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あの日、室蘭スティーラーズ初観戦で起きたこと

悲願のJ-Ice North初優勝が懸かる試合とは知らなかった。小さなリンクに収めきれないほどの住民が詰めかけた。

そして、残り1秒、運命が反転した。

佳境を迎えたJ-Ice North Division 2019-2020、その優勝をかけた決戦を前に、私が日本製鉄室蘭アイスホッケー部・室蘭スティーラーズを応援し始めたきっかけと、初観戦の記憶を記します。

きっかけは選手の直訴だった

もともと私は、北海道の社会人野球「だけ」を観ている人でした。
中でも郷里の室蘭シャークスが大好きで、昨シーズンはオープン戦を含めて全試合の9割ぐらいを観たでしょうか。
加えて、北海道の公式大会は全部観に行くマンなので、暖候期は毎週末どこかの球場に足を運んでいました。

こんな具合なので、他の競技に目を向ける余裕がありません。
アイスホッケー・日本製紙クレインズの廃部が報じられた2018年の暮れ。私はこのニュースも、存続を訴える署名活動も冷ややかに眺めていました。(後の、ひがし北海道クレインズ設立募金には微力ながら協力させていただきました)

そんな折、Twitterに一通のダイレクトメールが届きます。

「アイスホッケーを観に来ませんか?」

あー、そういえばフォロワーにアイスホッケー部の方がいたなあ。
機会があれば。社交辞令を練っていると、二の矢が飛んでくる。

「同じ室蘭の、同じ新日鐵住金のチームを見てほしいんです!」

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室蘭、そして新日鐵住金。性癖ど真ん中を撃ち抜かれた私は、二つ返事で行くことにしました。観戦友達も連れて行こう。次のホームゲームはいつ?…あれ、室蘭ではもう1試合しかないんだ。じゃあそこで。

ほいほいと釣り出された私でしたが…いやちょっと待て。

自分が好きなものを好きなように追ってきた中で、これを観に来てほしいと直接に頼まれたことなんて、ありませんでした。
それも、今まで見たことのない競技を。

シーズンも半ばを過ぎてから、いち選手が、見ず知らずの者に、観戦を直接呼びかけるなんて、生半可な覚悟でできることではありません。

実は、一緒に行こうと誘った友人にも声がかかってました。おそらく、社会人野球ファンへ幅広く観戦を呼びかけていたのだと思います。
クレインズ廃部報道を受け、なお無関心層が多数を占める現状に居ても立ってもいられず、自発的に行動したのでしょう。少しでもアイスホッケーに興味を持ちそうな層をリサーチして、宣伝して……。

今振り返るに、企業チームに所属している方が個人で宣伝拡大に努めるのは、とても勇気あることだと思います。
企業スポーツは、元々が身内を円満にするためのものなので、どうしてもムラ社会になりがちです。(社会人野球もこの傾向が強いですね)
安寧の殻を破り、日本のアイスホッケーそのものを衰退させないために、自分にできることから踏み出した一歩。

その行動は、少なくとも、一人の人間を確かに動かしたのです。

2019年2月10日、DYNAX戦

それはJ-Ice North Division 2018-2019シーズン終盤、新日鐵住金アイスホッケー部・室蘭スティーラーズの最終戦でした。

ここまで室蘭スティーラーズは勝ち点26。
DYNAXはこの試合を含め2試合を残し、勝ち点22。
勝ち点は60分勝ち=3、延長勝ち=2、延長敗け=1なので、この試合でスティーラーズが延長戦に持ち越せば、仮に敗けても優勝が決まります。

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…という話を私は車内で初めて知りました。
それぐらい、無知で軽いノリの初観戦だったのです。

何ならプールとスケートでお世話になったニッテツスポーツセンターに合法的に入れる!の方が楽しみでしたし、着いてからは、選手横断幕が室蘭シャークスと似たデザインだと盛り上がったり。

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ただ、ウォームアップが始まると、流麗さにたちまち目を奪われました。試合に入ればその速さのままに競り合い、ぶつかる。
素直に、アイスホッケーって面白い!と思いました。

その当時は試合経過をメモする習慣がありませんでしたが、ゲームシートをもとに、以下、展開を書き起こします。

第1ピリオド

GK:新日鐵住金 39山口連 / DYNAX 33 白田恭平

01:10 反則 新日鐵住金 28小原日向 フッキング

03:41 新日鐵住金ゴール(1点目)
ゴール 9小泉智也、アシスト 10間山慎也、64山道翔太

06:22 反則 新日鐵住金 10間山慎也 エルボーイング
08:41 反則 新日鐵住金 10間山慎也 フッキング
11:43 反則 新日鐵住金 13玉手大貴 クロスチェッキング
11:43 反則 DYNAX 92 今野友尋 ラッフィング
15:02 反則 新日鐵住金 77 工藤翔介 インターフェアランス

新日鐵住金 1-0 DYNAX
1Pシュート数:新日鐵住金8 / DYNAX19

第2ピリオド

21:10 DYNAXゴール(1点目)
ゴール 21 坂本颯、アシスト 9大場大

24:06 新日鐵住金ゴール(2点目)
ゴール 28 小原日向、アシスト 17村上亮

25:23 DYNAXゴール(2点目)
ゴール 62 小原卓朗(アシストなし)

29:20 反則 新日鐵住金 21石井元気 フッキング

34:59 新日鐵住金ゴール(3点目)
ゴール 9小泉智也、アシスト 17村上亮、64山道翔太

36:15 DYNAXゴール(3点目)
ゴール 92 今野友尋、アシスト 17内海凌馬

37:35 DYNAXゴール(4点目)
ゴール 7牧口祐太(アシストなし)

新日鐵住金 3-4 DYNAX
2Pシュート数:新日鐵住金17 / DYNAX14

勝ち越したのも束の間、パックを奪われるなり速攻で失点という展開が続いて、初観戦ながらDYNAXはえーわー、こえーわー、とおののいたのでした。

第3ピリオド

40:26 反則 新日鐵住金 9小泉智也 トリッピング

45:41 DYNAXゴール(5点目)
ゴール 62小原卓朗、アシスト 21坂本颯

手痛い5点目。ですが、ここから新日鐵住金は必死に食らいつきます。

49:29  新日鐵住金ゴール(4点目)
ゴール 73大音大輔(アシストなし)

50:59 反則 DYNAX 64 札裕平 ハイスティッキング

52:12 新日鐵住金ゴール(5点目、パワープレー)
ゴール 10 間山慎也、アシスト 17村上亮、64山道翔太

好機を逃さず追い付いた!あと8分守りきれば優勝に手が届く。
もちろんDYNAXも必死。GKを下げ、リスクを承知で攻撃に全振りします。

58:30 DYNAX GK out(6人攻撃へ)

59:59 DYNAXゴール(6点目)
ゴール 9大場大、アシスト 18山野下元氣、92今野友尋

新日鐵住金 5-6 DYNAX
3Pシュート数:新日鐵住金10 / DYNAX13
合計シュート数:新日鐵住金35 / DYNAX46

残り一秒が命運を分けた

DYNAX逆転ゴールと同時に響いたブザー。ゼロを指した時計。
優勝を確信していた観客は唖然。新日鐵住金は即座に審議を訴え、審判は確認に入ります。これが長かった。
15分ほど待たされたでしょうか、結果は残り1秒のゴール成立。

勝ち点差は1に縮み、新日鐵住金室蘭の自力優勝はなくなりました。
かつ、DYNAXが残す1試合は、当時の実績から勝利の公算が高い。

ようやく試合後挨拶に立った選手達からは、ありありと悔恨の念が感じられました。
それは、試合後の監督のコメントからも読み取れます。

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競り合いの末のブザービーター。何の肩入れもなく観たならば、初観戦にして最高に興奮する試合であったことでしょう。

でもそのとき、私の脳裏に浮かんだのは、社会人野球・室蘭シャークスの記憶でした。宿敵・JR北海道に挑んで、あと一打、あと一球で苦杯を喫した数々の試合。

喜怒哀楽は、単なる贔屓の勝ち負けじゃない。
全力で戦って、目標を、約束を果たせなかった選手達が悔しさを隠しきれずにいるとき、心を汲んでしまうからこちらも悔しいと感じるのです。

そして、次こそは、その全力が最良の形で報われてほしいって願うんですよ。身勝手なファンってやつは。

ええ、わたくし、この試合で完全に落ちました。
それまでアイスホッケーを観たことすらなかったのに。

あの試合がもたらしたもの

ホーム最終戦、そしてJ-Ice North Division初優勝を懸けた一戦。
そのためか、中島スポーツセンターには520人の観客がみっしりと詰めかけていました。200人も入れば窮屈な立ち見のリンクに!

初観戦なので当時は分かっていなかったのですが、これって、B級アイスホッケーではすごい数字なんですよ…!

何しろ全日本選手権ですら…おい、よせ。話し合おう(銃声)

ただ、500人の想いは一つでも、声援はバラバラでした。
その頃、室蘭スティーラーズには応援を統率する人がいなかったのです。

たびたび応援用のスティックバルーン(社会人野球ではおなじみの応援グッズ)をいただきましたが、攻守に明確な区切りのないアイスホッケーではどう使えばよいか分からず、もどかしく感じたものです。

一方のDYNAXは少数精鋭ながら、1人で太鼓とコールを担当するお兄さんがいて、その圧は、500人を完全に制していました。

ホームを満員にしながら、応援で完敗した。あと1秒で掴めた優勝を後押しできなかった。
それは、アイスホッケー部を身近に支援してきた人々にとって、つらい出来事であったことでしょう。
翌シーズンから、選手所属企業の有志による室蘭スティーラーズ応援隊が組織され、コールと太鼓で共に戦うようになりました。

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そして、室蘭スティーラーズ自体はというと。
2月10日の一週間後に開催された道新杯、その決勝で再びDYNAXと対峙し、快勝。
3月の全日本選手権(B)決勝では敗れるも、他地区の補欠で出場したJ-Iceプレーオフにおいて、再びDYNAXを下し優勝。

2019-2020シーズンにおいては、最初の苫小牧市長杯争奪B級アイスホッケー大会こそ優勝を逃したものの、北海道アイスホッケー競技選手権大会で47年ぶりの優勝。
J-Ice North Divisionでは、1月19日現在無敗(7勝1延長勝)と、首位をキープしています。

選手個々の努力とチーム編成・戦略が上手く噛み合っての結果なのは、言うまでもありません。
個人的に、今の室蘭スティーラーズを走らせるのは、あの日の、残り1秒ではないかと思えてならないのです。

そして時は満ちた

J-Ice North Division 2019-2020、室蘭スティーラーズ最後の2戦は、ビジターとホームでのDYNAX戦。
室蘭スティーラーズと2位DYNAXとの現在の勝ち点差は6、向こうの残りは3試合。
直接対決で室蘭スティーラーズが1つでも勝てば、優勝が決まる状況です。

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選手たちはどんな思いで臨むでしょうか?

私はこの対決をとても楽しみにしています。
そして、一年越しの喜びの花が咲くことを願ってやみません。

興味をお持ちになりましたら、ぜひ、観に来てください!

J-Ice North Division
DYNAX 対 日本製鉄室蘭
2020年1月26日(日) 13:00~ 白鳥王子アイスアリーナ(苫小牧市)

日本製鉄室蘭 対 DYNAX
2020年2月16日(日) 13:00~ 中島スポーツセンター(室蘭市)

そして、試合結果やプレー中の迫力ある姿が、室蘭スティーラーズ公式SNSから配信されています。
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室蘭スティーラーズと、北海道の社会人B級アイスホッケーに関する記事はこちら↓

この記事の挿絵は「いらすとや」さんからお借りしました。