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色々な石で笙の洗い替えをやってみた

◆はじめに

笙のメンテナンス(洗い替え)をするときは、青銅で出来たリードにマラカイトを粉末にした石液を塗ります。この石液は、青銅のお皿に水を入れて、マラカイトを摺りおろして粉末状にして作ります。これにはリードの切れ目を埋めて、息漏れをなくす目的があります。

この石はマラカイトでなければならないと言われています。

その理由として、「銅の二次鉱物のマラカイトでないと、銅のリードに付着しない」「撥水性で優位がある」と言うのが一般的な説です。

この説がいわば常識となっていて、他の石で擦った人の話を聞いたことがありません。

笙の洗い替えにいつからマラカイトが使われているのかは知りません。江戸時代か?それとももっと昔から使われてるのでしょうか?

しかし、少なくとも言えるのは、今はインターネットの発達により、その時代よりも何倍もの種類の石が簡単に手に入り、何倍もの情報も手に入れることが出来るということです。

そのため、マラカイト以外の石でも洗い替えできる可能性ありと判断して試してみることにしました。その上で、音色・使用感に対する影響を発見できればなお良しと思っています。

今回は
1ラピラズリ
2アズライト
3フローライト
4カルサイト
5アンモナイトの化石
6道で拾った適当な石
で試しました。

結果がどうなるか?予想してから、下にスクロールして下さい。




◆洗い替えの結果

6個の石ですべてのリードを洗い替えするとおそらく60時間ほどはかかりますので、ひとまずは「千」のみを洗い替えをしました。

結論を言うと…すべての石で洗い替えに成功しました。アンモナイトの化石や、道で拾った石はさすがに無理かと思っていたのですが、まさかの成功でした。

息を入れた感触、撥水性、隙間の埋まり方はマラカイトと一緒。音色は比較することが難しいんですけど、若干変化があるようにも感じますが、大差は無いように思いました。

この結果から見るに一般的に言われる2つの説は非常に疑わしく、石自体は何でも良いようにも思えます。

◆マラカイトが選ばれた理由(考察)

ここから先は憶測ですが、洗い替えにマラカイトが選択された理由としての4つの可能性を思いつきました。

①水に溶けているとき作業がしやすい(濃さがわかりやすい)
マラカイト以外の石で擦ると、茶・灰・黒っぽくなるようなものが殆どで、濃さがわかりにくいものばかりでした。それに対してマラカイトはエメラルドグリーンで美しく、濃さもわかりやすい色です。

②色が美しい
洗い替えに使う石粉は、おそらく岩絵具の白レベルかそれよりも細かい粒です。擦る前にどんなに美しい石であろうとも、細かい粒にすると白味がかった色になります。白味がかった系統の色の中では、マラカイトのエメラルドグリーンは笙になじむとても美しい色だと思います。

つまりは、粉末の機能が重要なのではなく、色で選んだのでは?という可能性です。

※天然石は色が限られています。今は岩絵具の新色もありますが、岩絵具の新色は天然石で作られたものではありません。私が試した限りでは新色は洗い替えできませんでした。これについては実験数が少ないので、色々試した方のご意見をお待ちしています。

③粉末にしやすい
石にはモース硬度という「引っ掻いたときの傷の出来やすさ」で測定する、硬さの尺度があります。硬さの尺度として1(やわらかい)~10(かたい)まであり、マラカイトは4前後と言われています。私が擦った感覚だと、マラカイトよりもモース硬度が高い石は擦るのに時間がかかりました。(今回、青銅のお皿で擦れない石は砥石で粉末にしました)

今は色んな道具がありますが、その昔は擦る金属も限られていたでしょう。その為、限られた素材(青銅、さはり)と擦ると、ちょうど良い細かさになるマラカイトが選択されたという可能性です。

④権威
これについては裏が取れていないので、もしかすると間違った内容を書いているかもしれません。

近所の岩絵具屋さんから聞いた話によると、今の時代からは想像できませんが、江戸時代までのマラカイトは幕府が管理していて、一般庶民は手にすることすらできない権威ある石だったそうです。(文献は見つかりませんでした)

このような、一般庶民が手に入れにくいマラカイトをあえてメンテナンスに用いることより、「雅楽=敷居の高い高尚な音楽」というイメージを植え付けたのではないか?という可能性です。

◆まとめ

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今回一竹のみでしたので、最終確認ということでラピラズリで全部洗い替えしました。擦る前は青く美しい石でも、細かい粒にすると紫色で不気味な印象になります。試しに管絃蘭陵王を1曲吹きましたが、違和感無し。今後何かあるようならば、そのときに改めて感想を書く予定です。

さて、完全に言い切ることも出来ませんが、洗い替えを性能面のみで語るならば石粉の粒の細かさが重要なのであって、石自体は何でも良い可能性があると思います。

最後に、雅楽は昔の人々の営みや精神性が込められている宗教音楽、伝統音楽としての一面もあります。そのため、単純な有用性のみで語れない部分がありますので、楽器のメンテナンスをどこまで崩すかのさじ加減は各々の判断でやって下さい。

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