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願い事をする前に、夢が叶ってしまった日のこと《Club with Sの日 第3回レポ》

2021年7月7日。
七夕。
夜、やることは短冊に願い事を書くことでも天体観測でもなく、Zoomのミーティング。
今日はClub with Sの日。
週に一度のお楽しみ。
年に一度しか会えない織姫と彦星よりも頻繁に繋がっている。
しかし。
参加者は日本全国のノンバイナリーorクエスチョニング当事者の若者。
織姫が彦星と出会うよりもずっと低い確率で、僕らは手を取り合うことができた。

第3回のテーマは『ノンバイナリーのロールモデルとは?』

なかなかタイムリーな話題。
このテーマはClub with Sを立ち上げた当初から意識していたけど、(だって、当事者たちでノンバイナリーのアーティストの話でワイワイ盛り上がるなんて、これほど楽しいことはない)、今こそ語るべき事なのではないか、と思った。

ある日、“ノンバイナリー”という言葉がトレンド入りした。
日本人のスーパースターがノンバイナリーであることをオープンにしたからだ。
今まで、自分は顔出しでノンバイナリーであることを表明し続けてきたし、自分なりに存在を表現してきた。
でも、届かなかった。
届いても、スルーされることがほとんどだった。
「ノンバイナリーって何?」
「ノンバイナリーって言葉、初めて知った!」
といった投稿が溢れ、かつてないほど“ノンバイナリー”という単語がネット上に流れた。
有名人の発言力を思い知った。
嬉しかった。
やっと認知してもらえるのか……!!
と感激した。
だけど、同時に、奇妙だな、とも思ったのだ。
〈たった今、“ノンバイナリー”というジェンダーを知った者たちの発言が拡散されていく。
→一方で、ずっと前から自認している当事者たちの声はなかなか届かない。マイノリティの発言力は弱いから。
→誤解や間違った情報が正しいもの、当然のこととして扱われる。
→それらが訂正されることのないまま、“ノンバイナリー”はまた忘れ去られていく。〉
この一連の流れを、奇妙だな、と思ったのだ。
ノンバイナリーはトレンドなんかじゃない。
大多数の人々はハイライトしか見えていないけど、僕らはすべての過程を知っている。
すべてを知った上で、僕らは生きている。
なぜなら、ノンバイナリーはアイデンティティだから。

そんな状況を踏まえ、Club with S公式Twitterアカウントで発信した↓

これが、自分の本心。
Club with Sの意志。

ミーティングでは、それぞれが憧れたロールモデルを挙げながら、ロールモデルの存在に対する当事者の本音を引き出したかった。

では、はじめよう。

Jonathan Van Ness (ジョナサン・ヴァン・ネス)
→美容師であり、Netflixシリーズ『クィア・アイ』の出演者。ノンバイナリーを自認。

ジョナサン!!!!!!!
この日を待ってた!!!!!!!

ノンバイナリーのコミュニティで大大大好きなジョナサンについて語り合える日がくるとは……
本当はオープンな場でもっともっとジョナサンの魅力を発信したかった。
でも、ジェンダーやセクシュアリティに関して悩んだことのない人々には、たった数%しか魅力が伝わらないのでは……? と思い、言い出せなかった。
もどかしかった。
それが、Club with Sなら、120%で伝わる。
どれだけジョナサンの言葉に励まされてきたか。
どれだけジョナサンのスタンスのおかげで笑顔になれたか。
どれだけジョナサンの存在に救われたか。
全部、全部、全部、伝えたかった。
なのに、伝える前に伝わった。
ひとつひとつ言葉に出さなくても、同じジェンダー・アイデンティティで、似たようなことを悩み、考え続けてきた同士には“共感”が先回りして届く。
たとえオンライン上のやり取りであっても、自身の想いが届いたか、なんて確認するまでもなく“受容”を体感する。
この心地良さはいったいなんだろう。

涙もろいジョナサンなら、今回のミーティングを観てきっと泣く。はず(笑)

ノンバイナリー当事者の有名人だけではなく、ジェンダー・ニュートラルなアーティストについても紹介し合った。
参加メンバーの話を聴きながら、“表象としてのロールモデル”を考えずにはいられない。
包括的な概念であるノンバイナリーに、シンボルの存在は有り得るか。
ひとりひとりは例に過ぎないし、「ノンバイナリーなのに○○」あるいは「ノンバイナリーだから○○」と指摘するのはおかしい。
イメージを一人に押し付けないことが大切で、言ってしまえば、ノンバイナリー当事者は誰もがロールモデルなんだ。
特に、今はまだ認知度が低いから、君が存在している、その事実だけでどれだけ多くの当事者を勇気付けているのだろう。
Lady GaGaも『Born This Way』でこう歌っている。

My mama told me when I was young
We are all born superstars

2021年7月7日。
ミーティングが終わる。
七夕が終わろうとしている。
願い事をするはずが、ノンバイナリーの人たちとジョナサンの話で盛り上がるという夢、Club with Sを立ち上げた目的の大半が叶ってしまったような、そんな日。
ありがとう、Club with S。
ありがとう、ノンバイナリー。
ありがとう、ジョナサン。

さて、来週の開催はノンバイナリーの日。
International Non-Binary People's Day
ノンバイナリー当事者たちが集まってジェンダー・アイデンティティをお祝いする、そんなコミュニティをまだ見たことがない。
そんなキラキラした空間を、自分はまだ見たことがない。


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