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編み物を通して人とつながる、『編みテロ in 島根』

Community Nurse Company 株式会社の本社・拠点がある島根県雲南市。
雲南市では「元気になるおせっかい」を広げたいとの思いから、既にコミュニティナース的存在として活動しているまちの人を巻き込み、一緒に成果を出していきましょうとチームで動き出しています。
医療職にこだわらず、お互いの強みを出し合いながら全力で議論する「地域おせっかい会議」から生まれるアクションとまちの人とのストーリーを「思いを繋ぐおせっかいのバトンリレー」として連載を始めます。

みなさんは、『ヤーンボミング』というものを聞いたことがありますか。ドアノブや電柱、街路樹まで、町中の様々なものを編み物で「編みぐるむ」ストリートアートのことです。英語で訳すとYarn=毛糸、Bombing=爆弾という意味で、少しびっくりするニュアンスですが、実際はとても可愛らしくそして人々の心が暖まる素敵な取り組みです。
編みテロは、そんなヤーンボミングに出会った滋野さんによって行われました。気になる実際の様子や経緯を発案者の滋野さんにお話を伺ってみました。

滋野 紗世子(しげの・さよこ)
  日本手芸普及協会 かぎ針・棒針講師

——まず今回の案件は、どういった想いと経緯から発案されたのでしょうか。

滋野:もともと編み物が好きで、コロナの自粛期間中の空き時間は編み物をすることで過ごしていました。

好きだからやっている編み物。時間はつぶせるけど、人に会うことも無く、なんだか寂しいなぁ。編み物を通して誰かと交流できないかな。そして、作品つくりを目標に生活に張りが出たり、誰かの生活にちょっとでもポジティブな効果が生まれたらいいな~、なんて考えていました。そんな時に、とあるドキュメンタリー映画の中でヤーンボミングに出会いました。「すごく面白そう!」と思いつつ「コロナ禍なので人が集まってやるのは難しいかな。」と思い、いったんはその気持ちに蓋をしました。

 ですが、今年の1月(2021年1月)に茨城県のひたちなか市で、ヤーンボミングで駅前を飾るイベントが行われたという記事を見かけました。SNSで色んな方に声掛けをし各自が編んだものを送ってもらい、一人一人の作品を繋げてひとつの作品を作り上げるというイベントでした。

これならコロナ禍でもできるなと思いました。また、島根県はお年寄りの方も多く、編み物ができる方もたくさんいらっしゃいます。そういった方々にも郵送で作品を送って頂ければ、コロナで集まることが難しくても気軽に参加でき、「ひとりじゃない」と感じてくださるのではないかと考えました。

ただ、実際にイベントとするにはどうしたらいいかと悩み、雲南在住の仲の良い知人に相談をすることに。そこで紹介してもらったのが「地域おせっかい会議」でした。おせっかい会議の中で「手先が器用な高齢者の方に協力していただいて、一緒に編み物アートを楽しみたいです。」と相談したところ、「編み物を通して、地域の方を見守ることにつながる!やりましょう!」と協力をしてくださることになり、イベントの開催が決定しました。

——イベントの名前が「編みテロ」というのはなぜですか。

滋野:例えばSNS上で、深夜においしそうな食べ物の写真を投稿し、見た人の食欲をそそる”飯テロ”というものがあります。そこから、編み物で人をつなげて「私も参加したい!」という人をどんどん巻き込んでいく”編みテロ”もあっていいよね~、とこのイベント名を「編みテロ!in 島根」と命名しました。

——実際のイベントの様子はいかがでしたか。

滋野:イベント当日に向けて、10センチの正方形で好きなモチーフの編み物をいろんな方に提供していただくようSNSでの声掛けをして編み地を集めたり、ワークショップを行って初めての方でも参加できるようにしました。おせっかい会議の方々にはイベントまでの期間、編み物が好きそうな地域の方へのお声掛けや、参加したいけど会場に来られないという方の編み地の回収など全面的にご協力いただきました。目標は600枚と掲げていましたが、実際は1ヶ月半の期間でなんと1,000枚もの作品が集まり、把握しているだけでも50名以上の方にご参加頂けました。

そして集まった編み地は、イベントに参加されるメンバーで繋げる作業を行いました。そこでも色々な方からアイディアが出て、様々な作品を作り上げることができました。

実際に集まったモチーフ

——イベント当日は展示以外にも、生演奏やあおぞら市でのお野菜の販売、焼き菓子の販売なども行われていましたね。

古津:訪問介護の利用者さんで、すでに自作の編みものを販売されている方にイベントのお声掛けをしたところ、編みテロでも販売をしたい、ということになりました。又、お野菜作りをされている方にあおぞら市でお野菜販売があることをお伝えし、そこで実際に野菜を販売されたり、障害の就労支援の施設の方が作られたクッキーの販売もされました。そこで繋がりを持った方が実際にイベントにも参加をされて、「楽しかった!」と喜んでくださる方がたくさんおられ、色々な繋がりを感じることのできるイベントでした。

——事務局の方は今回の案件はどんな想いで携わっていましたか。

高木:大体のイベントは「わぁ、楽しい!」とその日その場で参加して終わりというものが多い中で、編みテロは、会場やワークショップに参加できない方でも、自分が今いる自宅から、誰でもどこでもいつでも参加できるという、関わりの広さがありました。
初めてのものに参加することに対して、抵抗がある方でも参加しやすいように、こちらから集まりやすい場所に出向くこともしました。子育て支援センターに出張したときは、小さなお子さん連れの方が参加者でしたが、お子さんが泣き出してしまっても周りの方の理解がある場なので、安心して2時間のワークショップに参加してもらうことができました。「久々に自分の時間に集中できました!」と喜んでくださる参加者のママさんもおられました。

編み物は初心者でも大体2時間くらいの時間があれば簡単な作品が作れるうえ、中断しても大丈夫な作業なので、スキマ時間を利用して取り組むことができます。ハードルも高すぎず、低すぎず、絶妙なレベル感。そんな中で編み物にチャレンジをして作品を作り出すことで、誰でも達成感を味わえることは良いことだなと思いました。

イベントの時には、地元の福祉推進課の方が近所の認知症のおばあちゃんを連れてきてくださいました。認知症の方でも「昔やっていたことができた」と喜んでおられる姿が印象的でした。誰でもできるし、編み物をすることで、みんながすごく笑顔になるなと感じました。

——編み物を通して広がった「人とのつながり」には、どんなことがありましたか。

滋野:教室をするときに参加者の方に教えるにあたって、編み物は大人数に教えるのは難しい物でした。ですが、編める方が増えていったことで、教えることのできる方も増えていきます。そこで編みテロのテーマ「人とつながる」になり、教えてもらった人も教えた人も編み物を通して人と触れ、楽しく教室をすることができます。
参加される方も最初は恥ずかしさを感じていた様子もありましたが、いざ始めると「これはこげするもんよ。そうそう。」と、どんどん教えてくださっていました。編み物を通じてのコミュニケーションの取りやすさを感じました。

——興味を持っている方でも、参加することが恥ずかしくて躊躇しちゃう方がおられると思います。そういった一歩踏み出せない方に「こういう声掛けをしたよ」ということが何かありますか。

滋野:今回は雲南での開催ということもあり松江や出雲の方の参加のハードルが少し高かったのですが、知り合いの方や、その方の旦那さんに参加をお願いしてみたりしました。実際にこちらから声掛けをしてみると、意外と喜んでいただいている様子でした。
また、ワークショップで編み物はあまり興味ないという方でも楽しんでいただけるように、イベント当日に知り合いの大工さんに釘を使わない『スツール』を作ってもらい、そのスツールの上に毛糸で編んだカバーをかぶせたものを用意しました。男性の方は木工系への興味が高い方が多く、イベント中にスツールを通して編み物にも関連性をつけて切り口を増やしたことで、いろんな方が参加しやすいイベントを作ることができたと思います。

——次のイベントとして、おせっかい会議の中で郵便局とコラボして「(三刀屋)郵便局で編みテロをしよう」ということになりました。滋野さんには実際に郵便局から提案をされて、どのような様子でいたか。

滋野:郵便局にサンプルをお持ちして、作ったものを展示スペースにて展示していただくことになりました。夏だったので「クジラを作って飾って、仲間を作ろう!」というテーマで編み物仲間を募集することになりました。展示する期間を長い期間で頂けたので、展示期間の後半は実際にそこで編み物をしていただいて、どんどんクジラを完成させていくような展示にしました。最初は何もなかったのに、気が付いたらクジラがいる、という感じにできたらいいなと。実際に知らない間にいろんな方が作ったモチーフが集まり、それらを繋げて大きなクジラにするイベントも8月に行えました。

——今回のイベントを通して、今後も繋げていけたらいいなと感じたことはありますか。

滋野:今回は、まずアプローチのしやすいお年寄りの方に声掛けをしたことから始まりました。そしてイベントがきっかけで地域で自治会を超えて編み物のサークルが出来るなど、いろんな方とのつながりが増えました。これからは、病院で入院している子どもや、子育て支援センターなどにも声掛けを広めていって、色々な年齢の人たちでの交流が少しずつでも出来たらいいなと思っています。
イベントの会場だった”みんなのお家”は、コミュニティーナースの活動拠点でもあり、地域の方々に開放されている場所でもあります。制作期間中、編みテロに参加してくださっている方が、認知症の心配のあるご近所さんを「編み物しにいこう」と誘って参加してくださるなど、編み物を通してたくさんのつながりが生まれました。
これからも「私もやりたい!」という方をどんどん巻き込んでいきたいです。

——いろいろな方をいい意味で巻き込んで、実際に参加された方が楽しく、又、作品を見た方がほっこりするような温かいイベントになったのですね。



今回は滋野さんの『好きな事』が広がって、人との繋がりとなりました。そしてそのつながりは、いつでも、どこでも、誰でも繋がることのできる温かい繋がり。そんな繋がりが生み出したのがたくさんの人の笑顔ややりがいといった、ポジティブな元気の源。きっと、沢山の方の『好きな事』が繋がって、これからもたくさんの笑顔を作り出してくれるでしょう。
 そんな繋がりのきっかけを、おせっかい会議の中で見つけることができるのかもしれません。自分の好きな事から繋がって元気を広めたい、という方のおせっかいもお待ちしています。


ライター 河田知佳

https://peraichi.com/landing_pages/view/osekkaiunnan/

https://community-nurse.jp/


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