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4話 エル&ミリー 「副業盟主とコメディ女」 辛辣装備の副業盟主は、光の溺愛男に進化する

4話 シナリオ形式



 【ノースブルク諸侯同盟
  ウエスト・エッジ
  総合服飾工房オール・ドレッサービスティー内】


ナレーション:

 男は自分の外面と身体能力には自身があった。
 彼が微笑みコナをかければ、女はうっとりと彼に身を委ね酔い始める。むしろ、黙っていても寄ってくる。

 容姿端麗、文武両道。
 スタイルだって抜群にいい彼に、うっとりとしない女など今までいなかった。

 ───しかし。
 今、エリックは恥ずかしくて恥ずかしくて仕方なかった。

※ナレーション終了。


ビスティー店内。
ソファーに腰かけ頭を抱えるエリック。
エリックのベストに針を通すミリア。

エリック
「……………ぃぁく、だ…………!(頭抱え)」
ミリア「なにー?」
エリック「なんでも(ぶっきらぼうに)」


 エリック、不機嫌に足組み。
 ミリア、平然とお直し。
 エリック、さっきを思い出して。


エリック(心)
(…………最悪だ。
 赤っ恥もいいところだ。
 コルセットを解きながら言うセリフじゃないだろ、……は────っ……!)


回想。
 ミリアの誘う笑顔。
 色気と甘えを含んだ「脱いで」。
 徐々にほどけていくコルセットベルト。
 はちみつ色の眼差し。
 放つ色気。
 からの


 ミリア『ボタン取れてる』
 エリック・完全硬直。

 ミリア
 『だってコルセット苦しいじゃん。
  仕事の邪魔』(ずぱっ)。
 ミリア、きっちりかっちりストールでウエストを締め、作業へ。
回想終了。


エリック
「~~~~~~~……!」

 エリック、頭を抱えて悶絶を押し殺す。
 居心地が悪い。
 ベストはまだミリアの手の中。

 

エリック(心)
(くそ……! あんな風にコルセットを外すなッ…………!(心底恨めしそうに)


 エリック、顔を上げる。
 慣れた手つきでベストに針を通すミリアの様子。

エリック(心)
(────…………ボタンが付いたらすぐに帰る)


 ふう、と息。
 ちらりと横目で確認して。

エリック
「…………まだなのか」

ミリア
「ボタンは終わってる〜けど、」
エリック
「けど、ナニ」

ミリア
「裏地が破れそうになってるから、ついでに補強してる~」
エリック
「……………………(目を見開く)
 ………………そこ。気になってたんだ。直る?」
ミリア「もち!」

ミリア
「(陽気にごまかす様に)
 ……まあ~「助けてくれたお礼」に?
 ……ほらー、荷物まで持ってもらっちゃったしねー」


 ミリア、ちくちくぬいぬい。

エリック
「…………、いや、別にそれは」
ミリア
「ああ、別途サービスしたらいい? 
 うぅーん、それは困るなあ~」 

ミリア
「……こちらも商売なのでっ。
 サービスばっかりしてたら、あっという間に干上がっちゃうもん」
 
エリック「…………」
(────まあ。こういうところに勤めているぐらいなんだから、これぐらい……、ん?)
 
エリック
「…………君は、”縫製師”?」
ミリア
「ううん、わたしはスタイリスト。
 着付け師ともいうよね」

 
 ミリア、一瞬顔を上げて作業続行。
 その腕はためらいなく動いている。
 

ミリア
「ドレスって、一人で着れるわけじゃないからね。
 家で着せてくれる人がいないお客様もいるわけ。

 あとは『ご提案』。

 『似合う服がわからない』、
 そんな人たちに好みを聞いて、
 ”爪の先から頭の先までさいっこうに似合うスタイルを提案する”
 それが、わたしの仕事。
 
 …………さすがにヘアメイクはできないけどっ。
 あと、メイクもっ(お道化る)」
 

エリック
「……てっきり針子かと思ったけど」

ミリア
「えへへ、お直し雑用着付師なの」

 ミリア、肩をすくめながら糸を引く。
 滑らかな手元で『スッ』と小さく、糸が通る音がする。
 
 エリック、滑らかな手つきを眺める。
 すぅ──っと布を通る糸。
 糸切り鋏に切られる糸。
 ハサミを置いた小さな音。
 ミリア、ベストの仕上がり確認。

ミリア
「────はい、完成。
 ボタン、割れてたから新しいの着けといた」

エリック
「…………割れてた?」
ミリア
「うん、もうね~、限界ギリギリって感じでついてたから、交換しちゃった」

エリック
「…………悪いな、ありがとう」
ミリア
「いえいえ、お安い御用ですとも」

 

 エリック、ベストを確認。綺麗な縫い目。



エリック
「…………縫い目、綺麗だな」
ミリア
「そりゃーねっ、うちの職人には負けるけどっ」

エリック
「薄くなっていたのには気づいたんだけど……
 なかなか、手が回らなくて。
 ……こんなに綺麗に直るとは 思わなかったよ」

ミリア
「裏だし、薄くなってるとこを織り込んで縫っただけだよ。
 本当なら 一本一本、糸を絡めて紡いで差し上げたいところではあるんだけど……時間かかるんだ、あれ(肩をすくめて)」

エリック「……いや、十分だ」
ミリア「そっか」


 エリック、改めて店内をぐるりと一望し。

エリック
「…………店はいつもこんな様子なのか?
 さっきから、人が全然来ないけど」


 二人で窓の外を見る。
 広がるのは穏やかな初夏の午後。
 テントの影が色濃く石畳に落ちている。

 退屈そうに時を刻む壁掛け時計。
 エリック、微妙に心配そうに振り向く。
 ミリア、その視線に気づき、ぐっと伸びをしながら。

ミリア
「まーねーっ。
 …………モーテル通りにいくつも新しい工房ができたでしょ? 若い人はそっちに流れちゃうよね~。ウチみたいに、旧街道に建つ店なんか大体こんなもんだよ~」

エリック
「……大丈夫なのか?」
ミリア
「それはご心配なく〜。
 愛され続けて50年。ビスティーは、お客様の満足にお答えします♡」


エリック(心)
(……フ。まったく、吞気なもんだな)



ミリア「────と、言うわけで」
 ミリア、ぺろっと手を出す。


エリック「ん?」
 エリック、振り返る。
 


ミリア「──500メイル。頂戴しまーす♡」
エリック「はっ?」


エリック
「…………え。金をとるのか……!?」
ミリア
「当たり前でしょ、ただでやるわけないじゃん」

エリック
「いや……待って。
 さっき「お礼」って言ってなかった?」
ミリア
「それはボタン代ですねぇ~。
 糸代と技術代は別料金です(ドヤァ)」

エリック
「…………ちゃっかりしてるな…………(苦々しく)」


 ミリア、カウンター横から台帳を引っ張り出し、ガラスペンを当てつつ。


ミリア
「言っておくけど、これでも大特価!
 あ、お金ないならツケておくよ? お名前は?(心底真顔で)」
エリック
「…………いや、金ぐらいあるよ」


 エリック、やられた感にくらくら。
 


エリック(心)
(つべこべ言うのも面倒だ。この女、ああいえばこう言うし、言葉の切り返しだけはとても素早い。早く払って帰る)

(────気分は乗らないがな)


エリック、財布から紙幣を引き出しミリアへ。

ミリア「はぁい、どうも♡(にっこにこ)」
エリック「…………(納得できない)」


 エリック、さっさと退出しようとする。
 ミリア、台帳から顔を上げ。

ミリア「で、お名前は?」
エリック「…………いや、今払っただろ?」


 エリック、不機嫌に問い返し。
 ミリア、台帳を指でトントン叩くと。


ミリア
「お直しリストに書かなきゃなの。
 ほら、ここ。書いて?」

エリック
「…………ああ。はいはい。
 …………なら、先に言ってくれないか? 
 いきなり言われても混乱するんだけど(嫌味)

ミリア
”お直しリストに記載が必要ですので、お客様のお名前をお書きください”(嫌味っぽく)」


 
 静かに走り抜ける稲妻。
 エリック、無言でガラスペンを取り台帳に押し付けると。


エリック
「………………住所は(ぶっきらぼう)」
ミリア
「ツケじゃないから必要ないよ〜(そっけない)」


 ふたり険悪。 
 エリック、名前を書く。
 ミリア、それを読み上げる。

ミリア
「…………『エリック・マーティン』さん」

エリック
「………………、なに? そんなにじっと見て」

ミリア
「…………や? 別に何も?」

エリック「……?」
(スペルでも間違えたか……?)

 
 エリック、首を傾げて覗き込む。
 後ろから扉の音
 【ぎっ……、ぎいぃぃい……っ】

ふたり『──?』

 二人、同時に振り向く。
 入ってきたのは初老の女性・ロベール。

ロベール「……こんにちわぁ」
ミリア「──あぁ! ロべールさん!」


 ミリア、弾かれたように立ち上がりロベールの前へ移動。

 

ミリア
「今日はどうされました?」
ロベール
「…………こちらのお方は、おきゃくさん?」

ミリア
「ええ、はい。(接客スマイル)
 はじめてお越しくださいましたので、当店のご説明をさせていただいたところです」

 ミリア、ロベールに優しくにっこり。
 エリック、じっと見つつ。

エリック(…………まるで別人だな)

 エリック、あきれ混じりに息。
 エリックの脳内にぱぱっと浮かぶ、ミリアの顔。


  『500メイル頂戴しまーす♡』(にっこり)
  『それはボタン代ですねぇ~』(ちっちっち)
  『最後まで助けろ!』(オーガのよう)


エリック
(……見事な皮かぶりっぷりだな)
「…………」

 エリック、冷めた瞳を瞼で隠して

 ──内情:
 (……まあ
  人なんて、誰しもこんなものだろう

  素顔を隠し 自身も偽り
  騙し・騙され
  虚像に塗れ 生きている)


エリック
「…………」

ロベール
「……あらぁ。おじゃまだったかしら?」
ミリア
「いえいえ! ちょうど良い頃合いでしたよ♪」

 
 ミリア、ロベールに微笑み、エリックに向き直ると。うやうやと腰を下げスカートを広げ、「お見送り」のご挨拶。

ミリア
「………………それでは。
 ──エリック様、本日は有難うございました。
 またのご用命をお待ちしております」
 
ミリア
「……で、ロベール奥様?
 今日はどのようなご用件でしょうか?」
ロベール
「今日はねぇ、ミリアちゃんにいいものを持ってきたのよ~」
 

※エリックが店を出ていく。
燦燦と降り注ぐ夏の日差しの中、歩いて行くエリック。 
  


※場面転換

【ウエストエッジ 商工会ギルド】
【受付広場】

 会費未払い回収日。
 長テーブルを前に列ができている。
 オリーブグリーンの髪の糸目男(スネーク)の胡散臭い口元カットが移り、次。


 テロップ
 
  素顔を隠し 自身も偽り
  騙し・騙され
  虚像に塗れ 生きている


原作↓
https://ncode.syosetu.com/n9745hp/13/


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