〔32〕白頭狸の時務随想 3/2

〔32〕白頭狸の時務随想 3/2
 さる二月二十六日に急死した実弟に関する対応に追われた白頭狸は、時務に関する考察を怠ること五日に及びました。
 本日はこれから奈良へ行って骨上げをし、分骨した弟の遺骨を和歌山へ持ち帰り、明日三月三日に井口家の菩提寺法性山本光寺で葬式を挙行いたします。時節柄、会葬者は近親だけですが、弟の高校時代の学友で和歌山在住の方々が参ってくれると聞きます。
 さて、目下の時務について謂えば、風船騒ぎが下火になりました。ウクライナ戦争も、これまで「祖国愛に燃える勇猛果敢なウクライナ国民」と「悪辣非道な侵略者プーチン大統領」の対決という紙芝居的ストーリイを信じてきた日本国民の間では、2014(平成二十六)年のマイダン革命における約束をウクライナが守らないこと、ゆえにプーチンの怒りにはそれだけの理由があることを理解する人々が増えてきたことは慥かです。
 防衛省傘下の御用軍事評論家は相変わらずウクライナ側に偏った状況判断を国民に押し付けています。まるでウクライナ軍を代理して大本営発表をしているような有様ですが、こんな嘘はもう長く保たないでしょう。
 もう一つは全世界を戦場とするコロナ戦争ですが、防疫を口実にしたワクチンの弊害がかなり広がってきました。
 マスクに関しては、政府が方向転換を決めたことから、スンナ派とシイヤ派の対立が解消しつつある現在、白頭狸のごときスンナ派は外出時に余計な気配りをしなくて済むようになりました。

 コロナに関しては、各国の政体が政治思想や国家体制の違いを超えて一致して行動していることは誰の目にも明らかです。つまり各列強とその保護国ならびに周辺国は、この地球に棲みついた全人類共通の敵と戦っているのです。その敵を{コロナウイルス}などと呼んでいますが、そもそも{コロナウイルス}なるものは人造の生物兵器であって、疫学曲線にしたがって時間とともに低減していきますから、そんなに強力なものでもありません。
 しかしながら、この生物兵器があらゆる階層の人類に向けられているところを見れば、この生物兵器を計画し使用しているのが特定の列強ないし国家でないことは自明です。
 つまり「人類の一部」が「一般人類」に向って{ウイルス兵器}を使用しているのです。こう言えば「人類の一部」とは何者ぞ?ということになりますが、これ以上の言及を白頭狸は避けることにいたします。

 さて白頭狸が人口問題に目覚めたのは昭和四十五(1970)年ころです。経済企画庁内国調査課に部員(参謀本部員と同様の意味)として出向していた狸は、当初は住宅経済を担当しましたが、二年目に担当を命じられたのが社会資本・公共資本の調査と提言で、これを研究しているうちに狸は、近現代文明の底流を成す“人口の都市化”がすべての経済問題の根本を規定していることに気が付きました。
 ‟人口の都市化”が必然的にもたらす地球全人口の増大が地球全環境の破壊と森林伐採および海洋汚染を招く結果、これまで積み上げてきた文明が崩壊して人類は壊滅的な人口減少を避けることができないと洞察した白頭狸は、当時の内国調査課長内野達郎さんに、これを経済白書で提言することを具申しましたがさすがに採用されず、狸の心底に焼き付いたままになりました。
 当時の地球総人口は三十五億人ですが、それれでも過大と白頭狸が感じたのはすでに公害問題が地球の各地で発生していたからです。当時の公害問題は、企業経営者の決定する経営資源の配分が増産と生産性向上の分野に著しく偏っていたからで、配分を正せばこの問題は乗り越えることができる、と白頭狸は考えていました。
 内野課長も心底は狸と同じ考えらしく、「公害因子を製品の原単位に織り込むべし」と狸に説かれました。「原単位というと必ず節減に励む経営者の習性を利用したら良い」との意味ですが、織り込むとは法制化するということで、結局その方向に日本社会は進みました。 

 白書の作製が終わると、生産現場の現地視察のために地方へ出張するのが内国調査課の慣例で、狸は数人で連れだって全国で名だたる大企業の製紙工場を訪れました。東北某県の海岸にあるその工場の立地目的が、常時発生する莫大な排水を海洋に放出する便宜にあることは一見で判ります。
 製紙原料の木材チップは繊維分とリグニンという高分子のフェノール性化合物(木質素)からできていて、これを亜硫酸ナトリウム、苛性ソーダなどの蒸解剤によって煮溶かし木材繊維を取り出すと、リグニンや樹脂成分と薬品が混ざった「黒液」が残ります。

 現在は、化石燃料の代替エネルギーとして注目を集め製紙工場の熱源として再利用されるようになった「黒液」は、そのままではもちろん多少希釈したとしても、水路や河川に放出されると大変な漁業被害をもたらすことは、昭和三十三(1958)年の江戸川漁業被害(十条製紙事件)として知られていたようです。そんな事を全く知らなかった当時の狸が、説明役の課長に色々質問して得たのが右の知識(江戸川漁業被害を除く)です。
 木材繊維と黒液を分離するための薬品の一つである亜硫酸ナトリウムが、皮膚炎・蕁麻疹や喘息における気管支終息の誘発などを起す副作用が昭和四十五(1970)年頃から報告されていますが、今もワインの防腐剤として用いられているところからみると、少量なら健康被害はないのでしょう。
 このリグニンは植物が陸上生活に移行した時に発生したもので、植物体を固くすることで発生した樹木の木質を分解する微生物が当初は存在しなかったため、地中に大量に残ったのが現在の化石燃料の石炭ですが、三億年前の石炭紀の終わりにリグニン分解能力を有する白色腐朽菌が登場したことで、その後は石炭ができなくなったと聞きます。
 例によって話があちこちに飛びますが、これが随想の随想たるゆえんですから、ご容赦願います。
 ここで一応締めくくるとすれば、近来俄かに喧しくなったゴキブリ食品のことです。誰が言い始めたのか知りませんが、これに政体は六兆円投じると伝わると「そのような金があるのなら、国民がまともな文化生活を送れるように使え」との声が沸き起こっています。

 ゴキブリなぞ食品として何の益もないことは、政体も知っていること間違いありません。それがなぜ、この時期に持ち出されたのか?
 必ず理由があるのです。それを洞察してみませんか、諸子よ。
 

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