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2021年8月 読書リレー(前半)

 8月は小学校の夏休みよろしく、たくさん読んでしまったので久しぶりに前半・後半に分けて紹介します。去年の2月以来ですね。

ぱやちの『アンチ丁寧な暮らし生活』

2021年、私家版
https://14568.booth.pm/items/3246424 (売り切れ)

 著者のぱやちのさんが地元のイベントに出るというので、県内だし小規模らしいし、短時間なら行っても許されるかな……と思い、生まれて初めてイベントに参加しました。
 会場に入った瞬間から「すげえ! 世に聞くやつだ!」と感動しました。完全に田舎から出てきたオタクだ。なんか、小学生だか中学生だかの遠足で高松市街に行った時に、皆で「すごーい! 建物高ーい!」とはしゃいでいたことを今ふと思い出しました。世界は君たちが思っているよりずっと広いし高いんだよ。
 しかしその田舎根性が邪魔したのか、退職後半ば引きこもり状態の生活を送っていたせいか……。ちのさんのブースに並んで差し入れを渡し、目当てのものを手に入れたはいいものの、複数の人がいる状況と、各ブースの作家さんの期待の圧が怖くなって、結局30分もしないうちに逃げるように退場してしまいました。ちのさん以外の作品も少し買えたからいいんだ……。
 イベントレポが長くなりました。今作は、ちのさんの4作目の詩集ですね。賞への応募という〆切があるとは言え、コンスタントに発行してて本当に凄いなあと思います。
 今回の表紙は僕、これまでで一番好きかもしれません。水色とショッキングピンクの組み合わせって、本当互いに互いの色が引き立て合ってビビットに目に飛び込んでくるから好きです。それに、ちのさんの詩や歌詞って、こういう青くて水っぽい質感がとてもよく似合うと思うのです。曲「テイスティング」の印象もあるからでしょうか……。ちのさんの詩は、夏の夜に外に出た時の生温くて湿っぽい風とか、冬に浴室のドアを開けた時の風の涼しさとか、そういう水と風のイメージが強いように個人的には感じます。この読んでる時の感覚が好きなんですよね……。
 次は、もう少し大きなイベントが開催されるようになったら、誰か道連れを引きずり込むことを前提に参加しようかな……と思っています。あと、自分でも、文学フリマ広島にサークルとして出たい! という夢があるので、頑張っていきたいなあと思います。

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ダンシングスネイル著、生田美保訳『怠けてるのではなく、充電中です。』

2020年、CCCメディアハウス
https://honto.jp/netstore/pd-book_30254692.html

 いろんな図書館に行ってみようと思って、初めて行った市立図書館で面陳されていたので気になった本。すぐ読めそうだったので、館内で読んできました。
 表紙の絵から、てっきり本屋でよく見かける『死にたいけどトッポッキは食べたい』と同じ著者かと思ったんですが、こちらはそのイラスト担当さんが文・絵ともに手がけたエッセイみたいです。無気力症やうつ病を経験してきた彼女が、空しい気持ちになった時の対処法やあるあるをゆるーいイラストともに綴っています。絵本感覚で読めます。
 「人と会うととにかくエネルギーを消耗する」「気の置けない友達に会った時も、個人的で極めて憂鬱な会話をするから結局エネルギー消耗する」といった話や、外出しているとどんどん減っていく「おうちゲージ」など、わかるー! とすごく共感できる内容が多かったです。
 あと、「自己肯定感泥棒にご注意を」という項目で、「うっかりウンコ踏むこともあるし」と書かれているのを見て、「そうだよな、もうこんな世の中だとウンコの方から足下に滑り込んでくるもんな」と思って想像したら自分でめちゃくちゃウケてきてました。精神が小学生だから、急にうんことか言われると笑っちゃうんだよな。

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川上和人『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』

2018年(2013年初出)、新潮文庫
https://honto.jp/netstore/pd-book_29103163.html

 以前に次作である『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』を読んで、めちゃくちゃ面白かったので、文庫化しているのを見て手に入れた本。最初はこっちが第2作かと思ってました。
 タイトル通り鳥類学者である著者が、現生の鳥類の生態から恐竜の姿形や生態を類推していくエッセイです。恐竜は祖先系が爬虫類であるワニ類、末裔が鳥類というところに位置しており、恐竜学の研究者は普通、ワニ類と鳥類の両方を見比べて研究するところを、川上さんは鳥類一本でメスを入れているような感じです。
 前書きには「この本は恐竜学に対する挑戦状ではない。身の程知らずのラブレターである」とあります。恐竜学に精通しているわけではないとのことで、『鳥類学者だからって~』に比べると、かなり控えめというか、真面目に真面目な話をしてるのが多かった印象です。いや『鳥類学者だからって~』が不真面目って訳じゃないんですけど。というかそっちの文体がやりたい放題だっただけかもしれない。
 それでも川上さんのウィットはそこかしらに散りばめられていて、とても読みやすく、興味深かったです。羽毛のあるティラノサウルスとかが有名ですが、恐竜は昔と今ではかなり推測されている姿形が違うのですが、皮膚や羽毛がほとんど残っていない中で生前の姿を復元するその解析方法なども解説されていて、興味深かったです。
 あと、恐竜学者である小林快次さんが書かれている解説がとても面白かったので、ぜひ最後解説まで読んでみてほしいと思います。最初に書いたとおり、恐竜は分類的にワニ類と鳥類の間にいるような立ち位置なのですが、つまりは「ワニ類と鳥類の間をふらふらと行ったり来たりしているアイドル的な存在である恐竜を、ワニ類学者と鳥類学者の間で必死に取り合っている」状態であり、「これまでワニ類から特別なラブコールはないから、この「ラブレター」で、ワニ類の研究者よりも一歩リードと言ったところだろう」とおっしゃっています。
 まだまだ恐竜の見た目からだと、ワニ類に近いと言われた方がしっくり来るような姿の種類の方が多いので、これから研究が進むにつれてどう復元図が変わっていくかが楽しみですね。

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平山夢明『ダイナー』

2015年、ポプラ文庫
https://honto.jp/netstore/pd-book_25347489.html

 Amazonプライムで見た映画版が面白かったので、原作も読みたいと思って買った本。映画版は友達二人がおすすめしていて、さらにそのうちの一人が原作をおすすめしていたので、どっちも触れてみたかったんです。買って初めて知ったんですが、ポプラ文庫でこんなダーティでグロテスクな作品出すことあるんですね。勝手に児童書と普通の小説の間ぐらいの位置づけのレーベルだと思ってました。
 日々を惰性で生きていた主人公・オオバカナコがあるきっかけで携帯闇サイトの「報酬三十万」の仕事に応募したことから、「殺し屋専用の定食屋」に売られ、使い捨てのウェイトレスとして給仕することになってしまう話。
 最初に言っておくと、映画版と原作ではかなり登場人物やストーリー展開が違います。原作を土台にして、蜷川ワールドに変換した感じ。やっぱり映画→原作の順に触れるのがどちらも楽しめる方法だという持論が堅固なものになりましたね。映画は映画でグロテスクと美しさが弾け合っていてよかったです。
 原作はより醜悪さが際だって描写されていて、血どころか汚物とかまで丁寧に描写されてるんですが、それでいて料理はとんでもなくおいしそうに見えるのがものすごく異質で癖になるんですよね。読んだ後、無性にハンバーガーが食べたくなりマックに駆け込んだことを友達に話したんですが、その友達は「私もより原作に近そうなフレッシュネスに駆け込んだ」と言っていてあ、僕もそうすればよかったなとちょっと思いました。ついマックばっかり行ってしまう。
 結構文庫版でも分厚いんですが、会話文での掛け合いが多いのもあってするする読めます。グロが平気な人にはオススメです。

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 後編に続きます。なるべく早く上げたい。

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