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ヤナーチェク弦楽四重奏曲第一番「クロイツェル・ソナタ」

(ハーゲン弦楽四重奏団)
 ヤナーチェクの弦楽四重奏曲には、郷愁とリリシズムを感じることから好んで聴いています。今回、弦楽四重奏曲1番の原作であるトルストイの「クロイツェル・ソナタ」を読んでみました。

 地方の貴族である「私」は、妻と折り合いが悪くしょっちゅう喧嘩しているのですが、あるときパリ仕込みの伊達男であるヴァイオリン奏者と、ピアノを趣味で嗜む妻が意気投合し、家庭の音楽会で合奏を楽しむようになり、二人の仲を怪しみ嫉妬した「私」が妻を刺殺すという物語です。
(訳文)
 「私は彼を妻に紹介しました。すぐに音楽の話が始まり、彼はよろしければ一緒に合奏をと申し出ました。妻はあの最後の頃いつもそうであったように、いかにも上品で魅惑的で、どきどきするほど綺麗に見えました。
 彼女はどうやら一目で彼のことが気に入ったようでした。おまけにヴァイオリンと合奏できると聴いて大喜びしていました。
ー略ー
 私の観察するところ、この最初の出会いのときから彼女の目が特別きらきらと輝き始めましたし、おそらく嫉妬のせいでそうみえるのでしょうが、彼と彼女の間にすぐさま電流のごときものが通い始めたようで、それが両者の目つきや笑い方をそっくりなものにしているようでした。彼女が顔を赤らめると彼も赤くなり、彼女が微笑すると彼も微笑むといったふうなのです。」

 ヤナーチェクの「クロイツェルソナタ」は約18分の4楽章からなり、スル・ポンティチェロという特殊奏法は聴きどころで、ガラスを引っ掻いたような音で掻き鳴らされるのは、主人公の「私」の心の動揺や嫉妬を表現しています。3楽章で、ベートーヴェンの“クロイツェル・ソナタ”第1楽章副主題の引用があるのは、妻とヴァイオリン奏者が音楽会ではじめて合奏した曲が、ベートーヴェンの「クロイツェルソナタ」だからです。「私」は二人の演奏に感銘を受けたと同時に激しく嫉妬したのでした。

 ヤナーチェクは私、妻、ヴァイオリン奏者の3人の関係を弦楽器で見事に描いています。全体的に抒情的で胸をざわざわとさせるような音楽で、ときどき夫の心の叫びが現れます。とても良い曲なので良かったら聴いてみてくださいね♪

参考)ヤナーチェク「クロイツェルソナタ」はこんな曲です。https://www.youtube.com/watch?v=TpjIi7-nAOM

注)2018年7月14日の過去投稿記事です。

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