピアノを前にして求められるのは才能か、献身か。狭い世界で繰り広げられる熾烈な競争に挑む彼らの行き着く先とは . . . . . .

 音楽の世界で頂点を極める王道エンターテインメント。「戦う」というよりは「技を競う」様を見せるストイックな演出だ。競争と探究のなかで成長していく参加者の心情面を描く脚本と、コンクールの激烈さ、緊張感をみせる映像の相性が抜群。説明しすぎないところや、シンプルな終わり方とかセンスの良さが感じられる。

コメント

 以上、2019年の厳選10本でした。蜜蜂と遠雷は、観終わった後の爽快感がたまらない1本。実写エンタメでは洋画含めて2019年で一番かもしれないです。鉄道運転士は、時間がたまたま丁度良かったので観ただけなのですが、これが面白い。ストイックすぎず、ふざけすぎない空気感にはまりました。やはり事前情報なしで観るのが至高です。

 2020年は年始からカンヌでパルムドールを獲ったパラサイトが公開され、他にも注目作品が多くあります。Netflixも良いですが、たまには大画面で、映画館という映画のためだけの空間で観てみましょう。

画像出典一覧(映画順)

(http://tetsudou.onlyhearts.co.jp/)(https://gaga.ne.jp/eiennibokunomono/)(http://dogman-movie.jp/)(https://www.youtube.com/watch?v=bFBqvD98Jvw)(https://mitsubachi-enrai-movie.jp/)

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