実母とのこと

父と実の母は私が一歳半のときに離婚したらしい。らしいというのは私は記憶がない時期のことだし、この件については未だにほとんど情報がないからだ。

実の母の実家の方と今の母の実家の方から漏れ聞いた話を総合すると

・当時漁船の乗組員(無線士)だった父は、いったん漁に出ると何カ月も帰って来ない

・寂しがりの実母はある日若い男性と自宅で懇ろに。そこに父突然帰宅。修羅場。実母殺されかけて(本当に)実家に逃げ込む。

・そういう母親に子どもは預けられないと親権を父が取る。

という経緯があったらしい。

また実母実家系情報によると、私は実母そっくりらしい。顔や声など、主に外見が。

まあそんな訳で、成長してきた娘が自分を裏切った別れた女房そっくりというのは、見ていて何とも心穏やかではなかったらしい。(こちらは今母実家情報)

そんなの私の責任ではないのだが、いろいろ面倒だ。

実母実家は一度実母と私を引き合わせてる。私が二十歳のとき。もちろん父母には内緒で。

彼女は父と別れたあと上京して水商売をやり、そこで知り合った男性と再婚して息子をもうけたけどまた離婚。(そんなわけで私には父親違いの弟がいることになる。) 今は地元に戻ってきていてパートで働いてる、という話だった(当時)。

で一度私に会いたいと言ってるということで、どうしようか迷ったけどまあとにかく会ってみるだけなら、と承諾。

待ち合わせ場所に行ってみたら、そこには初めて会うけどなんだか懐かしい感じのするおばさんがいた。しばらく会ってない遠い親戚、みたいな。

ちょっとはすっぱな物言い。ガラガラの声。さんざん似てる似てると言われてたので、えー30年経つと私もこうなるの?とちょっと引いてしまっている冷たい自分もいた。

彼女はひたすら、私を捨てたのではない、ということを言っていた。そう思われているんじゃないかと思うとつらくてつらくて、と。

いやしかし私は正直捨てられたどころか一緒にいた記憶もないので、そんなこと思っていないとしか言いようがなかった。

そんな風に微妙にかみ合わず淡々と会話をしていたけど、唐突に彼女は言った。

「あんた生理重いでしょ。私もそうだから」

そんなところで血のつながりを主張されてもなあ、と、大変申し訳ないけど決定的に気持ちが引いてしまった。

せめてどうしても、とお金を渡され、このことはお父さんやお母さんには言わないで、とも言われて、彼女と別れた。

まあでもこういうことは誰かの口から必ず伝わるもので、今母がある日「あんた○○(実母の旧姓)のお母さんに会ったんだって」と言い出した。別の実母実家方面から聞いたらしい。ウソついてもしょうがないので「うん」と言ったら、「いつかちゃんと会わせようと思ってたのに、(実母実家は)まったく勝手なことをして…」と苦々しい顔をした。それは申し訳ないことをしたなあと思っていたら、「あんたあの人からお金なんてもらってないよね」と。「うん」とこっちはウソをつくと、「あの年で一人でパートで働いてるなんて、どれだけ少ないお金で大変な思いをして暮らしてると思うの。そんな人からお金なんかもらうものじゃない」とウソを見抜かれたように諭された。

そんなこんなで、実母とはそれっきり。父親違いの弟は東京で某スーパーに就職したと聞いたけど、その後はわからない。つつがなく暮らしていてくれたら、とそっと祈ることしかできない。

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