10円を笑う者は10円に泣く:「積小為大」の精神

 将棋の強い人は、「歩」の使い方が上手だと言われます。初心者などは、「歩」の価値を軽んじて、大駒ばかり求めます。一方、プロの棋士、女流棋士のなかには、「一歩千金」と揮毫される先生も多数おられます。
 菊池寛は、「人生は一局の棋なり」と言いました。将棋の棋力を人生に拡張すると、たとえば、10円玉や1円玉が、そこら辺に転がっているようでは、「一歩千金」の境地からは遠いと言わざるを得ません。精神科医の樺沢紫苑先生は、「小さな幸福(プチ幸福)に気がつけない人は、大きな幸福にも気がつけない」と言います。
 私自身の経験に照らして言えることですが、10円玉や1円玉を軽んじてしまうのは、自分が結構な境遇にいるときです。一方、貧窮に近づくと、10円玉や1円玉の価値が相対的に大きくなります。将棋の先生などは、どんなに優勢なときでも、一歩をおろそかにしませんが、一般の私たちは、恵まれているときには、小銭を粗末に扱うことも多いと思います。
 江戸時代の農政家・二宮尊徳は「積小為大(小を積んで大と為す)」の大切さを説きました。小さな努力の積み重ねが、やがて大きな収穫や発展に結びつくのであり、小事をおろそかにしていて、大事を為すことはできない、という意味です。

 人間誰しも目標や大望をもって生きているのですが、どうしても、一足飛びにその目標に辿り着こうとしてしまいます。けれど、その目標が大きければ大きいほど、1か月や1年で叶えられるものではないのです。その時に大事なことは、その目標を非常に小さく細分化し、「今日」という1日に「なすべきこと(to do)」に分配することが必要なのです。
 「1日は小さな1生」です。大目標を細分化し、1日1日に割り当てる作業を終えたら、今日という1日にフォーカスし、遠い将来のことは考えません。そもそもそこまで寿命があるかも定かではないのですから。
 一攫千金ではなく一歩千金の精神で、毎日「小事」を積み重ねることが、やがて大業に繋がるのです。

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