見出し画像

子どものトレーニング理論その1〜素材集めをせずに料理は始められない〜

世界での研究

ヨーロッパのサッカーを題材にしたこんな研究があります。

11歳の時点で、
① サッカーのスキルを徹底的に仕込むことに全ての時間を費やしたチームの子どもたちと、
② サッカーのスキルは程々にサッカーに限らず様々な形態の運動体験の数を増やすことに時間を費やしたチームの子どもたち、
2つのタイプの群の成長を追いかけました。
すると11歳のときには①が勝つのですが、その後2年間で②のほぼ全てのメンバーがパフォーマンスにおいて①を逆転しました。

似たような研究は世界中で行われており、特定の競技を除き同じような結論を示しています。
(例外の競技とは器械体操・ゴルフなど対戦相手に干渉されずに自分が良い動きをできるかどうかを競うタイプのものです。)

運動体験を作る


ここで言う運動体験とは、サッカー経験があるといった競技の経験値のことではなく、もっと根幹の立つ・走る・跳ぶ・転ぶ・投げる…といった身体運動のことです。

産まれてきた赤ちゃんは指しゃぶりなどから始まり寝返りやハイハイ、立つ、歩くなど、生きていく上で必要な運動を学習していきます。
2歳にもなれば当たり前になる“立つ”という運動も、最初は一から学習しています。このように産まれてからしばらくは様々な運動を一から学びますが、獲得した運動要素がある程度の量になると、新しい運動様式だとしても過去に学習したことのある運動要素を応用したり組み合わせたりしながら獲得していくようになります。

身近な例を一つあげます。

二人の小学生が一輪車の練習をしているとします。
一人は自転車に乗れます。
もう一人は自転車に乗った経験もありません。
どちらが早く一輪車を乗りこなせるようになるでしょうか?

後者が超天才でない限り、みなさん同じ回答になるはずです。
自転車に乗れる子は、ペダルを漕いで車輪を回転させ進む感覚、バランスを取る感覚、などをすでに獲得済みです。あとは車輪が一つとハンドルがなくなった分の違いに適応すればよいだけです。しかし自転車に乗った経験すらないと、全て一から学習することになります。

仕事でも、過去に作った資料だったり、プログラムのコードだったり、枠組みをコピペして目の前の課題に適応させた方が、白紙から始めるより圧倒的に早いはずです。

専門的な理論は割愛しますが、“獲得済みの運動感覚が多いほど新しい運動を学習するのに有利になる”、と理解していただければ問題ありません。また“怪我を回避する能力”にも大きく関係します。

子どもたちのスポーツ環境はこの30年で大きく変わった


子どもたちの運動環境に関して私が常日頃感じている問題点は、早い時期から特定の競技動作に特化し過ぎていて、身体を使った自由な遊びが少ないことです。

理由は、共働き世帯が多いことや、自由に遊べる場所が減っていることなど、社会の変化が一つ、もう一つは少子化の影響で各競技の関係者が自分たちの競技人口を確保するために低年齢の子たちをターゲットに囲い込みを計っているからです。

早いと5歳ぐらいから野球なりサッカーなりをやっていて、投げる・蹴るなどは30年前と比べてとても上手です。最近の野球少年はびっくりするぐらい綺麗なフォームで投げます。

しかし、ジャンプしてみるとどこかぎこちない、中学生でも鉄棒に10秒もぶら下がっていられない、など予想外のことがよく判明します。

長期的な視点を持つべき


中学生ぐらいまででしたらそれでも活躍できますが、それより上のレベルでは小学生の頃の技術体系でそのまま通用するのはごく一部の天才のみです。必ずどこかで壁にぶつかります。

そのときに新しく学びを得られるかは、どれだけそのときの状況に合わせて調理できる良い素材を持っているかにかかっています。いつ役に立つかはわからないけど、獲得できる限りたくさんの運動感覚を若いうちに学習しておくと、ある時、点と点が線で結ばれる瞬間が訪れます。

一つ前の投稿で書きましたが、大人が子どもの成長を考えるときは必ず長期的な視点を持たなければなりません。

 私が指導するスクールでは、競技種目に関わらず全ての根幹となる、立つ・走る・跳ぶ・転ぶ・回る…といった運動感覚を徹底的に見直し鍛え、5年後・10年後に活躍できるアスリートを育てることを主眼に置いて指導しています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?