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2021年5月 読書リレー

 か つ て な い 遅 れ
 退職やら引っ越しやらでバタバタしているうちに、いつの間にか二ヶ月経ってしまっていました。またこれから頑張っていきます。
 さっき気づきましたが、なんだかんだでまる二年続いてるんですね。

櫻田智也『サーチライトと誘蛾灯』

2020年、創元推理文庫
https://honto.jp/netstore/pd-book_30199675.html

(※ストーリーの流れ等、ふんわりネタバレしてるかもしれません)
 表紙とタイトルに一目惚れして、買った本。あんまりそういう衝動買いの仕方はしないようにしているのですが、これに関しては、裏の説明文を読んでも、とても面白そうだったので、なら買うしかないよなあ!! と手に入れてしまった次第でございます。僕はいつでも、本を買う理由を探しているのです。
 主人公の魞沢泉(えりさわ・せん)は、昆虫オタクの冴えない青年。昆虫を探し求めて訪れる先々で、魞沢は不思議な事件に遭遇してしまいます。夜の公園で起きた探偵の変死事件や、観光客が年々減少している高原の管理者法人による陰謀事件。それらの謎を、魞沢が飄々と、時にはコメディに解き明かしていく連作集です。
 魞沢は、推理で事件を解決したり、次の犠牲者が出るのを阻止したり、そういった探偵ではなくて、事件がすべて終わった後に推理する、時には犯人が逮捕され解決した事件に対しても、真相を暴いて周りに打ち明けるタイプの探偵です。金田一京介シリーズや江戸川乱歩作品のようなタイプ、と言ってもいいんですかね。ファンの方解釈違いならすみません。まぁたまたま各話の犯人たちが、皆、連続殺人をするような動機ではなく、特定の一人に向けたものだったから、魞沢がコナンタイプじゃないだけなのかもしれませんが。
 でも、その犯人たちが、何人も人を殺めるタイプの犯人じゃないからこそ、それぞれの事件に関する人物の機微が、それぞれ粒だって感じられるのです。魞沢がとぼけた性格をしているので、読み口は結構、小咄風というか、ゆるーいコメディタッチなのですが、その奥にある人の感情描写が、美しい。そこに絡まる昆虫たちの存在、結びつきも、美しい。
 それに話の流れが綺麗なんですよね。それこそ、蝶の羽ばたきみたいに、するっと流れるように進んでいくんです。正直、最初の話「表題作(サーチライトと誘蛾灯)」は「出てきてすぐ死んだぞなんだこれ!」とかツッコミながら読んだのですが、読み進めるにつれてどんどん魅力的な話が展開されていきます。
 僕は「火事と標本」という話が特に、とても悲しくて、美しくて、好きです。
 読み口はゆるいと言いましたが、ほぼほぼ全話人死にが出ます。表紙につられた僕は結構びっくりしたので、どうぞ覚悟の上で。面白いですよ。

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ろう著、實吉達郎監修、川崎悟司ほか絵『カワイイけど実はアブナイヤツなんです。』

2021年、KADOKAWA
https://www.kadokawa.co.jp/product/322012000862/

 いつも動画を拝聴しているので、「新しく本が出る」との告知を見ていそいそと探しにいった本。
 Youtubeであらゆる生き物に関する情報を配信している「へんないきものチャンネル」を運営しているろうさんが執筆した図鑑的著書の第二弾。動物研究家である實吉達郎さんの監修、川崎悟司さんとバニえもんさんによるイラストや挿絵、そしていなばのみねさんのコラム的マンガが収録されている盛りだくさんな内容になってます。全5章に分かれてますが、全編通して元チャンネルにも登場する「きつねさん」と「たぬきさん」が丁寧に解説してくれます。
 内容はまぁタイトル通りで、一般的に「可愛い」「綺麗」と言われている生き物の「実は……」な生態を紹介してくれています。人気どころではジャイアントパンダやチンパンジー、レッサーパンダなど。数えてみたら全部で65種紹介されてました。本当に危険な生き物ももちろん紹介されてますが、本全体の印象で言えば、「アブナイ」というよりは「ギャップがすごい」と言った方がいいかもしれません。
 あんまり内容を言うと止まらなくなるので伏せますが、僕は「オオアリクイ」「マダラアグーチ」「カオジロガン」の解説が特に衝撃的でした。あと、「ニセクロスジギンポ」という魚の生態がすごい面白くて好きです。僕の家は、ダイニングに早川いくをさんの『へんないきもの』『続・へんないきもの』が置いてあるような変な家だったので、中高あたりの頃には何度も何度も読んでいました。いやあ、生物の生態って、本当に興味深くておもしろいですよね……。
 個人的にはきつねさんとたぬきさんがめちゃくちゃかわいいので、ぜひチャンネル共々見てほしいなと思います。Twitterにはファンアートもたくさんあるので、そちらもぜひ。「#へんあーと」でたくさん出てくるはずです。
 あ、あとこの本、本屋さんの生物学コーナーじゃなく、基本的に児童書コーナーに置いてあるっぽいので、お探しの際にはお気をつけて。

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ろう著、實吉達郎監修、川崎悟司ほか絵『キモいけど実はイイヤツなんです。』

2020年、KADOKAWA
https://www.kadokawa.co.jp/product/322002000697/

 こちらも「へんないきものチャンネル」から出ている、第一弾の方。本当はこちらから読みたかったのですが、いろいろ探しても置いてなくて、結局見つかったのは家から最寄りの本屋だったというもと暗しっぷり。
 こちらは一般的に「気持ち悪い」「怖い」と思われているような生き物の、実は優れた能力を秘めていたり、人間の生活に役立てられていたりといった意外な生態を紹介しています。陸・空・海に生息する生き物ごとに全3章に分けられています。
 紹介されている生き物では、「ハダカデバネズミ」「クマムシ」とかが有名ですかね。なんとてコンセプトが「キモい」なので、第2弾に比べるとあまり見知った生き物は少ないかもです。でもその分、知らない生き物がすごく多くて、「何この造形……?」と思うような生き物ばかりで面白いです。特に、元チャンネルでも紹介動画が上がっている「クロスジヒトリ」という虫は、本当にマジで閲覧注意です。何回見てもヒェ…って思います。何この造形。 個人的に「カタカケフウチョウ」「クロカタゾウムシ」の生態が本当面白いなあと思います。まぁ全部面白いんですけどね。あと、今年公開の三秋!!!!縋さん!!!!原作の映画『恋する寄生虫』に出てくる「フタゴムシ」も紹介されてますね。個人的に三秋さんは現代作家で一ッッッ番好きなので、いつかはnoteで激推し記事書きたいなぁ……と思っているのですがね……(まずちゃんとこのシリーズを毎月書きたい)。


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スズキナオ、パリッコ著『酒の穴』

2018年、シカク出版
https://honto.jp/netstore/pd-book_28928023.html

 岡山の古本屋「ながいひる」のTwitterで入荷告知をしていて、面白そうだなと思って買った新刊。確か、ながいひるで新刊書籍も取り扱い始めたのがちょうどその頃だったこともあって、初めて実際来店して買った本です。たぶん。温めすぎてもうなんか記憶があやふやですね。仕事の疲れからか、本当に頭が働かん中で、本棚を眺めていてふと目に留まったこの本を「これなら読めそう」と手に取った次第でございます。
 フリーライターのスズキナオさんと、ミュージシャンや漫画家諸々活動されているパリッコさんが、酒を愛するあまりに二人で結成した酒飲みユニットがタイトルでもある「酒の穴」。二人がベロンベロンに飲みながら、お酒や居酒屋に関する「読んでもまったく身にならない」会話を繰り広げる対談集です。お二人は他にも『のみタイム 1杯目 家飲みを楽しむ100のアイデア』『“よむ”お酒』といった、お酒に関する書籍を書かれています。
 裏の説明文にもあるように、まぁあ「読んでもまったく身にならない」内容。けなしたいわけじゃなくて、本当に居酒屋でおじさん二人がクダ巻いてるようなゆるっゆるの会話なんです。僕の地元香川にはかつて『笑いの文化人講座』という読者投稿系のシリーズ本がありまして、その編集者たちのコメントと似た空気を感じます。そのシリーズもめっちゃくちゃ面白いんですよ、たぶん今ほとんど手に入らないけど。
 もう最近、オモコロチャンネルというYouTubeチャンネルを見過ぎているせいか、おじさんがわいわい楽しくご飯食べながら話してるのが一番精神にいいなという状態になってきてるのです。そしてくだらない中でも、何か芯が通っているというか、哲学の片鱗が見えるというか、そんな会話をただ聞いてる雰囲気で心地よいのです。触れても傷つかない、ある意味とても優しい読み口で、これぞ「娯楽」とでもいいたいような本でした。
 ながいひるはBASEで通販もされていて、CDなんかもあるので、ぜひ覗いてみてください。楽しい本屋さんですよ。

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 6月への繰り越し本は、
夏目漱石『こころ(改版)』2004年(1914年初出)、新潮文庫

 大学時代に挫折したものの、ずっと通しで読んでみたくて、2020年の新潮文庫プレミアムカバーの時に買って、本棚に眠らせていた超名作。『酒の穴』の時にこれなら読めそうとか言ってたのなんだったんだって思うほどのゴリゴリ近代文学ですが、なぜか「あ、今なら読めそう」と思ったんですよね。

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