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ドイツの10,000人が集まるラープ(LARP)イベント -Conquest of Mythodia- とは

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アナログゲームマガジン|秋山真琴|note

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ラープ(LARP)とは?

LARP(ライブアクションロールプレイ)は、参加者が物語の登場人物になりきり、現実世界の中でその役割を演じながら物語を進行させる体験型の文化的活動であり、多くは、ゲーム性とストーリーテリング性のある催しとして開催されます。参加者は映画や小説の世界に飛び込んだような感覚を味わうことができるため、非常に没入感が高く、多くの人々に愛されています。

LARPイベントは、多様なジャンルや設定があり、ファンタジー、SF、歴史もの、ホラーなど、さまざまなテーマで行われます。参加者はそれぞれのキャラクターとして行動し、他の参加者と交流しながら物語を創り上げていきます。このプロセスには、創造的な思考や戦略的な判断が求められ、非常に充実した体験が期待できます。

LARPの魅力の一つは、現実世界では味わえない冒険や非日常なドラマを体験できることです。例えば、西洋ファンタジー世界の傭兵となり、魔物と戦う冒険や、普段の日常から突然、ゾンビの襲撃から生き延びるために戦うスリリングな非日常な物語の体験が可能です。また、LARPは協力プレイが重要であり、他の参加者と協力しながら目標を達成することで、強い絆を築くことができます。

海外ではLARPは文化的な活動として広く愛されており、多くの人々が参加しています。一方、日本でも10数年前からニッチな趣味として徐々に認知され始めており、LARPに興味を持つ人々が増えています。この体験型のコンテンツは、参加者に現実から離れた異世界の冒険を体験する機会を与え、創造力&想像力を刺激します。

台湾でもLARPは大人気!

コンクエスト オブ ミソディアとは?

イベント概要

「コンクエスト オブ ミソディア」は、世界最大規模のLARP(ライブアクションロールプレイング)イベントの一つであり、毎年8月にドイツのブロケローで開催されます。初開催は2004年( https://mythodea.de/en/conquest-of-mythodea/ )で、以降毎年続けられており、現在では約10,000人の参加者を集める一大イベントとなっています。

開催地の雰囲気

イベントは60ヘクタール(日本でよく言われる伝統的な単位、東京ドームで換算すると12.8個分。サッカーコートで84枚分)超の広大な敷地で行われ、参加者たちは中世風のテントの立ち並んだエリアでキャンプをします。会場にはリアルなファンタジー世界を再現するための様々なセットや小道具が配置され、参加者たちは戦士や魔法使いなどのキャラクターとして、この世界に没入します。

ストーリーとプロット

「コンクエスト オブ ミソディア」のメインストーリーは、ミソディア大陸を舞台に起こる出来事を冒険することができるように展開されます。この大陸はかつて五つの元素によって栄えていましたが、大災害により侵入不可能となり、邪悪な勢力に支配されるようになりました。参加者たちは特定の勢力に属し、邪悪な勢力と戦いながらミソディアを舞台に冒険を繰り広げます。

イベントの特徴

イベント期間中、約6,000人以上のプレイヤーキャラクターと1,500人以上のプレイメーカー( NPC(ノンプレイヤーキャラクター)とも呼ばれる)が参加し、数千の物語や謎解き、冒険が行われます。数千人がぶつかり合う大掛かりな戦闘シーンや、複雑な政治劇、魔法の使い手たちの対決など、様々なドラマが展開され、参加者たちは自分のキャラクターとしてこれらの物語に深く関わることができる場合があります。
※イベント規模が広大すぎるため、全てのイベントに深くかかわることは不可能に近いです。

参加者の体験性

参加者たちは、自分のキャラクターにふさわしい衣装を身にまとい、現実世界とは異なるもう一つの生活を体験します。戦士、商人、魔法使い、外交官など、様々な役割を演じることで、ミソディアの世界にどっぷりと浸かることができます。また、イベントの期間中は絶え間なく続く物語や冒険があり、夜通しで進行するストーリーもあります。

 「コンクエストオブミソディア」の誕生と初期の歴史

誕生の背景

「コンクエスト オブ ミソディア」は、2004年にドイツのブロケローで初めて開催されました。このイベントは、ライブアドベンチャーイベントとして企画され、後にBurgschneider GmbH.によって引き継がれました。当初から大規模なイベントとして設計され、多くのプレイヤーとNPCが参加しました。初開催の際には、ミソディア大陸の再発見と再定住をテーマに、プレイヤーキャラクターたちは未知の領域を探索し、敵対する邪悪なる勢力と戦いました。

その後の展開

イベントは初回から大きな成功を収め、参加者数は年々増加していきました。ミソディア大陸を舞台にした豊かな物語と深い世界観が多くの参加者を引きつけました。初期のプロットは、五つの元素(火、空気、水、土、魔法)を取り戻すためなどの冒険であり、プレイヤーたちは様々な勢力に属して活動したようです。こうした設定は、イベントの魅力を一層高め、参加者が深く没入できる環境をもたらしました。

プロットとイベント

イベントの主な焦点になるイベントはプレイヤーたちがミソディアの様々な領域を探索し、邪悪な勢力との戦いに挑むことを中心に描かれます。例えば、私たちCLOSSのスタッフ2名が参加した2019年のイベントでは、「スカルゲン」という新たな敵勢力が登場したというものでした。スカルゲンは西の海から侵攻してきた軍勢であり、参加者のキャラクターたちはこの新たな脅威に立ち向かうことになりました。スカルゲンは北欧神話をモチーフにした恐ろしい勢力であり、その登場はミソディア大陸に新たな緊張とドラマをもたらしました。かれらとの大規模な戦闘シーンや複雑なクエストが、私たちにとって忘れられない体験をもたらしました。

イベントの成功とその影響

初期から続くイベントの成功は、後のイベントの規模と人気を大きく押し上げました。毎年8月に開催されるこのイベントは、6000人以上のプレイヤーと1500人以上のNPCが参加し、壮大なファンタジー世界を再現する場となりました。また、参加者たちは中世風のテントでキャンプをし、リアルなファンタジー体験を楽しむことができました。

文化的背景

「コンクエスト オブ ミソディア」の文化的背景

「コンクエスト オブ ミソディア」は、ダンジョンズ アンド ドラゴンズやロード オブ ザ リングなどを例として挙げられる、ファンタジーと中世ヨーロッパの文化を融合させた独自の世界観を持つイベントです。このイベントは、参加者が自分をその世界のキャラクターとして演じることを通して、リアルな体験をし、深い没入感を得ることができます。
参加者の多くは、自発的にライブアクションロールプレイングの文化を愛し、その世界の実現のために取り組むことを通して世界の実現を成立させています。

1. ファンタジーと中世ヨーロッパの融合

イベントの設定は、ファンタジーと中世ヨーロッパの要素を取り入れています。参加者は騎士や戦士、魔法使い、商人などのキャラクターを演じ、それぞれのバックストーリーや目的(など自ら設定したもの)に基づいて行動します。これにより、リアルな中世ヨーロッパの雰囲気が醸し出されるとともに、ファンタジー要素が加わることで一層の魅力が生まれています。
※とはいえ、2019年のイベントの中で見られた恰好の中には、足軽風の恰好をしたキャラクターも居たため、ある程度「ヨーロッパ」という括りは大事にされながらも、キャラクターの振る舞いへの抱擁度は高いスタンスを持っている様子が見られます。我々も、忍者の恰好を意識した衣装で参加しましたが、喜んで受け入れて貰っていました。
※シーズンごとに、理想とする装いの方向性が指定されている場合も考えられますので、参加を検討される方は公式サイトから示されている情報を基にして、自らの扮したい恰好が好まれるかどうかを考慮の上、準備することをお勧めいたします。過去には、スター〇レックやスター〇ォーズのような恰好をした参加者が来た場合があり、これについては流石に許容されないとされた事例があります。

2. プレイヤーの多様性とコミュニティの形成

「コンクエスト オブ ミソディア」は、世界中から参加者を集める国際的なイベントになっています。参加者はそれぞれが異なる文化背景を持ち込み、イベントを通じて互いに交流し、協力し合います。これにより、多様な文化が融合し、豊かなコミュニティが形成されます。参加者同士の交流は、イベントの魅力の一つであり、毎年多くのリピーターが集まる理由でもあります。

3. 現地でのコミュニケーションや言語

イベントやストーリーを理解するために、言葉のやり取りが欠かせません。イベントの主要となる言語はドイツ語であり、第二言語として英語が用いられることが想定されています。そのため、十全なイベント内容の理解やストーリーへの参加にはドイツ語の十分な理解が必要になります。ドイツ人は英語もペラペラだろう、と思ってはいけません。外国人から「日本人は、全員が中学から英語を習っているんだから、英語を喋れるよね?」と思われているようなものです。勿論、イベントの会場の各地にあるイベントスタッフが詰めているテントには、英語でサポートすることが出来るスタッフが滞在している場合があります。なお、日本語を理解してサポートをしてもらえることは厳しいです。

コンクエスト オブ ミソディアを楽しむためには?

こういう家屋的なものを、参加者のみで一日くらいで組み立ててしまいます。意味が分からない(褒め言葉)。

公式ウェブサイトから、一部を抜粋・日本語訳します。※で注釈もいたします。

1.LARPを楽しむためには何をすればいいですか?

LARP を体験するには、冒険や体験そのものに参加する以外に、多くのことをする必要はありません。最初は思った通りにはいかないかもしれませんが、気にすることはありません。テーブルを一緒に囲みボードゲームをするようなものです。参加者それぞれが世界のルールに従うことに同意し、ある程度は、周囲に表現されているものが現実であり、基本的にこのフィクションの一部になりたいと考えることが大切です。LARP は自転車に乗ることにも少し似ています。ペダルをこぐのは自分で行う必要があります。ペダルをこぐ速度は、もちろんあなた次第です。また、最高の体験をし、ゲームを見逃さないようにできるだけ気を散らさないようにしてください。つまり、携帯電話、仕事、またはリアルな自分たちに関わる会話の話題は、ゲーム中はできるだけ「遠く」に置いておく必要があります。それをすることで、エキサイティングで素晴らしい冒険に出発できます。

2.キャラクターになるとはどういうこと?

ビデオ ゲームなどとは異なり、LARPの参加者は俳優と同じようにキャラクターを演じます。つまり、現実世界でキャラクターを演じ、イベントに反応し、他のプレイヤーと交流します。すべての LARP キャラクターには特定の特徴と背景ストーリーがあり、これらは自分で作り上げることができます。
※俳優と同じように、と記載されていますがこれは「台本に沿った完ぺきな演技」が期待されているという意味ではありません。プレイヤーである参加者が自ら設定した「キャラクター」を自分が表現できる範囲で楽しんで表現してほしい。というものです。

3.コスチュームはどのようにすれば?

LARPでは、すべてのキャラクターがジャンルに適していて、キャラクターの背景を表す衣装を着ます。たとえば、魔法使いは装飾の付いた長いローブを着ることが多く、騎士は鎧とタバードを着用します。これは、衣装を作成するときに、対応するキャラクターと演じようとしているそのストーリーを念頭に置く必要があることを意味します。用意した衣装から、キャラクターのストーリーをデザインすることもできます。おそらく、キャラクターについて人々が最初に注目するのは衣装であることを覚えておくのが最善です。あなたが身に纏った衣装を見た彼らはどのような印象を受けるでしょうか? それはあなたが達成したかったイメージに沿っているでしょうか? 想像してみてください。
設定に合わない物や素材は使用しないか、少なくとも覆う必要があることに注意してください。たとえば、中世の設定ではプラスチックのレインコートはあなたや周囲の人々の没入の邪魔になります。

※舞台となるミソディア大陸は、西洋中世の時代背景に近しい、ファンタジー世界であるとデザインされています。そうした世界に居てもおかしくない、説得力がある装いで参加するように、ここでは促されています。

4.物語を楽しむためには?

すべての物語には筋書きがあります。物語には始まりやそれが展開する出発点があります。プレイヤーキャラクターとプレイメイカーが行う行動と彼らが下す決定は、ゲームの進行に影響を与えます。その影響は、イベントの筋書きに反映されます。何が起こり得るか、何が起こるかについてのガイドラインは主催者の手元にありますが、物語がどのように展開するかは、基本的にプレイヤーキャラクターとプレイメイカー、彼らの努力次第です。
※LARPでは、ある程度起こる出来事についてのあらましは決められていますが、それがどのように変化して、物語として形成されるかどうかについては、実際にその状況に立ち会った人々がどのように受け取り、行動したかによって定められていきます。全員が、物語を楽しむために、努力して楽しむことが期待されます。

5.より、没入するために

没入感とは、架空の現実に没入することを意味します。それが LARP イベントの目標であり、できるだけ信憑性があり、色彩豊かでエキサイティングな世界をシミュレートして、プレイヤーがキャラクターとして最高の LARP 体験をできるようにすることです。没入感は参加者の心の中に生まれるものであり、したがって脆弱な状態です。その脆弱性は睡眠に似ており、「目覚める」頻度が高ければ高いほど、「睡眠体験」の評価は悪くなります。したがって、あなたはこのことを認識することが重要です。眠っている人を起こす正当な理由 (危険など) は確かにありますが、最小限に抑える必要があります。没入感は、積極的に関与し、全員が共有する必要があるものです。主催者は、没入感をできるだけ妨げないように常に努めます。これが不可能な場合は、追加の想像力が必要になります。しかし、一つはっきりしているのは、もし皆が「夢」を見ることができ、夢中になることができたら、楽しい時間を過ごせるだろうということです。
※コンクエスト オブ ミソディアでは、キャラクターとして没入するための努力が多くの場所で払われていました。しかしながら、それは参加者たちの協力があってのものであることは間違いありません。没入するための要素が欠けていたら、それは自分たちで想像して補う事や、それっぽい理由を考えて自分の中で納得することの大切さ。それでいて、本当に危険がある時は目覚めさせることの重要性を参加者全体が文化的に理解し、共有していく事の大切さが、ここでは説かれています。

疑問は解消されましたか?

Conquest of Mythodiaは、世界で行われ続けているLARPイベントの中でも伝統と歴史を持つ世界的にも有名なイベントのひとつであり、その広大かつ深い世界観は、西洋中世ファンタジーが好きな日本人ならば、言語の壁をおしても味わう価値のある体験をもたらしてくれることは間違いありません。(あ、でもドイツ語が分かる友人が1人は居た方がいいかもしれません。そのぐらい、「今、何が起こっているか」は分からなくなりがちです)

私たち体験型LARP普及団体CLOSSのスタッフ2名は2019年8月にドイツに渡り、その世界の一端を味わってきましたが、その体験は鮮烈であり、その後の我々のLARPイベントに強く影響を与えています。

そんな、CLOSSの2人がドイツに渡り、コンクエスト オブ ミソディアを味わってきた体験記が、電子書籍で読むことができます。166Pにわたり、フルカラー、現地の写真をふんだんに取り入れ、詳細な体験リポートはもちろんのこと、イベントの紹介や、参加しやすい方法、ドイツ渡航方法、荷物の輸送方法についても、実体験と共に詳しく記載させていただいております。(ただし、2019年の情報のため、一部古くなっている情報があります)

すごく面白いので、ご購入いただくと、私たちが日本でLARPを普及するための活動ならびに創作活動のための資金に繋がります。ぜひよろしくお願いいたします。(宣伝)

また、日本でLARPに参加するためにはどうしたら? と疑問をお持ちの方は、是非こちらの記事もご参照ください。

こちらで一通り、国内のLARPスタートガイドを読むことも可能です。電子書籍ver.は600円で購入できます。

また、我々体験型LARP普及団体CLOSSは、日本全国どこにでもLARPをお届けできるよう、サービスを展開しております。ご用命のほどお待ちしております。(宣伝)

記事の後半は、実際にコンクエスト オブ ミソディアに参加した時の雛咲の体験記の要約版をお届けいたします。

一番左の黒装束の忍者は、著者(星屑)です。

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