天童荒太(2019)『ムーンナイト・ダイバー』文春文庫

画像1

真っ暗で、冷たく、死の匂いのする海に潜るのは、かつてあった生の記憶を探し出すため。大震災が人々の心に残していった、希望という感情の一つの形を描く。光は道しるべとなるが、時に恐怖ともなる。

決定的ライフイベントとして多くの人に共通の記憶を植え付けたことで、その後の結びつきを作るのにあたってある程度プラスに働いたのは事実だろう。願はくは犠牲を払わず心の紐帯を結べればいいのだが、そんなに素直じゃないのも人間ということか。大切なものは失ってはじめて気づくと。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?