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〔161〕米ドルは原油ダラー・中華ダラーと日本ダラーの三本立て 3/8追加修正済み

 かなり追加しましたので再読をお願いします。
〔161〕米ドルは原油ダラー・中華ダラーと日本ダラーの三本立て

 日経ダウも三十四年ぶりの新値を取ったことで、久しくゼロ金利の泥沼で賃貸仕切っていた日本の投資界に活気が戻ったようですが、ここの処、金価格も高騰し、NYでも東京でも連日史上最高値を更新しております。
 本稿は信用通貨論が主題ですが、金本位制に関する考察を進める中で、れまで考えて見もしなかった「ペテロダラー」なる体制に遭遇した白頭狸は、その実態を検証した結果、「金本位制」は金の存在量の不足により廃滅したどころか、今もしっかりと信用制度の根幹に座っていることを悟ったのであります。
 それについてはこれから述べますが、白頭狸が前項〔160〕の後半で金投資に関する予備知識めいたことを申し上げたのは、諸兄姉においても金投資に対する関心を抱かれる方がおられると察したからです。
 さて、これから述べるのは、キッシンジャーが基軸通貨を米ドルとするWWⅡ後の通貨体制の崩壊を防ぐために取った政略が、「ペテロ・ダラー」だけではなく、規模においてそれを上回るほどのものがあった、ということです。
 その一つは日本に輸出黒字の大部分を「米国債」で保有させることです。
昭和四十六(1971)年にニクソン大統領が宣言した「米ドルの金兌換停止」により、アメリカ国債は「35ドルが金1オンスと兌換されるという裏付けのない」紙切れとなった一方で、金も「1オンスが35ドルの米ドルと交換される保証のないただの金属」となりましたが、そもそも兌換停止が金の不足によって生じた以上、金の価格が35ドルより下がることは、ますありません。
 黄金を経済的価値の唯一の象徴とする考えのもとで、黄金1トロイオンス(31・1g)を通貨35ドルと定め、日常の取り扱いの便宜のために「金の引換券」として「ドル札」を用いるのが、ブレトン・ウッズ体制です。
 他国の通貨はそれぞれ1ドルとの交換比率が定められ、時には小さな幅で切り下げあるいは切り上げされることがあります。ここで「切り上げ」とは対米ドル交換比率を上げることを指、その反対が「切り下げ」です。
 白頭狸が今でも覚えているのは昭和四十二(1967)年秋の英ポンドの切り下げです。切り下げ率は対米ドルで14・3%ですが、日本円はブレトンウッズ協定で米ドルとリンクしているため、対日本円でも同率の引き下げになります。
 当時、白頭狸は住友軽金属の伸銅品部伸銅商務課に勤務していましたが、降って湧いた「切り下げ」の意味がすぐには呑み込めず、課内で何回も会議を開いてその意味を論じたのは、伸銅品課が銅管を輸出していたからです。
 輸出先は香港などが多かったようですが、輸出価格はポンド建てですから、従来通りの価格では日本円での手取りは14・5%減ることになり、ただでさえ少ない利益がたちまち赤字になります。
 伸銅商務課内の結論は「ポンド切り下げでイギリスが得をする」ということです。WWⅡ後のイギリスは大英帝国再建のために軍事費を削減せず、ポンドを高値維持していたことが輸出不振とデフレをもたらしたため、政策の変更を求める民意に耐え切れず、ポンド切り下げを決行したのです。
 これでとりあえずイギリス経済は苦境を脱したのですが、自国通貨の切り下げは対症療法ですから効果は短期的です。  いわば倒産に瀕した企業が全製品を一斉に大安売りするようなものですから、本格的な立て直しは、経営方針の抜本的見直しと生産性の向上が必要です。
   労働政策や福祉政策を修正したサッチャーの政策も結果は失業率の上昇を招く失策となり、平成四(1992)年のポンド下落による輸出回復で一時的に経済の安定を取り戻しましたが、三年後には円高もあって129円にまで下落しました。

 白頭狸の少年時代はブレトンウッズ体制がまだ健在で、当時は一ポンドが1080円であったのが、1980年に500円を割り、1983年に400円を割って「半値八掛け」を実現した英ポンド(GBP)は、その「二割引き」すなわち355円(1080×0・5×0・8×0・8=355)をさらに超える「五割引」すなわち216円に達したのは平成五(1993)年で、その後は上述の理由からやや持ち直しましたが、三年後には円高が理由で129円の最安値となり、その後も200円を超えることは2007年を除いてありません。今日このころは180円台です。
 この為替変動を白頭狸が予見したのは『金融ワンワールド』を執筆中の平成二十三(2011)年のことです。当時の日本は輸出不振で、その理由を経済評論家や御用学者は円高に帰していましたが、「金融カジノのディ―ラーがそろそろ日本に良い目を回してくる」と感じた白頭狸は随所で私見を披瀝していましたがが、果たして安倍政権発足と同時にドル/円が暴落し、狸が適正値と考えていた106円に達したのが平成二十六(2014)年の中の頃で、狸が「嗚呼善かったなあ」と喜ぶまもなく125円に達しました。あるいは当時の適正値は125円だったのかもしれません。
 その後は諸兄姉の御高承の通りですが、NYダウが2月22日に新値、同日戻り高値を付けた日経ダウが3月4日に新値を更新しました。株価だけでなく金価格もNYと東京の両取引所で新値を取ってきました。
 これぞ「天の時」というべきか!
 結論から言えば、日米株価上昇の主たる原因は、企業業績や金利水準などではなく「日米通貨の価値下落」なのです。これを落合莞爾(白頭狸)はずいぶん前から主張しております。
 ようするに、ここのところ米株価が同時に史上最高値を示現したのは米ドルの価値が史上最低になったからです。同時に日本の日経平均が平成大暴落以前の高値を更新して4万円台に乗った背景も、マスコミや御用経済評論家が言うような上場企業の業績回復ではありません。植田日銀総裁が米ドルの為替価値を維持する目的で、ドル/円を円安維持に保っているからです。
 植田氏は前任総裁の異次元(実は異常な)金融緩和を継承していますが、それが限界にきているのです。そもそも黒田総裁の異次元金融緩和とは、「JPY(日本円)の大増刷」により、金利低下と発行総量の増大がもたらす自国通貨の為替価値の下落を目的としたもので、民主党政権の円高デフレ政策を克服するための「権道」だったのですから、ドル/円で125円を実現した以後は、輸出業者の自助努力に期待して異次元の「権道」を「正道」に戻すべきところ、黒田総裁は意図的にこれを怠りました。理由はいうまでもなく、アメリカ(日米合同会議)の意向に沿うものです。
 この時機に日銀総裁に就く方の要件は「日本独自の国益に背いて従米主義を断行できる」ことですから、そのような人材が揃う財務省OBの中から黒田さんが選ばれたのは自然なことですが、なかでも、かの「ミスター円」で知られる榊原英資の後任として榊原路線の継承者であったことが決め手、と白頭狸は観ております、
 バブル時の狂騒消費を反省する日本人の良心は、消費税の引き上げと預金金利の引き下げもあって消費抑制に向かったので、紙幣増刷によるさらなる金融緩和は倹約心理が支配する日本社会の実情に合いません。現状の日本経済に必要もない自国通貨の為替価値を黒田日銀が敢えて下落させた目的は、米ドルの為替価値を支えること以外にありません。
  その後の日本経済がたどった道は諸兄姉御覧の通りですが、NYダウが2月22日に新値、同日戻り高値を付けた日経ダウが3月4日に新値を更新しました。株価だけでなく、金価格もNYと東京の両取引所で新値を取ってきました。
 その情勢分析は後にして、キッシンジャーが基軸通貨を米ドルとするWWⅡ後の通貨体制の崩壊を防ぐために取った政略はペテロダラーだけでなく、規模において「ペテロ・ダラー」を上回るほどのものがあったのです。
 そのことについて以下で解説します。

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