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『文部科学省認定登山士試験 完全必勝講義』序文(←嘘ですよ)

平成25年の創設以来、「文部科学省認定登山士試験」の受験者数は年々うなぎ登りに増えてきた。良質な登山者育成に寄与するこの資格制度が、かくも短時日に広く世間一般に受け容れられたことを、制度創設に微力ながら関わった者のひとりとして誠に嬉しく思う。
近年においては、得意先の接待に登山を利用する所謂「接待登山」がビジネスマンの間で流行しており、その動向を受けて、「認定登山士の資格が就職にも有利である」という認識が一般に広がったことも、本資格試験の受験者数増大につながっているようだ。企業の中には、認定登山士資格の価値をMBAなどよりも上におく社もあると聞く。喜ばしい限りである。
しかるに、受験者数が増加するその一方で、合格率は年々下降の一途を辿りつつある。25年の第一回試験の合格率は33%であったが、年を経るごとに下がり続け、一昨年は23%、昨年に至ってはついに20%を割り込んで18%となった。その理由を「受験者が年々馬鹿になってきたから」と説明する向きもあるが、筆者はそう単純なことではないと考えている。
もともと認定登山士資格試験は、比率的に多かった中高年登山者を念頭において問題作成がなされており、しかも、問題を作る側の平均年齢もこれまた高い。そのため、問題内容、とりわけ用語等の使用において、はからずも中高年の受験者に有利、若年層受験者に不利なものとなっているのである。合格率低下の理由は、そこにあるのではないだろうか。なぜならば、近年の受験者数の増加は、とりもなおさず若年層受験者の増加でもあるからだ。
たとえば、筆記試験の問題文中には、「キスリング」「コッフェル」「ホエーブス」「キジ撃ち」「ボッカ」などといった今や死語となって久しい登山用語がなんの説明もなく出てくる。若年層の受験者には馴染みのない言葉であるから、戸惑いは大きいに違いない。
本書「第一部 筆記編」では、そのあたりの事情に配慮して、若年層受験者が学習しやすいよう、これらの用語の丁寧な解説につとめた。いくぶんしつこいぐらいの記述になっているから、「こんなことはもうわかっている」とまどろっこしさを感じる中高年受験者の皆さんは、適宜読み飛ばしてもらってもかまわない。
逆に、GPS等を使用した最新のナビゲーション技術関連の出題項目に関しては、ハイテクに弱い中高年受験者にも理解しやすい解説に務めた。ここ1、2年の試験では、GPS機器の機種名とそれぞれに対応するGPSアプリケーション名を線で結べ」などといった相当高度な知識が要求される問題が出題されており、また配点も高くなっているので、この分野が苦手な中高年受験者は本書でじゅうぶんに学習してもらいたい。
さて、以上のような配慮から、本書においては必然的に「第一部 筆記編」のボリュームがふくらむ結果となり、紙数の都合上そのぶん「第二部 実技編」については必要にして最小限の解説記述にとどめた。だが、心配は無用である。実技試験対策は、付録のDVDをじっくり視聴することで、万全の備えができるものと考えている。
手前味噌で恐縮だが、今回付録につけたDVDの内容は誠に素晴らしい。インストラクター役には、認定登山士実技試験の監督官を長くつとめられた、認定登山士試験文科省公認アドバイザーで「日本登山専門学院 接待登山科」の講師でもあるあの丼(どんぶり)淳一郎氏に無理を言って出演していただいた。丼氏の長年の経験が遺憾なく発揮されたじつに懇切丁寧な実技指導がおさめられている。
ことに、チャプター13「実践:冬山遭難生還技術」にいたっては、酷寒零下20度、悪天候の日をわざわざ選んで厳冬の北アルプスに入り、カメラクルーとともに、凍傷一歩手前になるまで10日間におよぶ撮影を敢行し、きわめて迫真的なインストラクションを展開している。冬山遭難に自信のない受験者の便宜に適うこと請け合いである。この「冬山遭難生還技術」は本番の試験時に毎年十数名の犠牲者を出している最難関課題である。このDVDを何度も何度も擦り切れるまで視聴して、丼氏の捨て身の指導に従うことで、ぜひとも難関を突破していただきたい。
ところで、丼淳一郎氏は、このDVD撮影時の無理がたたったのか、先日講演のため出向いた大阪で急死された。講演後、北新地のクラブで懇意のホステスとカラオケを楽しまれている最中に倒れられ、ついに還らぬ人となったのである。最後に歌っておられた曲はあの「いつかある日」だったという。その歌詞の一部を文末に掲載し以てご冥福をお祈りしたい。

いつかある日 山で死んだら
古い山の友よ 伝えてくれ

母親には 安らかだったと
男らしく死んだと 父親には

「いつかある日」原詩 ロジェ・デュプラ 訳詞 深田久弥

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