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2020年9月 読書リレー

 読書の秋、ということで、映画の特典小説も合わせれば7冊も読めました。
 この調子で、蔵書の積読を減らしていきたい(と言いながら、今回読んだのほとんど最近買ったやつです)。

●品田遊『止まりだしたら走らない』2015年、リトルモア
https://www.amazon.co.jp/dp/4898154158/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_DwvJFbRVNE01N

 ずっと読みたかった、オモコロライターのダ・ヴィンチ・恐山さんの小説。歳が僕より一つだけ上ということを最近知って愕然としました。
 中央線を舞台に、さまざまな乗客の物語を描いた連作集。主人公は話によってそれぞれなのですが、短編ごとに差し挟まれる話に一貫して出てくるのは、自然科学部に所属する高校生・都築と新渡戸先輩。月に一度の課外活動のため、待ち合わせ場所に赴いた都築は、幽霊部員の新渡戸先輩ただ一人と合流した。「皆は先に行って待っている」という新渡戸先輩を訝しみながらも、二人は中央線に乗って、高尾山に向かう。
 面白かったです(いつも最初これ言ってる気がする)。群像劇のような、視点がころころ入れ替わる作品が僕は好きなのです。この連作集は、登場人物どうしの関係性は薄いのですが、全員が「中央線の乗客」であるという共通点を持つことで、かえってより個人主義というか、「まったく関係のない他人の集まり」が表されているように思います。
 オモコロや匿名ラジオ、Twiiterでの恐山さんしか知らなかったので、「まともな小説だ……!」とめちゃくちゃ失礼なことを思ってしまったのですが、なんでしょう、表現の端々に滲む人間観察的客観性、世界を俯瞰的に見ている感じが、あぁ、恐山さんの小説っぽいなぁ、と思いました。

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●品田遊『名称未設定ファイル』2017年、キノブックス
https://www.amazon.co.jp/dp/4908059705/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_hxvJFb6RF1PCW

 引き続き、恐山さんの小説を。余談ですがこの2冊は、Kindleで買いました。店頭になくてちょうど電子版がセール中だったのもあるのですが、日頃インターネッツマンと名高い恐山さんなので、こういうデジタル版で持っておくのもそれはそれで乙だなあと思ってしまったが所以です。普段は、青空文庫の無料版とか以外は、小説を電子版で買うことないんですけどね。
 こちらは、短編集。『止まりだしたら走らない』よりも、より現代性、メディア性に富んだ話が多いような気がします。
 ディストピアが描かれる作品って、かなり教訓や批判が強く表されていて、そのため不自然なくらい幸福感や利便性、そしてそれに対する主人公の恐怖や危機感が繰り返し強調されているようなイメージがあるのです。その歪さもディストピア小説の醍醐味なのですが、この短編集は、そうした管理社会やネット社会を、ただ淡々と、ひたすら淡々と追っているような筆致に感じました。この冷淡さとルポルタージュ性が魅力だと思います。「あぁ~~~~~~恐山さんだぁ~~~~~恐山さんが書きそうだぁ~~~~~」と勝手に思いながら読みました。めっちゃ楽しかった。僕は特に、「過程の医学」「亀ヶ谷典久の動向を見守るスレpart2836」が好きです。

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●手塚マキと歌舞伎町ホスト75人from Smappa! Group著、俵万智、野口あや子編『ホスト万葉集』2020年、講談社
https://www.amazon.co.jp/dp/4065201446/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_MxvJFb2QKP89Y

 いつも行く本屋の新刊コーナーに置いてあって、絶対面白いやんと秒で衝動買ってしまった本。僕は、長らく友人とホストの話や設定を書いていて、それのネタになるかな、だったら買うしかないですねえ~とも思ったけど、八割方純粋に面白そうだから買いました。その後、TwitterのTLに回ってきて、「僕!!!持ってる!!!!」となり、これはもうすぐに読まなければと思って読みました。ちなみに、その時紹介されていた短歌は、「楽しいな パリピピリピリ ピッピリピ 昨日の記憶一切ねぇわ」。こんなん俄然気になるに決まってるやろ。
 実際に歌舞伎町でホストをやっている人たちが、月に一回開いた「出勤前歌会」、コロナ禍でのZoom歌会で詠んだ歌たちから、短歌界の権威・俵万智さんたちが厳選した歌集。巻末には、手塚マキさん・俵万智さん含む四人の座談会と、詠み人たち(ホスト)全員の顔写真が載っています。
 先に紹介した歌のように、めっちゃ楽しい歌もあれば、ホストならではの駆け引きと色気渦巻く夜の街らしい歌、また接客のままならなさや金銭的な問題などの悲哀を歌ったお仕事短歌的な歌と、思っていたよりも多種多様な歌が収録されていました。月並みですけど、ホストの人たちも、同じ人間なんだなぁ……と。特に、「ラーメン二郎の歌」というカテゴリがあって、「そんな頻繁に行くんか二郎」と思いました。もちろん人にもよるでしょうけど。
 決してイロモノなんかじゃなくて、普通に歌集として楽しく読めました。ぜひ。

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●暁佳奈『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 上』2015年、KAエスマ文庫
https://www.amazon.co.jp/dp/4907064438/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_WyvJFbT9J7VK7

 大学時代の友達から一年ぶりくらいに連絡が来て、一緒に映画「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」を見に行き、案の定火がついて取扱店舗に駆け込んで買った原作。レーベル自体、取り扱っている場所が限られていて、わりと行きやすい場所に一店舗あってよかったなあと思いました。
 「自動手記人形(オート・メモリーズ・ドール)」と呼ばれる代筆業(主に手紙)に就いた元軍人・ヴァイオレットを中心に、その代筆業に勤しむ様子を描いた連作集。依頼さえあれば、ヴァイオレットは、辺境だろうと戦場だろうと地下牢だろうと、「どこでも駆けつけます」。
 こういう話大好きなんですよね僕。普段、手紙なんか書かない(というか、読み書きができないとかで書けない場合も多い)人たちが、手紙を書きたい、送りたいと思う理由がなんなのか。当たり前ですけどそれぞれまるで違って、そのさまざまな思いを一心に受け止めるのが主人公のヴァイオレットというのが、本当に切ないと思います。ヴァイオレット自身にも、会いたい、言葉を贈りたい、でも贈れない人がいるのも、胸を打って……本当に綺麗な話だと思います。
 とりあえずお試しで上巻だけ買って、読み終わって下巻も買おう! とまた同じ店に行ったら、数日前(買った時)にはたくさんあったはずの上下巻がごっっっっそり無くなっていて、外伝とエバー・アフター(続編)だけが少し残っていて、公式ショップも売り切れで……「映画効果すげぇ」と呆然としました。これはヤバいと思い、取り急ぎその時に外伝とエバー・アフターを押さえ、こないだついに再入荷してた下巻を手に入れました! 今読んでるのが読み終わったら、また読もうと思います。
 あと、また余談ですが、映画の方、ストーリーの大枠のネタバレにはならなそうな範囲でふわっと言うと、こんなにもいろんな人の言葉を代わりに紡いできたヴァイオレットが、ラストシーンでは、泣きながら「私」しか言えなくなるの、本当に、本当良いな……って思いました(語彙力)
 映画特典小説もすごくよかったです。というか、それを読んで原作購入を決めたというか。僕が読んだのは、『ヴァイオレット・エヴァーガーデンIf』と友達が貰った『オスカーの小さな天使』です。こうなるとあと1冊、さらには追加特典の4冊も気になるけどなぁ。

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●田中ましろ『燈心草を香らせて』2019年、私家版
https://utalover.theshop.jp/items/19617305

 先月の記事で紹介した『傘、魚、花が花芯を持っていること』とまとめ買いした本。
 「地方移住した夫婦」をテーマにした写真歌集、モデルさんは、遊上なばなさんという女優さん。読み始めて気づいたんですけど、なんと舞台は小豆島! 香川県民にはうれしい限りです。オリーブサイダー辺りから「ん? ……ここ、もしかして香川のどっかの島では~~~???」ってめっちゃテンション上がっちゃった。確認したら商品ページに「小豆島で撮り下ろした」ってバッチリ書いてた。そこで気づけよ。
 こちらの歌集は、前の歌集とは違い、陽だまりっぽいイメージが強いです。別に色彩がそんなに違うわけではないのですが……何でしょう、やっぱり天気の違いもあるんですかね。でも、ノスタルジーってわけでもなくて、こちらも「今を生きる」人を描いた歌だなあ、と感じます。その瞬間瞬間を、切り取った感じ。前のと比べて、やっぱり新婚の幸せというか、穏やかさが滲み出てるのもいいなあと思います。
 ちなみにタイトルの「燈心草」とは、い草の別名らしいです。

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 10月への繰り越し本は、
アーネスト・ヘミングウェイ著、高見浩訳『老人と海』2020年(原作は1952年初出)、新潮文庫
 急にゴリゴリの近代文学に走りたくなりまして。海外文学はたまにしか読まないんですが、面白かったです。

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