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観客のソーシャル・ディスタンシング

新型コロナウイルスに係る緊急事態宣言が解除され、文化・スポーツイベント開催が段階的緩和に移行してから、ひと月。

私の住む札幌市は長らく市外往来を制限されていましたが、6月19日に解除されたことから、週末にインラインホッケーを観戦してきました。
自粛期間後、初めてのスポーツ観戦。そこで感じたことをつらつらと記します。

本来なら、競技の魅力や観戦の楽しかった思い出を真っ先にお伝えしたいのですが、現地で出場メンバーが分からなかったため、記録を取るのを諦めてしまいました。おもんない話でごめんなさい。

自粛明けに選んだのは

私の暖候期はもっぱら社会人野球でできています。6月6日からオープン戦が解禁され、自粛明けの週末も魅力的なカードが山ほどあり迷っていたところ、一通の報せが届きました。

「20日と21日に帯広でインラインホッケーやるので、観に来ませんか?」

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ハイ、行きます。わたしはダイレクトマーケティングによわい。

インラインホッケー。簡潔な説明を試みれば「インラインスケート版アイスホッケー」となりましょうか。
アイスホッケー選手が掛け持ちでプレーしていることが多く、オフの副産物感がありますが、得物が違えばルールにも差異があり、奥深く面白いスポーツです。

ただ、インラインホッケーは夏が中心のため、そのスケジュールは私の最大の趣味、社会人野球とまるかぶり。
昨年6月、全日本インラインホッケー全日本選手権大会Aプールで初めて触れたきり観戦機会に恵まれず、今年はゴールデンウィークで仙台の大会へ行く予定でした。しかし新型コロナ禍であえなく中止。全日本選手権もお陀仏。

そこへ、渡りに船のような話…!
この先社会人野球と競合すれば行きづらくなること、また、新型コロナ禍を経て室内スポーツがどう変わったかを知る絶好の機会であると考え、自粛明けにはインラインホッケーを観ようと決めたのでした。

Misconduct Hockey League Hokkaido

野球も捨てがたかった私は土曜日にオープン戦を観戦し、その足で帯広へと向かいました。
目指すは帯広の森スポーツセンターで催されるインラインホッケー大会、Misconduct Hockey League Hokkaido(ミスコンダクトホッケーリーグ・北海道)
ミスコンダクト社が主催する、幅広いカテゴリーが対象のインラインホッケー大会です。

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Gold、Silver、Bronze-A、Bronze-Bの4階級があり、最上位のGold Divisionではアジアリーグや社会人トップレベルで活躍するアイスホッケー選手が数多く出場。超絶技巧で観客を魅了していました。

老若男女を隔てないチーム編成が可能で(※)、Silver以下では男女混成チームが多くありました。普通に若いチームだと思っていたら、ロマンスグレーの紳士軍団で驚いたことも。
意図的な接触プレーを禁じるインラインホッケーだからか、男女差や年齢差をあまり感じず、総じて楽しく観戦できました。

※東京リーグでは女子やオールドタイマーの区分があるようです。

日程や試合結果、各チームのメンバーは公式ホームページから確認できます。ぜひご覧ください( ´ ▽ ` )ノ

現場にメンバーリストが置いてあれば…!
何人かは名前でピンときたのですが、当日コールされなかった中にも、分かっていたらもっとかじり付いて見ていたであろう選手が沢山いました。あなくちおしや、くちおしや……(砂になる音)

とりあえずGold Division成績表で伊藤賢吾選手(現ひがし北海道クレインズ)の暴れっぷりをご覧ください。Team JAMMは他のメンバーも抜きん出ていて、息を呑むプレーの連続でした。

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事前準備はぬかりなく

緊急事態宣言解除後、スポーツ・文化イベントの観客動員は徐々に緩和されつつありますが、感染予防策として様々な制約があります。
まずは観に行く前に、大会要項をチェック。

会場の利用ガイドライン(下図)を事前に読んでおくこと、参加者はマスク着用(プレー時は不要)、健康状態チェックリストを提出すべしとあります。

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観客を参加者に数えるのかどうかは分かりませんが、恐らくは入場時に検査があるだろうと考え、チェックシートを記入して持参しました。前泊なので体温計も持っていきます。
(どうやらそれで正解だったらしい)

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運営と選手の感染予防対策

帯広の森スポーツセンターに着いてみると、入口には消毒液、足元には受付に並ぶ際の間隔を示すピクトグラムが敷設され、受付の方はフェイスシールドを着用していました。おお、きっちりしている。

観客席へ上がると風を感じました。窓を大きく開け、扇風機を回すことで換気を図っていたようです。ベンチ脇にも一台ずつ扇風機がありました。

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出場中の選手は、激しい運動量を考慮してマスクをしなくてもよいことになっています。その分、プレー以外では適切な距離(最低1m)を保つことを推奨されますが、ベンチやペナルティボックスの広さは決まっていますから、距離を守るのは難しそうだと感じました。

また、観客からは見えないロッカールームや入退場において、様々な感染予防対策が行われています。
(今回はインラインホッケーですが)国際アイスホッケー連盟が策定した「安全にアイスホッケー活動に戻るためのロードマップ」や、先日北海道アイスホッケー連盟が発表した「アイスホッケー活動再開に向けた北海道ローカルルール」を一読すれば、その細かさに気が遠くなることでしょう。

「初めは、安全を第一に考え制約が厳しく、アイスホッケーを取り巻く環境はこれまでとかなり異なるものとなります。こんなのはアイスホッケーではないと嘆く選手が大半だと思います。
しかし、アイスホッケーに関わるひとりひとりに、新型コロナウイルス感染症の拡大を防ぐ責任があります。」
アイスホッケー活動再開に向けた北海道ローカルルール 第2版より抜粋)

それでも、選手たちは細かすぎる規則に従い、活動を模索しています。全ては愛する競技のある日常を取り戻すために。

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試合後のハイタッチはグローブを着用した手で行うよう、審判員が呼びかけていました。

野放図だった観客席

スタンド入り口からやや離れたところで試合を見始めると、次第に観客が増えてきました。
多いときで100人以上いたと思います。

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観客席の通路には数枚、『距離を保って座りましょう』との掲示がありました。
しかし長椅子に区切りはなく、多くの観客が密着して座っていました。
家族連れからチーム関係者と思しき大集団、気合を入れた女の子達まで、老若男女問わずとにかく密集。そしてよく喋る。

それが声援やビッグプレーへの感嘆であったなら、きっと気に留めることもなかったのですが、一試合40分ほど世間話と笑い声が絶えませんでした。中には隣と肩の触れ合う距離で、わざわざマスクを外して談笑している方もいたぐらいです。

私の真後ろにも大声で喋る人が現れ、「これはちょっと避けたい」と思い、空いている区画へ移動しました。

先に断っておきますが、私はこの件で、観衆を吊るし上げようとも、主催者や会場管理者の不備を糾弾しようとも思っていません。

ただ、今は各スポーツ団体が慎重に始動したばかりの時期。選手や運営ができる限りの感染予防対策をしているのに、観客席が無防備なことに、違和感と危機感を覚えたのです。

我々はなぜ距離を空け、マスクを着けるのか

「マスク着用」
「こまめな手洗い」
「手の届かない距離の保持」
「大声で会話や応援をしない」
こういった対策が推奨されるのは、新型コロナウイルスが主に飛沫感染で広がり、発病前や無症状であっても感染力を持つ伝染病だからです。そしてまだ治療薬もワクチンもない。
私も隣人も今これを読む皆さんも、無自覚の感染者かもしれない。ゆえに飛沫を飛ばさない、吸い込んだり触れない対策が叫ばれています。

インラインホッケーのシーズンはまだ続きますし、ほぼすべての選手はアイスホッケーもプレーします。
ひとたび会場が感染発生場所となれば、それが選手だろうと観客だろうと、感染自体に非がなかろうと、選手の活動や大会運営に大きな支障を来すことになります。
施設閉鎖、団体活動の制限、遠距離への移動自粛……徐々に活動範囲を広げていくロードマップの途中で振り出しに戻されてしまう。それは競技者、応援する人、どちらにとっても不本意なことではないでしょうか。

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観客席のほとんどは、選手のご家族とお見受けしました。
インラインホッケーもアイスホッケーもたいへん費用のかかるスポーツであり、ご家族の支えがあって成り立っています。何より家族は選手の最大の理解者で最も親身な応援者です。

そんな方々が、単にモラルを欠いているとは思えません。
様々なカテゴリーの14チームが絶え間なく試合を組むスケジュールでしたから、目当ての試合まで手持ち無沙汰になることがあったでしょうし、付き合いの長い、気心の知れた同士が久々に再会すれば、話が弾むのは当然のことです。

これが電車の中、スーパーの片隅、イベントホール、そういう公共性の高い空間であったなら、行動は違ったかもしれません。
ほぼ身内しかいないであろう会場は、不特定多数が利用する場という感覚が希薄なのかもしれないと思いました。(客席の雰囲気が、大会の応援というより練習見学のように感じられたのもあり。)

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そして、集団に属する方々であればこそ、密集せざるを得ないのかもしれないと思いました。
私のような一匹狼の部外者は、指定のない限り自由に席を移動しますし、自分勝手な都合で帰ることもします。
しかし、チーム関係者で集まっていたり、顔見知りに話し掛けられたりしたら、距離を置きたくてもできないし、角を立てずに伝えるのは難しい。

あの密集の中には、そんなジレンマを抱える方がいたかもしれません。

ではどうしようか?

先日の試合は過ぎたこと。そこで目にした出来事をただ詰るだけでは、よりよい未来にはつながりません。

あの日、帯広の森スポーツセンターでは、観客の感染予防対策喚起として「距離を保って座りましょう」と申し訳程度の貼札をしていましたが、観客には全く通じていませんでした。

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この貼札は帯広の森の各施設共通のものらしく、食堂でも見られました。

そして、大会開催要項にしても、帯広市の体育施設利用ガイドラインにしても、観客の感染予防対策が盲点になっていると思いました。

「利用者」としてひと括りにされていますが、競技者と観客の行動は異なり、観客は競技者のような激しい動きをしないものの、同じ場所に長時間留まりやすい特性があります。
今回の大会であれば15~20分×2ピリオド、一般的なアイスホッケーの試合ならば20分×3ピリオド(時計の中断+整氷時間を含めれば2時間弱)をほぼ動かずに観戦します。ゆえに、感染防止対策が重要です。

安全な距離を保つ、マスクを着用する、大声を出さない、咳エチケットを守る……こうしたことは、要項に記すまでもなく、個々の利用者が必要性を理解し実行できることが望ましいのですが、なかなかそうもいきません。

観客に感染防止対策を実施してもらうには、どうしたらよいでしょうか?

ひとつは、利用者が取るべき行動を具体的に示すこと。
距離を空けてほしいのであれば、どれぐらいの間隔を空けるべきかを。手洗いの励行を呼びかけるなら、手洗いにかけるべき時間としっかり洗うためのポイントを。

例えば先に有観客試合が可能となったプロ野球BCリーグや、社会人野球のオープン戦では、利用可能な席/不可能な席を明示することで、観客を誘導しています。

プロ野球ルートインBCリーグ・富山GRNサンダーバーズ主催試合の例
社会人野球・JR東日本野球部グラウンドの例。使用できない座席に選手作成のイラストを掲示しています。思わず見てしまうし、この席をぞんざいに扱えないでしょうし、よい工夫だと思いました。

もうひとつは、人の意識を変えることです。(そう簡単に変えられるものではありませんが)
新しい生活様式、スポーツのプレーや観戦への制約。それを降って湧いた理不尽として渋々従うか、目的を理解して実践するか、この違いはとても大きいのです。

マスクを着用するのは、着けないと入場できないから?
人と人との距離を空けるのは、白い目で見られたくないから…?

皆さんはどうでしょうか?

私は内心「新しい生活様式なんざしゃらくせえ」と思っています。
マスクを着ければ酸欠になるし、お題目を唱えても通勤電車や仕事場の狭さは変わらないし、何より人に細々と指図されたくない。
しかし、新しい生活様式の提示する感染予防対策は、特効薬もワクチンもなく対処困難な伝染病から、自分や大切な人や好きなものを守る有効な手段であると考えています。

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スポーツの場において感染予防対策に協力するのは、その競技環境を守ることといえます。
もちろん、感染予防とは選手、スタッフ、家族や関係者、観客の命を守ることが第一ですが、ひとたび地域の感染拡大や医療崩壊の危機が起きれば、公式戦の開催やチーム活動は制限され、回復に長い時間を要することになります。

あらゆる競技の大勢の選手が、新型コロナ禍で目標を失い、長きに渡り活動を制限されました。
もう同じ思いをさせたくない、活躍の場を奪われることは二度と起きないでほしい。競技に関わる方なら誰もが願っていることでしょう。

いま、選手達は、新型コロナ禍から立ち直る一歩を踏み出しました。
自由にプレーできる環境を守るのは、その競技を愛する人と支える人です。選手自身はもとより、ご家族、知人、ファン、応援している人々から行動を意識してみませんか?

いま求められていることを理解しよう

最後に、北海道アイスホッケー連盟が策定した「アイスホッケー活動再開に向けた北海道ローカルルール」を掲載します。

これは拘束力を伴うルールではありませんが、「アイスホッケーに関わるひとりひとりに新型コロナウイルス感染症の拡大を防ぐ責任があること」を謳っています。
選手を支える人達も、ファンも、そのひとりです。

ぜひ目を通してみてください。

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この記事のイラストは「いらすとや」さんからお借りしました。