未完成のプレイリスト《Club with Sの日 第20回レポ》
Track 1. Serotonin - girl in red
“I have battled depression for the majority of my life”
と語ったのはDavid Dastmalchianという俳優だ。(インタビュー記事はこちら)
長い間精神的な問題と闘い、時にはヘロイン中毒に陥りながらも、適切な治療を受けて回復し、現在、ハリウッドで大活躍している。
そして、アメコミ映画ファンに大人気のJames Gunn監督映画『The Suicide Squad』に出演し、スーパーヒーロー“Polka-Dot Man”を演じる。
彼は、こうも語る。
“Shame, isolation and despair led me to attempt to take my life several times”
想像できるだろうか。
自殺願望のあった一人の青年が映画館の大スクリーンに登場する姿を。
そんな姿を観た不安障害を抱える一人のノンバイナリーの感動を。
David Dastmalchianは文字通り自分にとってヒーローとなり、『The Suicide Squad』はClub with Sの日のインスピレーション映画となる。
「精神的な病気になること=人生の終わり」ではない。
と証明してくれたのはDavid Dastmalchianだけではない。
今ではたくさんのアーティストやアスリート、アクティビストの方々が自身の精神的な悩みや困難についてオープンに語っている。
彼らの勇敢な行動によって、さらに世界中でメンタルヘルスへの正しい理解が広まるにつれて、少しずつ自分の中に存在する恥や抵抗は消えていった。
日本に住む一般人の若者の僕らにも、心の健康について仲間と語り合える可能性が出てきたのだ。
ただ、心の準備はまだできていなかった。
焦ったら余計失敗するような気がした。
だから、「メンタルヘルスを大切にしよう」というメッセージを発信するに留まった。
今日は調子が悪いな。
そう思った時は必ずといっていいほどgirl in redの曲を聴く。
ミーティングで何度も名前が挙がり、Club with Sのメンバーから愛されるgirl in red。
女性同士の恋愛について堂々と歌うQueerのアイコン的存在としてのイメージが強いが、個人的にはメンタルヘルス問題について正直に楽曲に取り込んでいくスタンスが気に入っている。
一番聴いているお気に入りの曲のひとつ『Serotonin』が収録されたアルバムのタイトルは『if i could make it go quiet』(心の中のノイズや得体の知れないものを静めることができたらいいのに)だし、一曲ずつ丁寧に聴かずとも『summer depression』や『i need to be alone.』という曲名を見ただけで、不安や鬱を綴る様子がなんとなく伝わるのではないだろうか。
girl in redをはじめとした同世代のアーティストたちの話を、若者ならではの悩みを、Club with Sの日に何度も共有してきた。
ミーティングを繰り返すうちに、そろそろかな、と思えてきた。
開催するなら日照時間が短くなって(セロトニン不足)、気分が落ち込みやすい冬の時期がいいな、と考えていた。
《メンタルヘルス特集開催》
の告知をした時、ついにここまできたか、と胸がいっぱいだった。
たまたま、数年前のSNSの投稿が出てきた。
「海外のティーン・ムービーを観ていると、セクシュアル・マイノリティのキャラクターや様々な問題を抱えた人々の自助グループが当たり前のように登場して羨ましい」
と、そこには文化の違いに対する驚きと憧れが書かれている。
君、たった数年後、実現しているよ!!
若者同士で安心してメンタルヘルスについて語り合える空間を手に入れたよ!!
まだ開催前だというのに、すでに満たされている。
Track 2. Oxytocin - Billie Eilish
2022年2月2日
Club with Sの日 第20回
メンタルヘルス特集初回
テーマ『ノンバイナリーのストレス発散法とは?』
本題に入る前に、ノンバイナリー関連作品の紹介タイム。
今回はバラエティ番組『Getting Curious with Jonathan Van Ness』
我らがロールモデル:Jonathan Van NessのPodcast番組が映像化された。
これは、すごい、すごい、すごい!!!!!
オススメを通り越して、殿堂入り!!
Club with Sのバイブル決定!!
特に、BinaryがテーマのEpisode 3は永久保存版。
最初から最後までノンバイナリーのためにつくられた回。
今現在存在するノンバイナリーを描いた映像作品で最も信頼でき、最も感動でき、最も推せる。
男女の枠に当てはまらないマイノリティ同士でサミットを開くシーンなんて、光景もトーク内容もClub with Sすぎて、一緒じゃん!! と突っ込みたくなるほど。
メンバーの皆さんにはぜひ観ていただきたい。
……と魅力を語っていたらあっという間に一時間が経ってしまいそうなので、堪える(笑)
ノンバイナリーとして生活していると、ストレスが溜まりやすい。
他人から直接的な攻撃を受けなくとも、男女二元論や異性愛規範といった社会構造そのものがストレスだから。
日々多くの困難と立ち向かいながら、自分を保って過ごしている、ある意味ストレス解消のプロである皆さんにお聴きしたかった。
Q. 一体どうやってリフレッシュしているの?
A. 食事、睡眠、運動(筋トレ)、瞑想etc……
うん、まずはエネルギーを蓄えることが大事だね。
本当に心身ともに疲労がピークに達した時って、趣味へと向かう力さえなくなってしまうから。
パワーチャージしたら、次は吐き出そう。
Q. デトックス方法は?
A. 安心できる音楽や映像作品に触れる、人と話す、涙を流すetc……
うんうん、毒を溜め込むのは良くないね。
「闇に囚われてはいけない」と『Star Wars』でも言っていた。(※例外:Batman)
直面する問題を無理に解決しようとしなくてもいいんだ。
一人ではできないこともあるし、時間がかかることもある。
ただ話を聞いてもらえるだけで、あるいはどこかに書き出すだけで楽になったりするから。
Q. でも新型コロナウイルスの流行によって、ライフスタイルが変わったのでは?
A. アウトドアの趣味は制限されたし、遠くに行けないことで、新しい場所や人と出会うことが簡単にできなくなった。だけど、それによって気付けたこともある。
それは、一言で言うなら“つながりの大切さ”ではないだろうか。
インターネットの価値をより強く感じるようになったのもそのためだろうし、もともとインドア派の人だってたまに外出して見出していたはずの新たな感情に触れられなくなって、妙に落ち着かない。
そうして、SNSにログインする。
Q. SNSには良い面も悪い面もあるよね?
A. 繰り返されるトランスジェンダー嫌悪。タイムラインに流れてくるLGBTQ+コミュニティへの差別的発言。ブロックしてもキリがない。誰かが声をあげて闘ってくれる。励まされる。と同時に、それは前提として、そこに偏見が存在することを事実として突きつけてくる。だから、何度もSNSとの距離感に悩んだ。いっそきっぱりログアウトしてしまおうかと思ったりもした。
でも、ここで仲間と出会った。
SNSがあったから、ノンバイナリー当事者と出会うことができた。
……一時停止ボタン、どこだ!?
笑うな!! 泣くな!!
早く、何かコメントを!!
隠しきれない喜び。
痛みの先にある多幸感。
今日一番感情的になって、幸せホルモンのオーバードーズ状態。
こんな日のために、こんな一言のために、今までやってきたんじゃないのか……!?
インターネット回線を超えて、感情で僕らはつながった。
選択した行動は、間違いなんかじゃなかった。
あの瞬間に、100回頷き、1000回共感し、これから10000回励まされるだろう。
ここまで一気に駆け抜けてしまって、ミーティング終了後に我に返った。
あれ、全くストレスを感じていなかった、と。
一番恐れていたことは、メンタルヘルス問題を扱うことで精神に負担がかかってしまうことだった。
だけど、ここは安全なコミュニティだ。
なぜなら、対話と共感を求めている人たちが集まってくるから。
みなさん表現力が豊かで、難しいテーマや繊細な心情について話されている時も自分の体験と結びつけながらイメージできる。
メンタルヘルスに優しい空間を生み出してくれてありがとう。
Track 3. Self Control - Frank Ocean
ある時期、気分の沈み方が酷くて病院へ行った。
はじめは疲れているだけだと思ったのだけど、一向に改善する気配がないし、悲観的な状態がずっと続くだけではなく、食欲不振や頭痛といった身体症状も出てきて、ああこれはダメだな、と精神科の予約を取った。
「忙しくて気分転換もできなくて。本当は趣味とかに時間を費やせたらいいと思うんですけど……」
診察ではそんな話をした。
すると担当の先生が
「その通りですよ。実は、趣味って思っている以上に大切なんです」
と伝えてくれた。
正直、処方された薬よりも効果があった気がする。
自分を一番追い込んでいたのは、忙しさによる物理的な制限でも、興味を引く作品の不足でもなく、「こんなことをして何になるのだろう。自分みたいな人が楽しんでいていいのだろうか」という思い込みだった。
習慣を変えるのに時間はかかったし、今でも意識していないと忘れそうになるけど、できるだけ好きな物事と触れられる状態を整えるために工夫している。
推しは大切。
あの先生の一言のおかげで、趣味に時間やエネルギーを費やすことに罪悪感がなくなった。
感謝してもしきれない。
落ち込んだ時、君自身に寄り添ってくれる音は何だろう?
辛い時、君自身と調和する色は何だろう?
立ち直れない時、君自身の中で響く言葉は何だろう?
それぞれ種類や数は違うだろうけど、大切なことは、自分だけのプレイリストを作る、作り続けることだ。
プレイリストに音楽が並ぶ人もいれば、お気に入りの場所の景色が保存される人もいるだろうし、相談しやすい人たちの連絡先が記載される人もいるだろう。
もちろん、プレイリストは一つである必要はない。
その時の精神状態や落ち込み度によって、あるいは季節によって自由に変えたらいい。
そして、不安になった時いつでも再生できるように、元気な時に作成しておくこと。
それはまるで、突然雨に降られた時のために、晴れの日に好きな色の傘を準備しておくようなものだ。
世界にたったひとつのプレイリストは君をきっと新しい世界へ導いてくれる。
例えば、仲間と出会えるコミュニティとか。
プレイリストは更新され続ける。
今日、リストの最後に“Club with Sの日”が追加された。
読んでくださってありがとうございます。いただいたサポートは【Club with S】運営メンバーがジェンダー論を学ぶ学費(主に書籍代)に使わせていただきます。