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2020年11月 読書リレー

 明けてますね。おめでとうございます。
 今年は、もう少しちゃんと……毎月上げていきたいなと思います。今年もどうか、お付き合いいただけるとうれしいです。よろしくお願いします。

バーナビー・コンラッド三世著、浜本隆三訳『アブサンの文化史』2016年、白水社
https://www.amazon.co.jp/dp/4560095299/ref=cm_sw_r_tw_dp_fJwdGbPMEVG3F

 数ヶ月前に買った本なのですが、どこで買ったのか、なぜかまったく覚えていません。こわい。買う時に、「果たして最後まで読めるんだろうか……」と思ったのは覚えています。
 近代文学好きなら、誰しも憧れたことがあるかもしれません。世界中の作家や芸術家を虜にした、蒸留酒「アブサン」にまつわる歴史を丁寧に解説した本です。アブサンをめぐる社会史・文化史だけでなく、アブサンの成分や製法についての化学史・医療史、アブサンを愛飲していた芸術家たちの人物史のような章もあります。
 読むまで僕は、アブサンって「一部のだいぶアウトローな人たちが、カウンターや酒場の隅でかっくらってた酒」ってイメージだったのですが、批判や禁止を求める声を浴びながらも、本場フランスでは一時期は安価な酒としてワインを凌ぐほどポピュラーな飲み物だったらしく……驚きました。アブサンって(どうせなら有名なペルノー飲んでみたいので)高い上に小瓶で売ってないので、外で飲むのが一番試すのに手っ取り早いのですが……僕はかなり酒に弱いので……店に迷惑かけてしまいそうで、未だに飲んだことはありません。
 個人的には、ヴェルレーヌとランボーについて詳しく書かれていたのが嬉しかったです。中原中也を深く読むには不可欠な二人ですが、言うてあまり詳しく知らなかったので。

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深山鈴「勇者パーティーを追放されたビーストテイマー、最強種の猫耳少女と出会う」2018年~、サイト「小説家になろう」
https://ncode.syosetu.com/n8810eu/

 コミカライズ版がバナー広告で毎回のごとく流れてきて、気になりすぎて検索したら行き着いた原作小説。74話まで読みました。
 「無能」と見なされ、勇者たち一行から追い出されたビーストテイマー(いろいろな動物を使役するサポート系の職業)である主人公レインが、「最強種」と呼ばれる種族の一つである「猫霊族」の少女カナデと契約を結び、冒険者となっていく話。大体タイトルそのままです。いわゆる、“俺TUEEE系”と呼ばれるジャンルですね。僕は初めて読みました。
 基本ビーストテイマーは「一度に一匹しか使役できない」「普通の動物しか使役できない」という設定なのですが、主人公は特殊な村の生まれで、一度に何十匹と使役できちゃったり、最強種と契約できちゃったり、他の○○テイマー(モンスターとか、虫とか)の素養があったりでまーあとんでもないんですよね。最初に出会うのはカナデですが、その後も次々と最強種と呼ばれるいろんな種族の女の子たちと出会い、契約を結んでどんどん強くなっていきます。分かりやすいハーレムです。さらっとネタバレしますが、主人公が無自覚に即死魔法を無効化したところで大笑いして、きりのいいところまで読んでそっとタブを閉じました。完。
 ……いや、悪口を言いたいわけじゃないんですよ。面白かったんです、本当に。文体や展開で「うわぁ……」と思うところは多々ありながらも、俺TUEEE系が流行る理由が分かった気がします。
 はっきり言うと、読んでて楽、なんです。主人公側でさえあれば、危なくならない、挫折することがないんです。すげえ安心して読めるんですよ。誰も適わないような力を手にして、馬鹿にしてきた奴らの鼻を明かせて、かわいい女の子たちにチヤホヤされる。こんなにも優しい世界に浸れるんですね。自己投影というか、主人公の立場に没入できれば、本当にずっぷりハマる気持ちよさがあると思います。僕は残念ながら、最後まで客観的な立場にしかなれなかったですけど。
 最近pixivランキングとかでよく目にする「今まで辛い目に遭ってきた人が、ある人に出会ってデロデロに甘やかされるようになる」タイプのマンガと、読み口、読む動機は同じかもしれませんね。いびぎぼとか。僕あのマンガ大好きなんですよ。やさしいせかいだから。

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森見登美彦『新釈 走れメロス 他四篇』2015年、角川文庫
https://www.amazon.co.jp/dp/4396632797/ref=cm_sw_r_tw_dp_kOwdGb5N5DFR5

 だいぶ前に買ってた本ですが、次何読もうか迷って積ん読用の本棚を見てたら目に留まった本。
 一言で言ってしまえば、現代京都を舞台にした、近代文学の名作パロディの短編集。それぞれの短編の主人公は、全員京都大学の学生やOBです。元になった作品は、表紙にも書かれてはいますが、中島敦「山月記」、芥川龍之介「藪の中」、太宰治「走れメロス」、坂口安吾「桜の森の満開の下」、森鴎外「百物語」。
 いやあ……面白かったですね……。主人公のみならず、登場人物のほとんどが、典型的な「思想拗らせた文学部生」で、僕も学生時代を思い出して「ああああ分かる~~~~~」と心中叫びながら読みました。分かるってのも変な話だけど。
 僕はまだ「藪の中」「百物語」の元作品は読んだことがないのでなんとも言えないんですけど、他三篇に関しては、文体もちゃんと原作に即してるんですよね。山月記の硬い文体や、桜の森の満開の下のですますの独白体とか。内容も、現代への焼き直しとかじゃなくてちゃんと原作のエッセンスが効いた現代小説になってるんです。僕は山月記と走れメロスが特に好きですね。
 ぜひ読んでほしいんですが、できれば、原作を読んでからの方が楽しめると思います。どれもあまり長くないので、ハードルは低めかと。原作のどの要素が、どう落とし込まれてるかってことに気づくのが、本当に気持ちいいので。ぜひ。

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 12月への繰り越し本は、
ポール・マリー・ヴェルレーヌ著、堀口大學訳『ヴェルレーヌ詩集』2007年(1950年初出)、新潮文庫
 『アブサンの文化史』を読んだので、アブサンジャンキーだった詩人を。中原さんを崇拝してるくせして、ヴェルレーヌはちゃんと読んだことなかったんですよね。

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