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カヌス・ウンブラについて

概要

 この記事では2週間ほどかけて開催された「Colorful OneRoom」に登録したキャラクターである、Eno.355 カヌス・ウンブラ(レウイ)についての詳細設定および後日談を書いていきます。だらだら風味で書いていく予定ですので、お気軽にのんびりお読みください。

参加のきっかけ

 今回の「Colorful OneRoom」、なんと戦闘がなく交流だけってシステムに「わ〜お」ってなりながら参加するかどうかは直前まで迷ってました。なにしろ交流だけってそれ面白くなるのかなと思っていたところありましたし、色集めといったゲーム的要素があるならそれでなんとかなるのかなとどうなのだろうと考えあぐねていたので。
 しかし、実際にサイトがオープンになりルールブックに目を通していくなかで注意事項に「・このゲームの世界観はキャラクターにとって不都合な(色が失われる等)状態を与えてしまうことがあります。」とあり、ここで「へえ、面白い」となったのが参加を決めた部分でした。
 あえて不便な状況を参加キャラクターたちに与えて、そこから交流を促そうとするのは新鮮であり、だったらそういった状況でこそ存在が許されるキャラクターはどんなものだろうかと考えていったのがこちら。

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 シンプル、あまりにもシンプルな絵柄!黒線だけの簡単な絵!お借りしたのは『虚無顔メーカー』様。こちらのメーカー様、前々から見つけていつか使いたいとずっと思ってまして、だったら今だ!という勢いでキャラクターを作成し登録するとなったわけです。

登録初期の設定

 登録するにあたって当然求められるキャラクターネーム。これ人によってはかなり悩むものだと思いますが、今回はさくっと浮かびました。ひとまずこんなキャラでいこうと考えたのが以下の初期も初期な設定。

・一人称:オレ 二人称:あんた
・とある英雄のクローン
・器みたいな存在だったのでテーラからはガワしか認識されなかった
 そのせいで線画という姿になった
・事故で意識をうしないこの世界へくることになった

 ぐらいしか考えておらず、設定が固まったころにくらべるとだいぶん違うことがわかります。名前についてはラテン語で「灰色の影」、英雄とされたキャラクターの名前はこの時点だと「アッシュ(くすみのある灰色)」しか名前を考えてなかったので、そのクローンだとわかる名前にしようと思ってカヌス・ウンブラとなったのでした。
 ちなみに個人的な趣味としてキャラクターの名前はラテン語からひっぱってくることが多いです。なぜかラテン語の響きってどれもかっこよく感じられるので、英語ネームにするよりかはラテン語にしてぱっと見で意味がわからない名前にしがちです。

固まっていく設定

 そして実際にゲームが始まりキャラクターを動かしだしていくなかで、だんだんと「こういうキャラクターのほうが面白い or 謎がひきたつのでは」と思いつくことが増えてきました。ほかのPCとの会話でも「なぜそんな姿なのか」と問いかけられることが非常に多く、それに「どうしてかオレもわからない」と答えることで、その理由と本当の姿を知ってみたいと思ってくださった方が何人もいてくださったのが楽しかったです。
 だったらそこを一歩進めて、本当にこいつは何者なのだろう、本当にテーラの心象世界の外から来た存在なのだろうかと考え出し、ミスリードをさせられたら面白いんじゃないかと思って、次の設定をぶちこみました。

・夢という形で日記を作成
・アッシュ・ビクターなる存在が自らの記憶を見せてくる
・カヌス・ウンブラという存在は、もうひとりいる

 当初は日記を書かないでおこうと思っていたのですが、おもいのほかカヌスの正体を気にかけてくださる方が多かったので、情緒をもや……げふんげふん。楽しんでいただこうと思って!思って!日記ではカヌスの正体に迫るような内容を描写していったわけです。
 この辺がだいたい開始2〜4日ぐらいに思いついた設定でして、1週間の折り返しぐらいまでにはおおよその設定が決まりました。

最終的な設定+α

 ざっと箇条書きで記していきます。

・カヌス・ウンブラと名乗るこの人物は、テーラの心象世界に住む曖昧な住人のひとりである。(この頃の記憶は一切失われている)
・彼はある日、外の世界より流れ着いた「アッシュ・ビクター」と「カヌス・ウンブラ」の遺志ともいえるべきものを、偶然手に入れた。
・手に入れた結果、彼は自らを「カヌス・ウンブラ」であると思い込み半端に記憶を継承、ついで「アッシュ・ビクター」の遺志から人格となるものを半端に継承したのだった。
・それによって彼は「カヌス・ウンブラ(仮)」となり、テーラの心象世界にてありもしない己を探す日々に迷い込んだ。
・ときおり「イケメン」を叫んだり、強調するのは自分は何者なのかという不安から目を背けたい逃避行動のあらわれ。(ネタに対する後付け)
・味覚のにぶさや体温の低さなどは曖昧な住人であったころの名残。
・肉体能力の高さは、半端に得た「カヌス・ウンブラ」の記憶による思い込み。(心象世界なので想うことがそのまま力となった)

といった設定になりました。
 なお彼の設定だけでなく、「アッシュ・ビクター」と「カヌス・ウンブラ」についてもまた設定を詰めていくことにもなり、同じく箇条書きとなりますが以下にざっと記しておきます。

「アッシュ・ビクター」
・最強の兵士を生み出そうとする博士のもとで誕生したひとりの遺伝子改造人間。しかし、遺伝子の組み合わせにより、黒と白と灰色しか視認できないため失敗作とされた。そこを博士の孫娘が名前(アッシュ)をつけてしまったので、経過観察も兼ねて培養ポッドから摘出。孫娘の遊び相手として生きていくことになった。
・数年したところで、博士の気まぐれでいくつかの適正テストを受けさせたところ、どれもが驚異的な数値を叩き出し、これならば最強の兵士たりえるのではと企んだ博士の意図によりアッシュは本格的な戦闘訓練を受ける。
・その後は博士の知り合いである軍人に預けられ、実戦を経験させられていくなかで、突出した結果を叩き出していく。だが、軍人によると「相手を殺す際に躊躇する」という兵士としては一番の欠点があると博士に連絡が入る。最強の兵士を生み出したい博士としては何としても消したい欠点ではあったが、アッシュは孫娘とのふれあいで人の情緒を得てしまっていた。
・ならばと考えた博士は狂言誘拐を演出し、博士に恨みのある人物たちが孫娘を誘拐したとアッシュに連絡。廃墟となった研究所に単身攻め込んだアッシュだったが、そこにいたのは笑顔の孫娘。状況の食い違いに戸惑うアッシュの背後から、孫娘を撃つ博士。
・なぜ、どうしてという問いかけよりも先に、博士の下半身を手持ちの武器で吹き飛ばすアッシュを見て、博士はこれで完成したのだと笑う。博士と孫娘の笑顔が、そこでアッシュに呪いを掛けることとなった。
・後日、様子を見にきた軍人は博士の遺言を受けて、アッシュを軍へとスカウト。戦場にてありとあらゆる結果を叩き出しつづけたことで、アッシュは最強の兵士と謳われ、とある企業が製造するクローンの素体に選ばれたのだった。

以上が「アッシュ・ビクター」の設定となります。博士と孫娘には名前は設定してません。軍人さんにも。自分の野望のために孫娘殺してるあたり、博士は最初から他人への愛情なんてものもってなくて、孫娘も本当に孫娘だったのか怪しいところがあるかもしれません。下手すると孫娘はアッシュの姉(別の失敗作)であった可能性も。
 このあとアッシュは企業の素体として肉体および頭脳データを管理されたあと、その頭脳だけを企業のマザーブレインを防衛する情報体として再利用されることになります。
 なおたからものである「灰色の輪っか」はアッシュから生み出されたもの。本来は色とりどりの花と植物で作られた花の輪っかなのですが、色彩の認識に異常があるアッシュには灰色にしか見えていなかったわけです。

「カヌス・ウンブラ」
・何千体といるアッシュ・ビクターのクローン
・製造ナンバーはB1型4208423-KKK0002複製体
・オリジナルの欠点であった色覚異常をフォローするため、常にアイゴーグルを装着していた。
・頭脳にはアッシュの戦闘経験および知識がインストールされており、肉体は最大のコンディションを発揮できる年齢に固定されている。また寿命限界は50年で設定。
・激戦につぐ激戦で肉体のほとんどは機械部品へと置き換えられており、脳以外はほぼ機械の体へとなっていた。ただし、バイオプラントに依頼すれば肉体を再生することも可能であったが、彼は生身の肉体よりも機械であったほうが利便性が高いと判断し、機械の体を維持していた。
・30年間におよぶ従軍から他のクローンよりも突出した結果および、指揮官としても動ける有能さが評価された。これはカヌスが長い戦場経験のなかで自我を芽生えさせたことが原因。本来ならばクローンには自律意識は存在しておらずプログラム的に命令を遂行するマシーンだったのだが、度重なる激戦のなかで同僚を失い、自らを失いかけた際に生存意欲へと目覚め、自らが生き残ることを与えられた命令に上書きしてしまった。
・そのためイレギュラーとして処分されかけることもあったが、圧倒的な帰還率および現場における柔軟性の高さを評価する上司がいたこともあり、処分をまぬがれていた。
・上司の推薦により彼は新たに特殊部隊への入隊となり、同時にそこで軍から"人権"を与えられた。それまでは軍の備品(軍が企業よりクローン兵士を買い取った)であったが、人間として扱われるようになり個室や給与といったものを受け取れるようにもなった。
・特殊部隊に入隊してからはコードネーム「カヌス・ウンブラ」を取得。ほぼそのまま自らの名前としても使っていた。
・特殊部隊での任務はそれまで以上に過酷なものばかりであり、部隊の仲間たちは何人も死んでいった。そして、彼は上司(戦場での上司とは別人)からひとつの任務を言い渡される。「とある企業のマザーブレインへとアタックを仕掛けろ」と。
・その企業は非常に悪名高い評判があり、軍が動くほどに危険視もされていた。そして彼はこの任務がもっとも危険かつ帰還も見込めない可能性があることを知らされる。すでに人権を与えられていた彼には任務の拒否権があったのだが、彼は拒否しなかった。なぜならば彼は戦う以外の生き方など知らなかったのだから。

以上が「カヌス・ウンブラ」の設定となります。このあとカヌスはとある企業のマザーブレインへとアタックを情報攻勢体となって仕掛け、そこで部隊の仲間たちを全滅させられた挙句に、最後に一矢報いようとしたとき、相手の情報防衛体となっていたアッシュと奇妙な同調反応を起こして沈黙(脳波停止状態)。二人してそのままテーラの心象世界へと流れ着きます。
 たからものである「数枚のドッグタグ」はカヌスから生み出されたもの。生き残れなかった戦友たち(同じクローン)を思って大事にとっておいたわけです。

設定していたとある条件

 キャラ設定については以上となるのですが、カヌス・ウンブラを名乗っていた彼にはちょっとした条件を設定してました。

姿と記憶が明確に戻る条件
・女性から明確な好意をもたれてキスをされる
・男性から親友と思われて肩を組む

 これは彼の人格形成のもととなった二人の人物から考えた条件でして、アッシュとカヌスが生前やりたかったことでもありました。アッシュは博士の孫娘と愛し合いたかった、カヌスは戦友たちと共に生きのびた喜びを分かち合いたかった、といった具合。
 ほんとこれ設定した当初「絶対無理だよな〜〜〜〜〜だって線画だしこの顔だよ〜〜〜はははははは」なーんて笑ってたんですよ、マジで。まだ後者のほうが可能性は高かったというか実際それっぽくなった相手もいて、あとで描いていただけたイラストでは実際に肩組んでたりしてて「あ、こっちでも条件達成してた」なんて気づくことも。ただあれは親友というよりかは呑み友かつバカ仲間だったので違うといえば違ったような。

 ともあれこの条件が達成されないことには、彼ははっきりとした姿と記憶を得ることはできず、夢のなかでの開示でそれとなく「自分はもともとこの世界の住人であった?」と気づき、最終的には出会った人々を見送る立場になっていた可能性があります。というより最初はそういう終わり方になるだろうと想定してました、9.9割方。
 達成、しちゃってたね……なんででしょうね(真顔)。

取り戻した姿

 これについては設定は存在しており、最初にあげた線画状態から変化しても違和感のないイラストを探していたところ『地味顔男無限生成機』様がありました。こちらで髪型およびあごひげを設定してあとは嘘偽りのないイケメン顔を作成していつでも出せるように準備はしてありました。

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 なお取り戻したといっても、この姿はカヌス・ウンブラの姿であり、正確には「テーラの住人であった彼が、確かな記憶と人格を得て、ひとりの肉体に宿るにふさわしい魂の持ち主となった」ことを意味しています。なので彼にはもともとの姿などなかったわけ。
 顔の特徴として左目の下にあるバーコードは識別コード(クローン体であることの示し)、あごひげは線画とのわかりやすい共通点としてもたせてあります。年齢としては25歳前後あたりとなっており、一番身体能力が高かったころで固定されています。
 なおゲーム中は「名前を得たから姿を得た」ように見せかけていますが、そのほうが面白いからそうしたまでです、流れって大事!実は早い段階で条件は満たせていたのですが、いつ披露したものかなって考えてたところで「名前をつけてもらう」イベントのアイディアがよそのPCさんとの交流で浮かび、だったらそこで披露しちゃおうと決めたわけです。
 この場を借りてアイディアを提供していただいた先生さんと、条件を達成させていただけた相手であるアイリィさんには感謝を。

後日談

 さて、蛇足とも取られかねない部分ですが、実は後日談も14日付近である程度考えてありました。最後に一新したプロフ、終わりになんて書いてありました?

「そして未来永劫、ひとつの約束を胸に抱いて、生きる。」

 こう、書いてありますね。
 どういう意味かはこの後の文章をご覧ください。



 テーラの心象世界から、アイリィとの離別とともに旅立ったレウイ。長いような短いような時間を、光の渦に巻き込まれてあちらこちら飛びながら過ごすのもつかのま、感じたことのない身体の重みを得る。
 まぶたを開き、見えたのはひとつの室内。そして生身の腕や足、身体には青白い布が掛けられていた。

「目が覚めたかね、大尉」

 呼びかけられたほうを振り向けば、そこにいたのは上司。

「……少佐、オレ以外のメンバーは」

 上司は黙って首を左右に振る。それは蘇生すらも失敗した事実を示す。

「こうなってしまっては部隊も解散だな……
 カヌス・ウンブラ、君には特別休暇を与える。
 またその後は教導隊へと異動し、後進の育成に務め」

 その言葉に、彼はなにも答えない。

「……もしくは、軍を辞めても構わないぞ。
 君は十分戦った、今回に至っては死んでもいる。
 蘇生できたのが奇跡だと、博士たちも驚いてたぐらいだ」

 彼は、横に立っている上司が思っていたよりも親身であることに驚く。

「あんたはもっと、冷酷な人だと思っていたんだが」

 そう言われて苦笑する上司。

「立場上、そうせざるを得なかったまでだ。
 それに君はクローンでありながら人権を得た、
 滅多にいない存在をないがしろになどしない」

 敬礼がされる。上司が部下にするなどまずあり得ない。
それは純粋な敬意の表れでもあった。

「部隊は壊滅したが、君たちは結果を残した。
 我々が標的としたマザーブレインの防衛は取り払われ、
 待機していた第二陣は安全にマザーブレインを破壊することができた」

 そうか、作戦は成功していたのかと言葉がこぼれる。

「ああ、これであの企業もただでは済まないだろう。
 ……まさか、戦争を各地で扇動し、敵国にまでクローン兵士を販売していたとはな。死の商人などというものをこの目で見るとは思ってなかった」

 上司は遠い目をした表情で天井を見上げる。

「……我々もかの企業に頼った身ではあるが、戦争を続けたかったわけではない。ただ終わらせたかっただけなのだ。人殺しなどというものは、本当に嫌なものだ」

「……そうだな、そう思うよ、オレも」

 室内に静寂が訪れたところで、上司は咳払い。

「さて、私は予定があるため失礼するが、カヌス・ウンブラ大尉……今後について決まったら連絡をよこしてくれ。どんな選択肢であろうとも私はそれを尊重しよう」

 見たことのない笑みを浮かべたのち、上司は立ち去った。
 ひとり、医務室らしき場所へと取り残される。と思えば新たな来訪者がやってきた。

「やあ、カヌスくん。意識ははっきりしてるようだね。
 君だけでも蘇生が叶って喜ばしいよ」

 軍の医療部門を担当しているドクターだ。

「なにしろ他のメンバーは軒並み脳波が焼き切れてて、
 君だけが脳波停止で済んでたからだけど。
 まったく、電脳戦なんてやるものじゃない」

 大仰なポーズで呆れを表現しながらこちらへと近づくドクター。

「それで、さっき少佐ともちらりと話したけれど、
 どうするんだいカヌスくん。
 部隊は壊滅しちゃったし、再編成にも時間も人材も足りない。
 僕としてもここで引退をお勧めするぐらいだ」

「いいのか?ここで引退して。
 オレが抜けた穴を埋める人材がいるわけでもないだろう」

「いいのさ、もう今回の作戦で長年続いた戦争も終わる。
 あの企業が動けなくなれば、争う必要もなくなるんだ。
 ようやくこの国にも、平和が訪れるんだよ大尉」

「平和、平和か……それは、いいことだなドクター」

 にんまりとした笑顔が返された。

「だったらドクター、ひとつ頼みがあるんだ」

「なんだい、カヌスくん。
 可能な限りは頼みを聞いてあげるよ」

「ならオレの寿命を、伸ばしてくれ」

「……意外、だね。君は戦う以外を知らないと言っていた。
 そして延命する気もないとも言ってたのを覚えてるよ」

「気が変わったと言ったら納得してくれるかい。
 生きる理由ができたんだ」

 ふっと微笑を浮かべた。

「……そうかい、そりゃいいことだ。
 むしろようやく前向きに生きてくれるんだね。
 それでどれぐらい延命するんだい、
 ナチュラルヒューマンだと100年そこらだけど、
 デミヒューマンの君なら300や500、
 その気になれば1000年は生きられるよ」

 冗談のように言うドクターにオレは言った。

「永遠に生きたいから不老にしてくれ」


 辺境の星、その大地を歩く姿がある。ひとりの大男と一匹の犬。
 その星はかつて資源と人々が溢れる青い星であったが、度重なる開発と資源採掘によって青い海すら枯渇していた。枯渇したことによって人々は星を見限り、新たな資源を求めて宇宙へと進出し、多くの星へと旅立っていった。だが、長い長い時の中でゆっくりと星は姿を取り戻していき、いまでは少数の人々だけが大地で暮らすひっそりとした星となっていた。
 大地には針葉樹が一面にわたって生えており、その足元には雪原が広がっている。ひとりの大男と一匹の犬は、雪原に足跡を残しながら進んでいく。

「マギ、今日はこのあたりで野営するか」

 しばらく進んだところで大男は犬へと呼びかけ、犬は静かなほえ声で応える。大男の髪と髭は無精に伸びており、長い旅をしていたことをうかがわせた。目元には雪の反射光を避けるためのゴーグルをしており、ほかにも寒さに備えた装備を整えていた。
 日が沈んでしまう前に黙々と薪を集め、シートを張って野営の場所を確保していく。そうこうしているうちに犬は雪原に少ない獲物を仕留めては、大男のもとへと運んできたりしていた。
 日が沈むころには野営の準備がととのい、焚き火の明かりと暖かさが一人と一匹を包む。夕食を終えたところで犬は大男のそばに寝そべり、大男は焚き火の明かりを頼りに手帳へと何かを書き込んでいく。

「……そろそろこの辺りにも、春が訪れるころか。
 何年、何十年経っても冬の寒さってのはきついもんだなマギ」

 犬は身をすりよせて応えた。
 大男はゴーグルを外して夜空を見上げる。その瞳には色彩異常はなく、確かな色の瞳が宿っていた。ちらりと喉もとに光るものがある、ドッグタグだ。だがそのドッグタグに刻まれた名前は以前のものを消してあった。新たに刻まれていたのは「レウイ・C・ビクター」とある。
 焚き火に掲げていた薬缶から湯気があがり、大男は空いたカップにお湯を注いで珈琲を作る。二つのカップを用意して。片方のカップをつかみ、熱を摂るようにして飲み干していく。もう片方は、そこに置いたまま。
 そうして夜も更けてくれば大男と犬はよりそいあって、眠りにつく。しばらくして朝日が彼らを照らしたならば、大男はゆっくりとまぶたを開いて目覚める。寝床から立ち上がり、視界の遠くに見えたのは雪解けの様子。
 その様子を見て、大男は静かに微笑む。

「アイリィ、オレは何度でも、何年経とうと、
 君を孤独にはしない。いつだって会いに来るから」

 大男と犬は朝食を済ませたのち、再び歩きだす。
春の足音に会うため、何度も、何年も、永遠に。







 以上がカヌス・ウンブラと名乗っていた男、レウイの後日談となります。最後まで読んでいただきありがとうございました。

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