見出し画像

謝罪の流儀

共創アカデミーの小林です。
今回は、私の過去の経験談から、「謝罪」をテーマにお伝えいたします。

1.謝って済む問題じゃない

 かつて某ITベンダーの自治体システム部門長だった時に、大変なトラブルに直面したことがあります。
20XX年、大規模な税制改正がありました。
某市税システムのシステム改修を受託した当社は4月稼働に向けて開発作業を追い込み中でした。
しかし直前の3月になって、大幅な開発遅延が発覚し、スケジュール通り稼働が間に合わないということがわかったのです。
顧客トップの副市長への謝罪訪問の際、次のようなやり取りとなりました。

わたし:「大変申し訳ございません。4月稼働が間に合いません。現時点では貴市へのサービス開始の予定をお伝えすることができません」

副市長:「目途が立っていない。どういうことだ!いつになるのかはっきりさせろ。」

わたし:「申し訳ございません」

副市長:「謝って済む問題じゃない。何とかしろ。一体原因はなんだ!」

わたし:「品質改善の目途がたっておらず現在原因を究明中です…」

副市長:「原因がわからない?ふざけるな。なんとかしろ!」

わたし:「・・・・・」

2.謝罪会見の事例

このような住民サービスの遅延は記者会見に進んでいく可能性があります。(なお本件は記者会見には至りませんでした)

「私は寝ていないんだ」で総スカンを食った雪印乳業の石川哲朗社長、食品偽装事件の船場吉兆のささやき女将(返答に窮した長男に対して発言を指南しその囁く声をマイクで拾われてしまった)、一方で「部下は全く悪くないんです」と号泣しながら、その真摯な態度が心に響いた山一証券野沢正平社長、などを覚えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

2022年度の記者会見に至った謝罪事例を列挙すると下記のようになります。

この中でSMBC日興証券の近藤雄一郎社長の謝罪は「棒読み」で感情がこもっていないためSNSで叩かれたと同時に、株価も大幅に下がりました。
一方でKDDIの高橋社長の謝罪は、記者からの技術的な質問に対しても、社長自らが自身の言葉で答えており、SNSで評価の声があがりました。

残念ながら人間のすることに失敗はつきものです。
今後も様々な企業で同様のケースは数多く発生するでしょう。
しかしこのような場面のOJTは難しいし、そのような余裕もありません。

防災訓練のようにいざという時、「正しい謝罪の仕方」をわきまえておくことによって、「最悪の状況における最善の結果」を導くことができるのではないでしょうか?

3.謝罪の2つの目的

謝罪には2つの目的があります。1つ目は「自分=自社の非を詫びる」というものです。相手の怒りの原因が自社にあるのですから、この謝罪目的は顧客との関係修復であり焦点を当てるところは「自社側のミスや落ち度」です。2つ目は「相手の感情を鎮める」というものです。相手の怒りの原因が自社にないとき(不可抗力や原因不明)の謝罪です。この謝罪目的は、問題解決の糸口となる話し合いに、相手を導くというものです。焦点を当てるべきものとしては相手の怒り、相手のおかれた立場を理解して対応する必要があります。

4.謝罪の3大ポイントを頭に入れる

この2つの目的を踏まえて、3つのポイントを頭に入れ交渉テーブルに臨む必要があります。

1つ目は「相手の感情が高ぶっているときに、状況説明をしても逆に火に油を注ぐ」ので、感情が鎮まるまでは誠実に謝る。怒る相手のサンドバックに徹することが重要です。

2つ目は、その後相手の感情が鎮まり、沈黙が訪れると、「相手から話し始める」可能性が高い。その相手の言葉を傾聴し、受容し、共感する。
相手の立場になって心の底から受け止める。そうすると相手との関係性が深まっていきます。

5.ピンチをチャンスに

障害発生時点においては、顧客の業務停止という不都合、と障害発生原因を作ったベンダー側の不手際、(顧客は正しくて、ベンダー側は悪い)というベンダー側に圧倒的に不利な状況から始まります。

でも本当に顧客がすべて正しくて、ベンダーがすべて悪いのでしょうか?

「顧客が投資を惜しんだためにシステムの冗長性が低く、さらにSLA(顧客とのサービス品質のレベル契約)に曖昧性が存在すること」もありえます。
このような場合はベンダーから冗長性の向上を提案し、同時にSLAを見直すことによりビジネス拡大の可能性があります。
トラブルは起こさないことに越したことはありません。
しかしトラブル発生時は顧客との濃密な時間を過ごすことが多くなり、腹を割って話すことができるチャンスでもあります。

ピンチをチャンスに変えるために、自部門での失敗事例を参考に(あるいは障害が起きてしまった直後も含め)ロールプレイしておくことをお勧めします。


6.まとめ

● 謝罪会見事例あるいは自社内の失敗経験を参考にして、職場でロールプレイをする。

そのことにより謝罪への対応力が養われます。

  • 謝罪のポイントを頭に入れて謝罪対応する。

自分は悪くないと思って謝罪すると相手にばれます。


トラブルを宝に変えるために正しい謝罪を乗り越え、顧客との信頼関係を深めることができれば、新たなビジネスの拡大に結び付けることができるのではないでしょうか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?