草原の椅子

 最近の私は人間に疲れ気味だ。この人間の中には当然自分も含むのだが、その無責任さ、身勝手さに大きく落胆し一人で部屋にいたいなと思うことが多かった。そんな私の乾いた心に瑞々しさを与えてくれたのがこの「草原の椅子」である。通常小説を読む時ストーリー展開が気になり、ついつい読み急いでしまうのだがこの本はちょっと違った。この本を読み終えることは登場人物たちとの接点を失うことでもあり、それが非常に勿体ないことのように思えたからだ。
 
 ブッククラブに参加した際に課題となった村上春樹の作品にこんなコメントがあった。氏の書く作品はとにかく登場人物が格好いいと・・・そういう視点で見ればこの草原の椅子に登場する人物はいずれもこれには当てはまらない。どちからと言えば不器用で無骨な人達だが、彼らの心根の美しさ、人間としての器の大きさに私は魅了された。世間の塵や埃、腹の立つこと、不愉快なことを前にすると、ちょっとズルしたい、信念や真面目なんて今時美徳にならないという思いが頭をもたげる、そう「魔」がさす時がある。

 収納スペースの関係上、読後の本は手元に残さず、気の会う友人に読んで貰うことにしている。そしてその友人からまた別の友人へと言った具合に本好きの間を転々とするのだ。しかしこの本は手元に残す。きっと私にはあの人間的魅力に溢れた3人に再び会いたくなる日が来るだろうから。

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