ある女優の不在

映画『ある女優の不在』

 イランの国民的女優ジャファリの元に届いた1本の動画。女優志望という少女が助けを求めるものだったが、動画の最後に少女は自殺を図る。動揺したジャファリは、何があったのか確かめるために映画監督のパナヒと少女の村を訪ねた。親切に接してくれた村人に話を聞くと「あのわがままなバカ娘か」「女優など役に立たん」と辛辣な言葉が飛び出す。ジャファリは少女の窮状に思いを寄せる . . . . . .

 政府、社会、差別に反抗するパナヒ監督による巧妙で切実なロードムービー。都会に住み、インテリ層の主人公2人は、観客の代理のような存在だ。保守的・閉鎖的な田舎の村に、観客は訪れ、村人の思想と道徳と文化に直面する。反知性・偏見・男尊女卑・経済格差・生活習慣・伝統が複雑に絡み合う様を生々しく描きつつ、他人事ではいられない現実を観客に突きつける。押しつけるわけではなく、現実の複雑さと、やるせない感情を絶妙なバランスでみせる傑作。

2019年 監督 ジャファル・パナヒ 主演 ベーナズ・ジャファリ

 村人の反応や話し方、体裁と本音の使い分けなど、田舎の村の実態をここまでリアルに見せる映画はなかなかないでしょう。よくある、ノスタルジックでのどかな田舎村という妄想と偏見満載の描写に辟易している人は是非見てください。車に設置されたカメラの視点が多いこの作品は、パナヒ監督の他の作品と同様にかなりドキュメンタリーチックで、主人公の2人に同行しているような錯覚があります。そのせいか、2人が村人と接触するときはやけにハラハラさせられ、心配になりました。イラン社会の一部分が見られるこの作品は、どんな人にも一見の価値があります。

画像出典

(http://3faces.jp/)


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