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〔101〕國體論断片 瀬島参謀の没後評 8・10最終

 〔101〕落合國體論断片 ある國體参謀の死後評価
 平成の中頃から八年に渉って『月刊日本』に寄稿してきた落合は、毎月届く同誌を読んでおりますが、八月号の巻頭言で「日米安保条約の破棄こそが、日本独立の必須条件だ」と述べる同誌主幹南丘喜八郎氏は「西郷遺訓」を援用し「国の凌辱せらるるに当たりては、縦令国を以て斃るる共、正道を踏み、義を尽くすは政府の本務也」と主張しています。
 最近接したこの一文により慷慨を新たに催した落合は、同号所収の倉重篤郎氏の一文「湛山についてのあるエピソード」に接して俄かに思う事あり、このnote の〔97〕〔98」〔99〕で所感を述べ中で、胸底に湧き上がる疑念を払拭しえず、國體舎人を打診したとこころ、「丹羽宇一郎は瀬島機関」との一語を得て疑念が氷解したことを〔100〕で述べました。

 ソ連で十一年間の抑留生活を経て帰朝した瀬島龍三を待っていたのは「戦友五十万をソ連に売った国賊」をはじめ数々の罵詈であります。
 三年の浪人暮らしのあと伊藤忠商事に迎えられた瀬島は、経済界における活躍により地位と名声を獲得しましたが、その反面、旧軍人はもとより世間一般からの非難と罵詈を浴び続けたまま没後十六年に至り、いまだに賛否両論、是非伯仲の有様であり、いずれかとなれば、言論界ではいまだに悪評が優勢のようにみえます。
 落合もかつては瀬島国賊論に左袒しておりました。ソ連の要求を諾し、戦友五十万余を敵に引渡して強制労働に服せしめた瀬島参謀の行為を、ひとえに一身の安泰と利益を図るためとみなしたからであります。
 その思い込みを覆す機となったのは、ウイリアム・ニンモというアメリカ人研究者が、「ソ連軍によりシベリアに抑留された日本将兵の数が、アメリカの資料によれば、従来公表されている約六十万名より二十万ほど多い」と発表したことを伝聞した時です。
 それまでにも、「朝鮮戦争というが、北朝鮮側の戦力の実態はどのようなものであったか?」との疑問を抱いていた落合は、北朝鮮軍の主力は実は関東軍或いは満洲軍の将兵ではないか、との推論を立てていたのです。
 この問題は、ベトナム戦争におけるホーチミン軍の主兵についても言える事で、之を洞察することで大東亜戦争後に対応する帝国陸軍の戦後戦略がおぼろげに見えてくるのですが、不肖落合は老耄にして、もはやその馬力がありません。
 しかし瀬島龍三についての評価を問われれば、落合が敢えて挙げるのは以下の一言のみです。「丈夫棺を覆いて名定まる」。然り、瀬島龍三は紛う方なき國體参謀なり、と。
 8/10 追記
  あまりの暑さに筆を措いていた落合ですが、立秋を経てようやく机に向かいました。

 人類の社会生活は家族から始まり、たちまち村落を形成しますが、それが周辺と融合して形成した生活共同体が異文化と交流することで文明を創り出します。その際、各社会固有の「文化」が育ててきた諸々の要素を社会的合理性を基準に無意識的に取捨選択して創り出したのが「地域文明」で、これを統合する方向に今なお発展し続けるのが「普遍文明」です。
 人類文明の普遍化は文化的階層を常に下降する現象で、外界からの文化的エネルギーの流入がなければ「不可逆的」に進行しますから、まさに熱力学でいう「エントロピー増大の法則」に支配されています。
 換言すれば、熱力学の諸法則は人間が構成する文明社会にも適用されるわけで、量子論でいう「分子」「原子」に当るものが、社会学的には「家族」「個人」なのです。また熱力学で言う「系」が「国家ないし社会」に当ります。
 地域文明が統合され、新たな「系」が生まれる過程が世界史ですが、その統合過程を無法則的とみてはならず、必ず一定の法則に従っております。
 曩に述べたように量子的熱力学でエネルギーに階層秩序がある如く、社会的熱力学においても階層秩序があり、常に高次層から低次層へ不可逆的に移行することも、量子的熱力学と択ぶところはありません。
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