【読書ログ】物語思考

書籍情報

タイトル:物語思考 「やりたいこと」が見つからなくて悩む人のキャリア設計術
著者:けんすう(古川健介 アル株式会社代表取締役)
オススメする読者層:キャリアや将来を考えたい方、やりたいことが見つからない方
Amazon

本書は「やりたいことの見つけ方がわからない」という人や、「行動しろと言われてもできない」という人を対象にしています。将来どうしたいかを考える際や、そこからどう行動するかを考える際に非常に役立つ内容です。

要約

「物語思考」とはなにか?

物語思考とは、一言でいうと「自分の理想どおりに人生を過ごすためには、いっそ一つの物語を作るように考えたほうがいいよ」という内容で、「小説を書く」ようなイメージが近いです。

この方法が有効なのは、自分を客観視しやすい状態にしておいたほうが、本質的な対策を打ちやすいためです。

物語思考では、「やりたいこと」を設定するのではなく、まず「なりたい状態をイメージ」をイメージすることからスタートします。「何をしたいか」(Do)を考えるのは難しくても、「どうありたいか」(Be)はイメージしやすいです。

以下、本書の5ステップに従って要約します。

ステップ1 頭の枷を外しながら、なりたい状態を考える

✔ 頭の枷を外す
上述の通り物語思考では、まず「どうありたいか(Be)」を作るところから始めます。行動をイメージするのは難しいのですが、「なりたい状態」を想像するのは意外と簡単だからです。しかし、これをやろうとすると多くの人がとても現実的な範囲で想像してしまうといいます。

著者のけんすうさんが人の相談に乗っていると「何の制限もなかったとしたら」という条件であるにも関わらず「年収600万」が出てきたりするそうです。制限がないわけですから1,000万や1億とかいても良いはずなのに、勝手に自分の限界を決めてしまっているわけです。

けんすうさんはこれを「頭の枷」と読んでいて、これがあると「物語として全然つまらないものを目指してしまう」ことになり、ワクワクしなくなってしまうといいます。なので、頭の枷を取り除いた状態にして、なりたい状態を考えるのが最初のステップになります。

✔ 未来になりたい状態こそが行動に影響を与える
多くの人は過去の積み重ねで将来の行動を決めてしまいます。しかし、10年間毎日野球をやっていた人が、良く考えた結果「将来はプロのテニスプレイヤーになりたい」と本気で思ったとしたら、その人は今日はテニスの練習をするはずです。

「過去を変えることはできない」「何かやるなら、人生でいちばん若いうちから行動を始めるのがいちばん有利」という2つの事実を踏まえると、「やらなかったことを後悔するのは無駄な行為」であり、「将来像を決めたうえで、今から行動を始める」のが合理的ということになります。

将来なりたい状態を考える具体的な方法として、10年後になりたい状態を100個書く、「こうはなりたくない」から考える、事実と解釈を分けてトラウマやコンプレックスと向き合う、解像度をあげて実現に近づける、などの方法が紹介されています。

ステップ2 「キャラ」の作り方

✔ なぜ、キャラを設定するのか
多くの人が「自分というものが存在して、その自分が動いている」と考えがちですが、「1番なりたい状態に近づくために、一番効率的なキャラは何か?」を考えた方が楽といいます。

習慣を作りたいときには、
がんばって実行して、成果を出す

うまくいったら「自分はこういう人間だ」と認識する
と考えがちです。

が「いい結果はすぐに出ない(遅い)」「いい結果はなかなか出ない(難しい)」の2つの性質より、挫折の原因になりやすいです。なので、実は先に決めるべきは自分のキャラクター(=アイデンティティ)であり、

自分はこういうキャラクターだと認識する。

そのキャラがやりそうなプロセスを実行する

結果が出る

という手順を踏む方が成果が出やすいです。健康のために禁酒する際「自分は禁酒をしている」と思うと毎回我慢し続ける必要があるため「今日ぐらいはいいかな…」となってしまいかねませんが、「自分はお酒を飲まない人間である」というキャラを先に作ってしまえば、飲みの席でも「あ、私お酒飲めないんです。」と断ることができます。

✔ 他人は、あなたの行動を見て「性格」を判断する
けんすうさんはもともと活発な生活ではなく、リーダーになりたいという欲は皆無だったそうですが、なりゆきで起業して社長業を続けることになったせいで、「難しい問題でも挑戦し続け、あきらめないタイプの人間」という感覚になってしまったそうです。

けんすうさんのエンジェル投資先のオーナー社長さんも、最初は若い大学生みたいな印象だった方も、割とすぐに社長っぽくなっていくといいます。というか、社長っぽくならないとやっていけないのです。

また、ロックミュージシャンの矢沢永吉さんは、自分は別に贅沢しなくても構わないが、お客さんが何を求めるかを考えて、「俺はいいけどYAZAWAはなんて言うかな」という表現をするそうです(なお、発言は真偽不明とのこと)。

以上のように性格は、もとからあって行動が決まるのではなく、行動自体が性格にも多分に影響する、他人は行動を見て性格を判断する、といった性質があります。

ゆえに、まずはなりたいキャラをつくり、それに近づく行動をとることで性格(キャラ)自体も変えてしまうことができます。

✔ なりたいキャラの原型を作る
いきなりゼロからなりたいキャラをイメージするのは困難です。有効な方法としては、なりたい状態をざっくりとイメージし、それを体現している「実在の人物」を想像します。

「他人に振り回されることなく、自分の意志で人生を進めたい」「お金に縛られずに自由に生きる」といった理想がある場合、そのイメージに近い有名人、周りの人、歴史上の人物などをリスト化します。

一人でなくて大丈夫で、各理想ごとにそれぞれ人物をあげたり、迷ったら一旦空欄にしておいてもOKです。逆に理想の人を挙げて、そこからなりたい状態を考えるのもありです。これにより「なりたい状態」がアップデートされます。

ステップ3 「キャラ」に行動させよう

✔ キャラは「行動」からも生まれる
「キャラという設定があるからこそ、それに従った行動がなされる」と考えがちですが、実は「キャラが作られる」と「行動する」は両輪の関係にあります。

以下の2人のうち、どちらのほうが「優しい人」だと他人から思われるでしょうか。
A:内面はすごく優しいけど、人に暴力をふるったり、人の大事にしているものを盗んだりと、迷惑行為をする人
B:内面はまったく優しくないけど、相手がしてほしいことを常にして、相手のサポートに周り、相手の感情に寄り添う行動をしている人

言うまでもなくBを優しい人と認識するでしょう。内面は他人からはわからないためです。そして、Bのような優しい行動をとり続けていると、自分でも「自分は優しいんだな」と認識して自分は優しいキャラだと思うようになります。

逆にキャラと行動が結びついていないと、キャラだけ作って行動が伴わずに、「自分で自分を信じられない」状態になり、うまくいかなくなります。

✔ キャラがしそうな行動を書いて実践してみる
というわけで作ったキャラの性格をもとに、「こういうときにこのキャラならどうするか?」を作ってみます。まず、一番初めに考えるべきは「話し方」です。

一般的に、何かを言われたときの反応は、みんな無意識かつ反射的にしてしまっています。誉め言葉をかけられると謙遜して否定しまったり。誉め言葉をかけた側からすると、「間違っています」と言われたように感じてしまいます。

なので、自分の決めたキャラならどうこたえるか?を事前にイメージします。褒められたら「ありがとうございます!うれしいです!」と素直に返すなど。

続いてシーン別に行動を考えます。
朝起きたら何をするか?→ゴロゴロせず、すぐに活動を開始する
電車に乗る時に何をするか?→将来に役立ちそうな本を読む
メンタルが落ち込んでしまったときはどうするか?→よく食べて早く寝るようにする
といったように、こういうときにこのキャラならどうする?をたくさん作るのが重要です。

ステップ4 キャラが最高に活きる環境を作ろう

ステップ3まではなりたいキャラを作り、それに沿って行動するという話でした。それだけでも十分に効果はあります。しかし、同じ環境でキャラを変えたとしても、なかなか真価を発揮することはできません。

極端な話ですが、なりたい状態に「体を絞る」ような要素を入れたとしても、ラーメンの食べ歩きをする「ラーメンサークル」のような環境にいたとしたら、ノルマに対して効率的にラーメンを食べにいってしまい、なりたい状態からは遠ざかってしまいます。

ここで「ストイックな運動をする人が集まるサークル」に環境を変えれば、キャラの運用もスムーズになります。

✔ 自分は「自分」をどう認識しているか
「ずる」(ダン・アリエリー)というという本で「自己シグナリング」という概念が紹介されています。人は自分で思っているほどには自分のことははっきりわかっておらず、「自分で自分の行動を見て、自分の性格を判断している」という内容です。

上述している通りですが、自分の性格というものは実は曖昧で、周りからの扱われ方が変わると、自分の行動も変わり、それにより自分の性格も変わる事例が紹介されています。

というわけで、ステップ3までに作った理想のキャラがあり、そのキャラのように扱われる環境を作るだけで、割と簡単に人格などは変わる可能性があります。

✔ 環境とは周りの人のこと
ここでいう「環境」とは、「周りにどんな人がいるか」という意味です。「社会的ジレンマ ー「環境破壊」から「いじめ」まで」という本の内容から周囲の人の影響の大きさを説明されていて、ものすごく簡単にまとめると、人は「多くの人がやっていることの側につきたい」となります。

これを応用すれば、要は「自分が理想とするキャラの行動をしている人の中に交じるだけで、自分も行動できるようになってしまう」ということになります。

上記のほかにも環境の力の大きさが様々な理論や事例から説明されています。更に、肝心の「その環境をどうやって見つけて、どうやって中に入るか」についても、具体的に紹介されています。

ステップ5 物語を転がそう

物語は、「主人公がいろいろな挑戦をして、失敗したり成功したりしながら、成長していく」のが王道です。これと同じように、「物語的に自分の人生を客観視してみて、読者目線で面白いと思えるように生きていく」というやり方がおすすめです。

なぜこれが大事かというと、人は基本的に挑戦しない、守りに入る生き物だからです。新しいことに挑戦するのは誰だって怖いです。それを乗り越えるために自分を客観視して「物語だったらどうなると盛り上がるか?」と考えると人生で挑戦する回数が増えてチャンスが増えていきます。

けんすうさんはこのことを「物語を転がす」と表現しています。

✔ 人生における名場面をイメージする
まずは自分が作ったキャラがどんな状況になっていてほしいか、その「名場面」をイメージすることから始めます。「目標」などの言葉にすると最終ゴールっぽく見えてしまいますが、けんすうさんはゴールに到達して成功するよりも、喜びと苦しみが混ざり合った日常こそがもっとも充実感と幸福度を感じられる過ごし方と捉えられていて、到達点よりもプロセスに近い言葉として「名場面」をキーワードとして設定されているようです。

名場面は①定性的なものにする、②ワクワクする形で書く、③自分が記憶しやすく、スラスラ言えるくらいのものにする、形で設定します。

名場面がイメージできたら、今度は行動計画を立てます。その際に大事なのは、目標をとにかく細かく分解することです。人には現状維持したいという性質があるため、新しい習慣や目標を立てても抵抗を覚えてしまいます。なのでとにかくハードルを下げます。

✔ 物語を転がすためのコツ5選
1.不安なことはすべて紙に書き出してみる
2.尊敬する人にメールで相談するふりをしてみる
3.アイデアを温めない
4.「判断」と「決断」を区別する
5.リスク管理表を作る
だいぶ長くなってしまったので項目を並べるだけにしますが、どれも新しいことに挑戦するときには非常に有効な方法です。

✔ 「失敗」が物語をおもしろくする
誰しも失敗はしたくないかと思いますが、物語だと捉えればむしろプラスとも言えます。何も失敗しない物語の主人公がいいかというと、そうとはいえません。失敗や敗北をするからこそ、物語が引き立つという考え方もあります。

人のことを評価する人は、「点」で評価しがちです。しかし、適切に人の人生を評価するには「線」で評価されるべきです。そう考えれば一時点の失敗よりも、長いプロセスでどういうことを成しえたかで考えるのが妥当です。

物語を転がす際に、失敗をすることは決してマイナスではない、という考えを持ちましょう。

感想

非常に読みやすく、にも関わらず内容も極めて非常に充実していて説得力がすごいです。抽象的なあるべき・なりたい状態を考えるための実践的な方法が紹介されていて、かつその通りに行動するための具体的な方法が多数・詳細に説明されています。具体と抽象の往復のバランスが非常に取れているように感じました。

少し脱線しますが、本書でも「抽象度をコントロールする」という内容も話されていて、具体と抽象の概念は押さえておくと何かを考える際に非常に役立つかと思います。当記事の1番下に、以前書いた書評を乗せておきます。

話を戻しまして、なりたい状態について、ゼロから問われるとなかなかイメージしづらい部分もありますが、身近な人や有名人なり歴史上の偉人、実在の人物から出発すると考える糸口として非常に有効なように思います。

一つ一つの主張の根拠や理論の裏付けの説得力もさることながら、それの組み合わせ、つまりはストーリーの組み立て方がとても面白かったです。全部実践できれば非常に効果があるかと思いますが、部分的に試すだけでも色々なヒントが得られそうです。

本書内では実践のためのワークシートも入っているため、実際に行動に落とし込む際の後押しもしてくれます。最後の一言も含めて著者の配慮を感じます。

けんすうさんご自身が非常にユニークなキャリアで、まさに「物語を転がす」ことを実践されているように感じます。社長をされているアル株式会社はクリエイターの活動を後押しすることをミッションの1つに掲げられていて、自分も漫画やアニメは好きだったため、今後の活動も楽しみです。

とても良い本だったので非常に長くなってしまいましたが、紹介したかったものの分量の関係で書けなかった箇所も多分にありますので、ぜひ買って読んでみてください。自分も繰り返し読んで実践しようと思います。

最後までお読み下さりありがとうございます!

けんすうさんが代表取締役を務めるアル株式会社はこちらです。「物語を転がす」ことは会社の価値観にもされていて、いくつか募集中の職種もあるようです。バックオフィスの募集を開始したら検討したいところ…。

以前書いた細谷功さんの具体と抽象のリンクはこちらから。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?