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西の聖地で『ととのう』

行ってきましたよ。熊本の湯らっくす!!

熊本ICを降りてすぐのところにそれはある。10時のオープンに合わせて到着したが、すでに駐車場はたくさんの車で埋まっていた。神殿のような建物。赤い看板。でかい壺。

「サ道で見たやつだ…」

まるで芸能人に会ったような気分である。

施設に入るといきなり例のアイツにお目にかかれる。そう、MAD MAXボタン。感動した。いきなり楽しませてくれるではないか。撮影で使われたものか?改良して使わなくなった先代のものか?と想像を巡らせる。

履き物を脱ぎ、券売機で入浴券を買って男湯へ。興奮で胸が高鳴る。脱衣を済ませたら水分を補給し、僕はついに憧れへの扉を開ける。

「おぉ〜〜〜〜。」

露天風呂から差し込む朝の光と、熊本の心地よい外気が浴場全体に溢れていて非常に開放的だ。素晴らしい第一印象。すごくいい。

はやる気持ちを抑えてまずは身体を清める。ルーティンは守らなくてはならない。頭と身体を洗う。泥パックが置いてあって興味本位で試してみたりした。せっかく来たのだから全部やってみたくなる。いつもは下茹でをしてからサウナに入るが、今回は我慢できずにサウナに直行してしまった。ルーティンは何処へ。

湯らっくすには、

・メディテーションサウナ
・クラシックサウナ
・大阿蘇大噴火瞑想サウナ

の3種類のサウナがある。

僕はまず『メディテーションサウナ』に入ることにした。サウナマットはお馴染みの黄色いタオル生地のもの。洗濯が大変だろうにビート板タイプにしないのは湯らっくすのこだわりなのだろう。ありがたい。おしり心地が段違いだ。



いざ、メディテーションサウナへ。

緊張感と高揚感を持ってその扉を開ける。

「おぉ…。」

薄暗い。6〜7人程度が定員だろうか。広すぎない落ち着いたスペースに暖色のライトが一筋、サウナストーブを照らしている。テレビも無く静かだ。メディテーションの名に相応しい。僕は上段の端にサウナマットを敷いて胡座を掻いた。

うん。いい雰囲気。

80℃くらいだろうか。優しい暖かさのサウナだ。物足りないとも感じられる温度だが落ち着いて瞑想するにはちょうどいい。自分と向き合い「無」の空間で内省する。サウナの醍醐味だ。じんわりと汗をかいてくる。そして先程は物足りないと言ったが、このサウナではセルフロウリュができる。これ以上の喜びはない。セルフロウリュができるというのはいつまでも子供心をくすぐる。

優しく照らされたサウナストーブの近くに座っている顔にタオルをぐるぐると巻きつけた常連と思わしき男性が静かに、

「ロウリュいいですか」

と皆に断りをいれる。大好きな言葉だ。
言うまでもない。

いいに決まっている!!

いいに決まっているのだ。そんなことはみんな分かっている。だが、ひとこと確認する。このコミュニケーションもサウナの魅力であり、マナーであり、日本の心。一同は、ゆっくり頷いたり、アイコンタクトで会釈をしたり、「お願いします…。」と静かにささやくような返事をする。だが心の中はこうだ。

「それを待ってた!ありがとう!お願いします!ありがとう!」

その瞬間から、顔面タオルぐるぐる巻き男性はアーティストとなり、僕らはオーディエンスとなる。顔面タオルぐるぐる巻き男性がゆっくりと木製のラドルでバケットに入った阿蘇の地下水を汲み取り熱々のサウナストーンに回しかける。

ジューーーーーーッ……。

あぁぁぁ…。いい音だ。何度聞いてもいい。サウナは五感で楽しめる。この音も魅力の1つ。

顔面タオルぐるぐる巻き男性アーティストが、2回、3回とロウリュしていく。

きたきたきたきた。

サウナストーンで熱せられた阿蘇の地下水がアツい蒸気となって立ち昇り、天井にぶつかったあと僕に向かって降り注いで来る。

「っあぁ〜…。」

思わず声が漏れる。
極上…。至高…。

そうやって僕の体温が上がっていって12分ほど経った。心拍数が安静時の2倍になったのを感じたら、みなさんお待ちかねの水風呂だ。



まさに、MAD MAX!!

浴場の中心で一際大きな存在感を放っている湯らっくすの代名詞的存在であり、ととのいへの2ステップ目となるのが水風呂。水風呂と聞いただけで脳汁が溢れ出てくる。先ほどの『メディテーションサウナ』でアツくなった身体が水風呂を渇望している!

「はやく入りたい!!!!」

しっかりと汗を流したら巨大な手すりに捕まりながら大きな階段を3つ上がって入水する。こんな水風呂は初めてだ。それもそのはず。ここ湯らっくすの水風呂はなんと1番深いところで171cmもの水深がある。

171cm!?!?!?
驚異的な深さだ……。
湯らっくすの水風呂は化け物か!?

故に、天井からは極太の綱がぶら下がっていて、それにしがみつくスタイル。そして最深部では、打たせ湯のように止めどなく阿蘇の地下水が流れ落ちる『湯らっくすの滝』が音を立てて水面へと自由落下している。迫力満点だ。僕はゆっくりと最深部へと進んでいく。

「くぅぅーーーー!冷たい!」

15〜6℃くらいだろうか。なんと言っても深さが最高だ!そしてついに僕はあのボタンを押すことになる。MAD MAXボタンだ。

緊張する…。

ゆっくりと手を伸ばしボタンを押し込む。「カチッ。」という重たい押し心地。するとさっきまで、打たせ湯程度の水量だった『湯らっくすの滝』が火を噴く。

どどどどどどどど!!!!!!

勢いを増した冷たい阿蘇の地下水が僕の脳天に直撃する!

「うおおおおおおおおおーーーーー!!!!」
「すごい!!!!!」

縄に捕まっていないと溺れそうだ。息ができない!!笑。バケツをひっくり返したような水量が頭部を覆い尽くす。立ったままで全身が水に浸かっているという現実に脳の処理が追いつかない。

まさに、MAD MAX!!!

冷たさと興奮で息があがっている。限界だ!魚のように口でパクパク呼吸しながら水風呂から上がった。開いた目と口が塞がらない。すごい。すごすぎる。作った人は天才か…。いや奇才だ!

衝撃的な感覚を残した身体に残った水滴をしっかりと拭き上げたら、サウナにおいて最も重要な外気浴へと進んでいく。



そして、意識は宇宙旅行へ。

湯らっくすの外気浴は全てととのいイスで行う。13脚ほどあっただろうか。露天風呂と接している外気浴スペースは開放的で心地良い。水風呂で冷やされた身体がチリチリしている。ここまで完璧な流れだ。文句のつけようがない。そして、ととのいイスに腰掛けたら至福の時間の始まりだ。目を瞑って、ととのいを迎えに行く。

「はぁ〜…。」

気持ち良い…。

陽の光と初夏の風が全身を撫でる。

研ぎ澄まされた感覚に、
熊本の大自然が語りかけてくる。

風が肌を通り抜け、
産毛がピンッと立つのを感じる。

水の声が聞こえる。

風の声が聞こえる。

鳥の声が聞こえる。

そして意識はやがて宇宙へと旅立つ。

自然を感じ、地球を感じ、宇宙を感じる。

肉体を置いてけぼりにして、脳が昇天する。

そして人生について考える。

この時のためにサウナはあると言っても過言ではない。これこそがととのいである。

気持ち良すぎて口角が上がってしまう。
非常にだらしない顔をしているんだろうな。
だが、そんなことは気にしない。
それくらい気持ち良いのだ。

とまぁ、このようにしてサウナを楽しむわけである。『大阿蘇大噴火瞑想サウナ』も大変よかった。ネーミングがすごいし、『メディテーションサウナ』と瞑想被りしているのは気になるが。いわゆる塩サウナなのだが、床下を温泉が流れていて、ものすごい量の蒸気でサウナ室内が満たされている。ほとんど前が見えない。塩サウナにしては温度がかなり高く満足した。これも水風呂でMAD MAXからの外気浴の流れで昇天した。

さて、ここまでそこそこの文量で、湯らっくすの魅力を書き記してきたのだが、もう少し僕の話を聞いていただきたい。湯らっくすの真髄はこの先にあった。本当のととのいが僕を待ち受けていたのだ。



絶頂、アウフグース。

僕がまだ話していないサウナがある。『クラシックサウナ』だ。これはいわゆる高温サウナであり、湯らっくすのメインのサウナだ。実は『メディテーションサウナ』に入ったあと、『大阿蘇大噴火瞑想サウナ』に入る前に『クラシックサウナ』で、僕は一度最高のととのいを体感していた。が、最後にそこで受けたアウフグースによって、『クラシックサウナ』のすべての印象が持っていかれたのだった。

扉を開けるとそこは3段の広いサウナ室。そして縦長の大きなサウナストーブがあった。サウナストーブなんて大きければ大きいほどいい。大きさに比例して興奮する。12:00〜のアウフグースを狙っていた僕は、それにちょうど良く時間が合うように調整して臨んだ。ぞろぞろと人が集まってきて、あっという間にサウナ室は満員になった。

熱波師の自己紹介に一同が拍手をしてアウフグースは始まる。恥ずかしながら僕はこれまでアウフグースを受けたことがなく少し緊張もしていたのだが、熱波師が

「無理しないでください」
「手加減はしません」

などと言うものだから心配な気持ちになりながらも、これまで数々の高温サウナを耐えてきた自分を信じていた。

大きなサウナストーブに水がかけられる。「ジューーーーーーッ」と、最高のサウンドがサウナ室に広がる。ロウリュで立ち昇る蒸気を熱波師がタオルでサウナ室全体に送っていくと、どんどんとサウナ室内の温度が上がっていく。ばさっ!ばさっ!と歯切れのいい音が響く。圧巻のタオル捌き。タオルが生き物のようだ。熱波師の手元で龍のように舞い踊っている。そして端から順に熱波を浴びせていく。僕の方に近づいてくるにつれて緊張が高まる。そしてついに僕の番が来た。

ばさっ!ばさっ!

「っぁあ〜〜〜〜…。」

アツいのに、心地いい。優しい熱風に包まれる。これはいい。これはいいぞ!!!人気の理由が分かる。これを受けずには帰れない。なるほど。これはいいものだ。

それにしてもアツい。90℃をゆうに超えている。部屋の温度が上がるにつれて途中退場する人が出てくる。ロウリュするたびに湿度と室温が上がっていく。3度目のロウリュには凍ったアロマ水が使われた。森林を思わせるような香りが落ち着くなぁ。トドメの4度目のロウリュと熱波を受け、アウフグースは終了。拍手で熱波師に感謝を伝えた。

では、行こう。
最後のととのいへ!
最高のととのいへ!

汗を流したらアツくなった体にMAD MAX!!
身体についた水滴を拭き取りととのいイスで目を閉じる。刹那、宇宙へ。

そして、僕は心の中でこう言うのだった。

「ととのったぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜。」

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