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やじろべえ日記 No38 「暗礁」

講義が早めに終わったので私は公園へ足早に向かっていた。

わたしは野良のキーボード弾きである。名前は今日は誰かが言うだろうから言わないでおく。今日は一人で弾こうと思っていたが最近一緒にセッションするようになった浅井さん,伏見さんと練習することになった。セッションの練習もあるのだが,どちらかというと…

「…という作戦でいこうかな。と思ってる。」
「作戦って…そんな殺気立つ必要もないのでは…」
「でもまああんなこともありましたし。多少は気合入れた方がいいかと。」
作戦,というのは浅井さんと伏見さん曰く「市村さんの本当の良さを戸村さんにわかってもらおう作戦」らしい。ちなみに市村というのは私の名前である。

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こうなったいきさつを簡単に説明すると,先日浅井さんの友人戸村さんとセッションをすることになった私だがその場で「思っていたのと違った。」とい発言を受けたことで落胆していたところに,浅井さんと伏見さんが来てつい事情を話してしまった結果,2人はやる気になってしまった…という次第だ。

一応念押ししておくが戸村さんは別に悪気があったわけではない。私は期待に応えられなかった自分に対して落胆していただけなのだ。戸村さんはその後謝ってくれたしこちらも戸村さんを責める気はない。ただ…この2人は少し違うようだ。

「別に戸村さん,悪気もないですしそこまで綿密に計画立てなくても…」
「…前々から陸人には『悪気がない一言』でいろいろ台無しにしてしまうきらいがあったんだ。それで今回の事案があったからね。古い知り合いとしては,お灸をすえておきたかったんだ。」
そうか。これは戸村さんのためでもあるのか。浅井さんの表情見たら無下にできなくなってきた。あと…

「…ここの運指はこうで…強さは…」

伏見さんがものすごくやる気になっている。そういうと聞こえはいいが実際のところ後ろに炎が見える。前々から思っていたが,伏見さんは感情が高ぶると手が付けられなくなる…ように感じる。伏見さんが何で怒っているのか,今は追求しない方がいいだろう。

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「ひとまずこんな感じですね。蝶の曲は今のような感じでいいかと」

練習が一通り終わったころには2時間半が経過していた。正直申し上げるとへとへとである。

「それにしても伏見さん,すごく上達したね。この3日間ものすごく練習したのかな?」
「はい。」
なんだか伏見さん,元気がない。
「ぶっ通しでやったから疲れたよね。浅井さん,明日どうします?」
「…ごめん市村さん。明日はちょっと二人でやるね。」
「?わかりました。じゃあ自分は自主練してますね。」
「ちなみに市村さん,明日練習どこでやる?」
「いつも通りここでやろっかなあと思ってましたけど…」
「そうか。わかった。ありがとう。」

そんなやり取りをして別れることになった。まさかこの後,あんな展開になるとも知らずに。

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