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2021年2月 読書リレー

 安定の遅刻です。すみません。
 なんか2月はタイトルだけで見ればだいぶアングラに寄ってますね。
 今回からは初めに、紹介した本の著者・タイトルを付記しておきます。

桜井弘『宮沢賢治の元素図鑑』

2018年、化学同人
https://honto.jp/netstore/pd-book_29030109.html

 確か検定受検で久々高松に行った時に、帰りに寄った宮脇本店で買った本。元々気になってた上に、試験が終わった開放感で財布の紐ゆるっゆるだったんですよね。反省してません。 宮沢賢治作品に出てくる元素または鉱物に焦点を当て、各元素の歴史や特性を賢治自身の生涯に絡めて紹介している本です。よく扱われる童話だけでなく、詩や書簡なども取り上げられてます。また、賢治作品に登場しない元素についても、後の章で網羅的に解説されています。
 大体の本屋では化学系もしくは地質学系のコーナーに置いてあるのを見かけますが、そういった専門書的な読み方だけでなく文学研究的な面もかなり感じました。大学の近代文学の講義で、指定された作家の作品(その先生の講義では1年次で宮沢賢治の童話数編、2年次で夏目漱石の長編数編の中から選ぶ形式でした)を、受講者がそれぞれ気になった要素に着目してレポートを書く、ってのがあったのですが、そのことを思い出して懐かしくなりました。その講義では、作中に登場する植物とか色とか、一人称の違いとか、みんなさまざまな題材でレポートを書いていて、「全然違う切り口でも論になるんだなあ」と感動したものです。こじつけかもしれないですけど、結構、作品中で気になる要素ってどんなものでも、作品を考察する上で材料になったりするんですよね。
 こういうのを見ると、本当に賢治さんは理系分野の人なんだなあ……と思います。近代文士を見てると、社会や政治、哲学に精通してる人は多かれど、賢治さんのように農学、化学、天文学、生物学などなど複数の理数系分野に造詣の深い人はちょっと思いつきません。いるかもしれないけど。そういうガチガチの知識で裏付けされた、清麗な童話や心象スケッチ。そのギャップというか堅固な世界構築というか、そういうのが賢治さんの魅力の源泉ですよね。堪りません。
 文学に興味のある人、化学に興味のある人、どちらにもおすすめの本です。フルカラーで写真も満載なので、見てるだけでも楽しいですよ。

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青井硝子『雑草で酔う』

2019年、彩図社
https://honto.jp/netstore/pd-book_29886554.html

 Twitterで流れてきて気になっていて、忘れたころにいつも行く書店で見かけて「おいあるやんけ!!」と脳を通さず脊髄反射で買ってしまった本です。いやあ、いつもお世話になってます、ゆめタウン丸亀の紀伊國屋書店。ショッピングモール内の書店とは思えないほどの充実っぷり。
 サブタイトルが「人よりストレスたまりがちな僕が研究した究極のストレス解消法」。帯の文句が「うつ、発達障害、パワハラ、ブラック企業etc…社会で生きづらさを感じたら合法的に草を吸いましょう」。まるで昨今のラノベタイトルのような分かりやすさ。もう、表紙で分かる通りの内容です。著者本人の経験とともに語られる合法的な雑草の吸い方の解説本です。
 「合法的に草を吸う」と書かれているので、「アロマ的な使い方とかも載ってるのかな?」と思った僕が甘かったです。合法なのはあくまで「法規制されていない植物」であるからというだけ。吸い方は完全にアウト(ドラッグとほぼ同じ)で「とんでもねえ本を開いちまったぜ」という気持ちでした。とんでもねえです。僕はまねしてみたいとは思わなかったですが、やろうと思う人にはすごく参考になると思います。
 僕には実践は無理だなーと思ったとはいえ、読む文には本当に面白くて、特に青井さんの「草を吸う」という行為に対する姿勢が本当に興味深かったです。麻薬などをやる人って、「気持ちいいから吸う」「吸わないと何もできない」というような短絡的もしくは強迫的にやってる印象が強かったので、「現在もうつや発達障害で苦しんでいる人たちのために、合法で安全な吸い方を確立する」という青井さんの研究理念とも呼ぶべき信念が、こんな世界にも秩序があるんだなあと妙な感動を連れてきてくれました。狂ってるには狂ってるし端々やべえと思う箇所は多々あるんですが、この人は正気だし、真摯にこのアングラ世界に踏み込んでいるんだなあというのが分かります。
 この本が出たのが2019年11月なのですが、読んでる途中で「2020年3月に著者が逮捕された」という編集部中が出てて不謹慎ながら「ブレねえな」と笑いました。問題とされたのが「アヤワスカ」「アカシア茶」という抽出物(お茶)。いろいろ判断が難しいらしく、まだ有罪か無罪かは争ってる最中っぽいです。有罪になったらすなわち違法。本当に、瀬戸際の世界なんですねえ。僕としては、司法が有罪と決めたらそれは罪、しょうがないし正しいと思いますし、青井さんも覚悟の上でしょう。それでも、青井さんの信念そのものは、忌むべきものではないと考えたいものです。

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アレイスター・クロウリー著、植松靖夫訳『麻薬常用者の日記〔新版〕 Ⅰ天国篇』

2017年(1987年初出)、国書刊行会
https://honto.jp/netstore/pd-book_28713461.html

 これもTwitterで気になってて紀伊國屋で買った本ですね。Twitterで買おうかどうしようかなーと思ってたところに、実物見て打ち抜かれた一冊です。別に、薬物つながりで読み始めた、とかではないですよ?
 とにかく、装丁が良い。蝋引き紙のような質感の、本体がうっすら透けて見えるカバーに、スタイリッシュでシンプルなデザイン。ボール紙のようなクラフト紙のような遊び紙(最初と最後に、たっぷり2枚ずつ)に、これまた透け感のある扉。結構なお値段なんですけど、それも納得の素晴らしさです。バイブルサイズっぽいのも意味深でいいですね。ちなみに「Ⅰ天国篇」というタイトルからも分かるように、「Ⅱ地獄篇」「Ⅲ煉獄篇」と併せて三冊構成になってます。
 著者のアレイスター・クロウリーは、作家というよりは魔術師として名を馳せた人物だったようです。オカルト団体を主宰し、だいぶ大胆な言論活動を行っていたとか。この作品も出版当時かなり賛否両論だったらしく、「「汚物と猥褻物」以外何も見あたらぬ」とまで批判されたらしいです。内容としては、主人公ピーター・ペンドラゴンがコカイン・ヘロインなどの麻薬に魅せられ、その中で出会った伴侶ルーとともに自分たちの幸福を追求していく話。らしいです。天国篇の段階では、二人が薬物にどっぷり浸かり、物語の最初の舞台・ロンドンへ向かったところで終わっています。
 正直終始なに言ってるかいまいち分かんないんですけど、不思議に後を引く魅力があります。特にコカイン、ヘロインそれぞれの吸引後の思考や感情の違い、支離滅裂ながらも、薬物によって引き起こされた、常軌を逸した哲学や宗教めいた思想が読んでて興味深かったです。序文にも書いていたように、小説という体は取ってますが、クロウリー自身が研究した宗教や魔術の教義的作品です。「汚物と猥褻物」とか言われてますが、文章・文体自体は醜悪なものではなく、結構幻想的、詩的で良い雰囲気でした。喩えるなら、水や煙に浮かんで、揺蕩っているような。ここでも薬物による高揚感とかを表してるんですかね。
 あと、冒頭にフランシス・キングによる「日本語版への序」が付いてるんですけど、クロウリーに関する解説に近く、どうにも難解なので、そこで挫折しそうになったらいったん本編に進むことをおすすめします。本編はもう少し読みやすく分かりやすいです。

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あさのあつこ『復讐プランナー』

2014年(2008年初出)、河出文庫
https://honto.jp/netstore/pd-book_26155483.html

※結構がっつり展開のネタバレしてます※

 タイトルと表紙に惹かれて買った本。確か2,3年前くらいかな?
 同級生の久利谷からいじめを受けている友達・章司を助けた図書委員・雄哉は、自身も久利谷にいじめられるようになった。久利谷は腕っ節が強く、外面も良いため、二人は怒りと悔しさを押し殺すしかないように思われた。そんな中、同じ図書委員で先輩の山田から、ノートを買うよう促され、「復讐計画を考えるんだ」と提案される。書き下ろしの収録作品「星空の下に」は、そんな三人の後日談のような話です。
 面白かったし、するする読めました。確か、風呂で一気に読んだんじゃなかったかな。
 作中で、復讐計画を立てるために章司と雄哉の二人は久利谷の情報を集めます。その調査の中で、久利谷の歪みの原因と思われるものにも触れていき、ただの「狡猾ないじめっ子」でしかなかった久利谷が、一人の「人間」として見えてきます。復讐を実行するにしてもせずに計画に終わるとしても、敵を知る、人間を知るというのはとても役に立つ行動だなあと改めて思います。人を幸せにするにも、人をボコボコにノすのにも、相手の喜ぶこと、嫌がることを熟知する必要がありますから。僕は性格が悪いので「えーーーーー久利谷ぶっ飛ばさないのーーーーーー!?!? やっちゃおうぜーーーー!!!!」」と思っちゃいましたが、これこそ平和的かつ現実的な解決法だと思います。非難されることもないですしね。
 別に復讐に限らずとも、自分の考えをバーッと書き出して、その上で取捨選択をするというのは結構大事なことですよね。考えがまとまらない時とか迷ってる時とか特に、効果的だと僕も実感しています。

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 3月への繰り越し本は、
与田準一編『日本童謡集』1957年、岩波文庫

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