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2019年12月 読書リレー

 今年の年末年始の仕事は一層しんどくて、もはやかのボジョレーヌーボーの批評文句みたいな気持ちでした。ここ数年で最悪の職場環境。おかげで、1月入ってからの休みはほとんどベッドの上から動けませんでした。
 近いうち、どこか転職に向けて動きたいのですが……いろいろ悩んでしまって、なかなか難しいですね。まぁじっくり考えようと思います。
 今までのモーメントはこれ↓
https://twitter.com/i/moments/995558573286477824


●レイ・ブラッドベリ著、伊藤典夫訳『華氏451度』2014年(1953年初出)、ハヤカワ文庫SF https://www.amazon.co.jp/dp/4150119554/ref=cm_sw_r_cp_apa_i_nGvkEbDYZMQ2V


 言わずと知れた古典SF。本好きとして、一度は読んでおかねばと思いながら……海外SFってなんかハードル高いイメージありません?(偏見)
 読書や書物の所持が違法になった世界で、通報を受け、秘匿されていた本を焼却処分していく「昇火士」である主人公が、隣人の少女と交流したことをきっかけに、世界の有り様に疑問を持ち、反発していく話。
 内容が内容だけに、話の雰囲気としては陰鬱で、ずっと雨が降ってる時の、ブルーグレーの膜が張ってるような世界のイメージ。実際作中でも雨が降ったり、舞台が川だったりとなにかと水のイメージが沿ってきます。そこがタイトルの「華氏451度(紙が燃え始める温度)」、主人公の本を燃やす仕事の「火」のイメージと対照的でグッときます。
 作中に登場する、本を読まずにテレビやラジオなどの映像・音楽だけを情報源として暮らしてきた人たちは皆、人間味がなくって不気味に映るんですよね。すぐヒステリックになるし、思想らしい思想がないように描かれてます。一方で、本を読んだことのある人、本を隠し持っていて通報を受けた人などは人間らしく、……自分は自分の意思で行動してるんだ、ということがよくわかるように描かれているように感じます。作中での「世間一般の人」の無感動っぽさ無味乾燥っぽさと、主人公や本を重要視する人々の「こんな世界は間違ってる」っていう湿っぽい情熱が、すごい対比的で皮肉で……あああつらい。
 「本を読まなきゃこうなるぞ」ってわけだとは決して思いませんが、本の持つ力、魅力、人への影響を強く描いた小説でした。悲しい雰囲気ですが、ちゃんと救い……というか、希望もあります。情景描写も悲しく綺麗で、面白かったよ。


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●岡野大嗣『たやすみなさい』2019年、書肆侃侃房 https://www.amazon.co.jp/dp/4863853807/ref=cm_sw_r_cp_apa_i_OOvkEbPRG8GMC


 安福望さんが表紙を描いている歌集。この歌集、Amazonのページでは表紙がただの黒地に白の印刷に見えるのですが、実は↓こんな感じの箔押しなんです……なんと帯まで。

 もうこれがTwitterで回ってきて買うしかねえといつもの本屋でにやにやしながら買ってきた次第でございます。ホンマに綺麗で、これだけでも買った価値あるようなものです。
 タイトルの意は、収録されている短歌によるもの(一応、公式の紹介文にも載ってなかったので、その短歌自体は伏せます)。全編通して優しい雰囲気で、身も蓋もない言い方をすればエモい。公式紹介文の著者選の中から好きな歌を引用すると、
「二回目で気づく仕草のある映画みたいに一回目を生きたいよ」
 いろいろ歌集を読んでるうちに思ったのは、現代短歌は、詩よりも日常の些細なことを描きやすいというか、「その発想はなかった!」みたいな、ふふってなるような、かわいい微笑ましい作品が傾向として多いのかなと思います。単に僕の選ぶ入口がそういう雰囲気の作品で固まってるだけかもしれないけど。


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●夢野久作「少女地獄」1936年初出、青空文庫
https://www.aozora.gr.jp/cards/000096/files/935_23282.html


 これもずっと気になってた作品。タイトルがもう誘ってますよね。
〇医者である主人公が看護師として雇った、可憐な少女のとある秘密が徐々に明らかになっていく「何んでも無い」
〇女性を次々誑かし、あげく結婚の約束を取り付けた後に事故を装っては殺しているという噂を持つ男に、分かってはいても惹かれていってしまう「殺人リレー」
〇女学校で起きた生徒の焼身自殺の顛末が、手紙や証言によって暴かれていく新聞記事形式で書かれた「火星の女」
の三作品からなる短編集です。
 前にもモーメントの方で話した、文士の作風にはいろいろ個人的なイメージがあるんですけど(たとえば中原中也=風、太宰治=水流とその決壊、江戸川乱歩=兵児帯)、夢野久作の作品のイメージは「スポットライトの当たる舞台」でして。文章がすごく大仰で朗々とした語り口なんですよ。だから、かっちり正装した怪しい紳士が、煌々とライトを浴びながら身振り手振りふりかざして朗読劇を繰り広げてるような、印象です。
 読みながら怖いし、驚くし、すごい臨場感があるんですよね。実際の文章は全部手紙や新聞記事の、書簡体小説なので、すべてが終わってしまってからの文章のはずなのに、ここまでの臨場感ということはやっぱり紙芝居やら朗読劇やらの語り手による口承文学感によるものなんだと思います。太宰さんとも違う、本当独特の読み口なんですよ……結構エグい話ですが、大丈夫な人はぜひ。


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●田中ましろ他『うたらば vol.18~22』2017~18年、フリーペーパー
http://www.utalover.com/read/freepaper.html


 僕は個人的に「月に3冊、年間50冊」を読書目標にしてるんですが、年間目標に数冊届きそうになかったので、フリぺをまとめて読むというちょっとズルい思惑で読みました(すみません)
 大体4ヶ月に1回、田中ましろさんが個人で発行してる冊子型のフリーペーパー。ウェブ上で毎号それぞれのテーマに沿った短歌を募集し、選出した作品(10首)と写真を組み合わせた写真歌集です。佳作も合わせて約30首の短歌が載ってます。全国のカフェ等で配布されているのですが、僕は送料分を払って自宅に届けてもらえるサービスを毎回利用してます。詳しくは公式サイトにて↓
http://www.utalover.com/index.html
 18号から順に、テーマは「食べる」「箱」「些細」「時間」「文房具」です。どれも良いのですが、個人的には20号「些細」が一番好きな作品が多かったです。本当にさまざまな人の短歌が乗ってるので、いろんな世界観が垣間見れて楽しいです。
 ウェブ上でも全ページPDFで読めますので、どうぞ気になった人は公式サイトへ。


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 1月への繰り越し本は、
谷崎潤一郎『痴人の愛』1947年初出、青空文庫

 大学の時、今講義(自分は履修してない)でやってるよーってのを友達に聞いて、それからずっと気になってた作品。今友達とゆるゆる作ってる作品のネタにも使いたいなーという思惑もあって読んでます。読み進めていくうち、どんどんどんどんナオミの性格が悪くなっていってて震えてる。

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