最近読んだ本「近畿地方のある場所について」感想

 結論から言うと、超怖かったし面白かった。夢中で読んでしまった。でも、こういうタイプの本が好きな人と嫌い(というか認めない)人に分かれると思う。その理由については後述。

 流行りものが好きだ。特に「ネットで話題になった本」系はかなり心を惹かれる。だから本屋さんでそういう類の本を見かけると、結構な割合で買ってしまう。この本も「あ、この間ネットで見たやつだ」という理由で反射的に買ってしまった(ちなみに「変な家」も読んだ)。買う前は「怖い話らしい」「今流行っているらしい」くらいの知識しかなかった。

 しかしそういう言い方も厭味ったらしいが、ネットで話題になる本というのは、普段あまり本を読まない人が手に取るタイプの本も多い。それが良いか悪いかは別として、一般的な本を読みなれている人にとっては「いやちょっと日本語軽くない?」「活字大きくない?」「行間広くない?」などと突っ込みたくなることがしばしばある。この本はどちらかと言えばそのタイプに近い。いや、そのタイプの先にあると言えばよいだろうか。

 あまり説明するとネタバレになるが、この本は複数のカテゴリで一つの話を紡いでゆくという、(その界隈に詳しくない私にとっては)斬新な手法で構成されている。そのため、普通の本を読みなれている人にとっては正直ちょっと読みにくい。縦書きが急に横書きになったりするし、全体のエピソードは一つに繋がっているのだが、前後のエピソードに関連性がないことがほとんどであるため、その構成に慣れるまで少しかかった。ずっと前のエピソードが後の方に出てきて、「あれ、そんな話あったっけ?」などとページを戻ったりするので、もどかしい部分も正直あった。けれども、その行程こそがおそらく本書の「没入感」を高めているのだと思う。読者である我々があたかもたくさんの手掛かりを集めているような疑似体験ができるのだ。

 そしてなによりも、怖い。怖いけど気になるから読みたい。でも怖い。読んでいる間はその葛藤の繰り返しだった。古典的なホラーの怖さとはちょっと違うし、おそらくホラー愛好家には物足りないかもしれない。察するに本書は「新しいものが好きな本好きが、実験的な本だと思って読む」ための本、というのが最適な解釈だと思う。

 というわけで、私は充分楽しめた。けれども私の身近にいる、上記とは真逆(新しいものが特に好きではない、普通の本が好きな本好き)な人はあまり楽しめなかったらしい。好き嫌いが分かれる本であることは間違いないようだ。

 それにしても、今どきの本だなあと思う。いろんな人がいろんな表現方法を生み出しているんだな、と考えさせられるだけでも、本書は読む価値があると思う。でも怖い本が嫌いな人にはお勧めしません。

 最後に、私が読み終えた時のエピソードを一つ。

 残り数十ページになったときにどうしても先が気になってしまい、寝る前に一気読みしてしまった。日付が変わる頃に無事読み終わってさあ寝ようと思ったら怖くて寝付けない。それでも目をつぶっていたら、瞼の向こうでピカッと光ったような気がしてドキリとした。そちらはスマホが置いてある方向だ。こんな時間にメールでも来たのだろうかと思ったが、ナイトモードに設定してあるから、例えメールが来ても光るはずはない。もしかして、知らないアドレスから「見つけてくださってありがとうございます。」というメールが届いていたりして。私の胸は嫌な感じに高鳴った。どうしよう、起きて確認しようか……でも怖い。

 そこでふと考えた。仮に私のスマホに「見つけてくださってありがとうございます。」というメールが届いていたとしよう。それを今、私が夜中に見たら「うわあああっ」となるが、このまま気にせずに寝て、明日の朝に見たとしたらどうだろう。未知なる恐ろしいものが夜中の十二時過ぎに送った怖ろしいメールを、朝になって見る。それって怖さ七~八割減だし、送ったほうにしてみたら「いや夜中に見ないんかーい」となるし、なんなら朝になって確認されたら逆に恥ずかしい気がする。私がその立場なら、そんなの絶対にかっこ悪いからどうにか送らなかったことにするに違いない。というわけで私はそのまま瞼を開きもせず眠ることにした。

 気が付いたら朝がやってきていた。昨夜のことを思い出し、スマホを確認したが、何も届いていなかった。ただの気のせいだったのか。

この記事が参加している募集

#読書感想文

192,370件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?