図書館本 27冊目 『耳をすませば』 チョ・ナムジュ 317P

『82年生まれ、キム・ジヨン』著者チョ・ナムジュのデビュー作!
と、帯で紹介されています。
おかげで「チョ・ナムジュ、あの人か!」とわかります。
全然、韓国小説家の名前を覚えられていません。
著者紹介の作品名を見て、あれもこれも読んでるのに覚えないんだなぁ、とあきれます。

なんか、聞いたことのあるタイトルですが。
こちらは、在来市場ドタバタコメディーに「クイズ・ミリオネア」的な要素が入っている感じ。


売り上げが落ち、活気を失いつつある伝統市場の再建に、テレビの力を借りたい市場商人会。

過去にはドキュメンタリー番組でヒットを飛ばしてきたものの、独立してプロダクションを設立するも行き詰まり、再起を目指す元名PD(プログラム・ディレクター、TV番組の企画・制作を担当する人)。

双方が手を組み、それぞれの再起を賭けて企画するサバイバル番組。
そして、人並み外れた聴力を持つ発達障害の息子に全てを託し、全財産を賭けて勝負に挑む挑戦者一家。


最初、市場再建のために市場商人会が出してきたイベントのアイデアは、なんと「全国イカサマ大会」
イカサマとは、カップ3つのうち、どのカップに玉が入っているかを当てる昔ながらの遊びで、田舎市場の見世物で人気の賭博ということです。

市場商人会の元々の大会案は、
参加者から賭け金として参加費を徴収し、1等になった人は自分の賭け金の二倍の金額をを賞金として受け取るという、昔ながらの田舎賭博のやり方。

ただ、テレビ放送となると参加者の幅が広がって、ものすごい大金を賭ける参加者が1等になってしまったら、その賞金を参加者からの賭け金や市場では賄えないという心配があるので、かなり弱気に変更して、
・賭け金は均等に1万ウォン(今日の新聞で、100ウォン=11.7円)
・1等・・・高級国産和牛セット(精肉店から)
 2等・・・贈答用果物セット(果物店から)
 3等・・・干物セット(干物店から)

在来市場の身の丈に合った、とてもほほえましい内容の企画案でした。

ところが、弱小プロダクション存続のため、なんとかしてケーブルテレビ局に企画を通したいパクPDが、テレビ素人の商人会メンバー相手に上手い言葉を並べ立て、テレビ的にショボすぎる企画案を、めちゃくちゃスケールアップさせたのです。

  • 名称を「イカサマ大会」から「スリーカップ大会」に変更(これは妥当)

  • 優勝賞金は、優勝者が賭けた参加費の10倍に変更(参加費に制限なし!これはヤバイーっ)

もし、10億ウォンも賭けて参加する人が現れて、まさか優勝でもしたら、賞金が100億ウォンになっちゃうんですが・・・

当然、市場商人会は賞金の高額化を心配しましたが、パクPDは「予選の面接で、経済力があって実力も備えたヤバそうな人は落とすから、優勝賞金が参加費合計より多くなることはない!」と押し切ったのです。

とりあえずケーブルテレビ局に企画は通りました。
生放送で地域予選からやります。
番組名は『ザ・チャンピオン』

読んでる私としては、ヤバいことが起こる予感しかない・・・
いや、絶対起こるでしょ、ここは・・・

だって、無敵の超聴力の持ち主、キム・イル君がいるんだもの。
本人は賞金への欲はなく、親が必死になってるだけなんですが。

当然、イルはその聴力で、100%の的中率で当て続け、外見も良いので人気も出ます。
人気にあやかりたいテレビ局は「絶対彼を優勝させろ!」と圧もかけてきます。

キム一家が賭けた参加費は、全財産の5000万ウォン!
優勝したら賞金は10倍の5億ウォンですよ!

しかし、大会側はそんな金額想定してなかったんです。
参加を受付けた時点でのポカミスです。
参加者全員分の賭け金を集めても2億ウォンぐらいにしかなりません・・・
市場にも、パクPDの弱小プロダクションにもそんなお金ないんです・・・
賞金にノータッチのケーブルテレビ局側はそんなこと知りません。

私も心配で心配で、通勤電車降りても「商人会、どうするよー。どこかにないの、5億ウォン?!」と気になってました。
でも、イル少年にも成功して欲しい、と心が乱れるのです。

うまいこと、登場人物たちに愛着を持たされてしまってますね。
ここまでの流れや過去の出来事とか読んでくると、誰も憎めないんですよ・・・

番組は進み、イルを含めて決勝戦進出者の10人が決まりました。
イルの両親が、心をひとつにして編み出す様々な訓練は一日12時間にも及び、イルを追い詰め、心身を疲弊させていきます。

誰も本気で悪いことをたくらんだ訳ではないけれど、引くに引けなくなって事態がどんどん深刻さを増していき、追い詰められていく登場人物たち。

このままでは、当然イルの優勝が目に見えています。他の参加者は普通の人たちなんですから。困るのは、商人会とパクPD。

パクPDは、市場商人会からは「参加費を全員に返してもうやめよう!やめないなら訴える!」と迫られ、実情を知らないテレビ局からは「イルを優勝させろ!」と迫られ、私の胃までシクシクしてきます。

私も心配で、パクPD死ぬんじゃないか、何か方法はないのかと仕事中にふと思い出してはドキドキしました。ドラマの続きが気になってるのと同じ状態ですね。

結局、パクPDは自分の不手際を自社のメンバーに告白し、なんとか手はないかと内輪で知恵を出し合うことになります。

「キム・イルを勝たせなければいいのだ!」ということで一致団結し、涙ぐましくもセコい手を、あれやこれやと熱く提案しあう姿に、私は、なんとかなりそうだと安堵しました。ちょっと馬鹿馬鹿しくて可笑しいけれど。
このパクPDも憎めないんです。

いよいよ決勝戦、もう気分は映画の「スラムドッグ$ミリオネア」(原作「ぼくと1ルピーの神様  著/ヴィカス・スワラップ」)のクライマックスですよ。

「ファイナルアンサーっっ?!」とは言ってませんが、正にそんな場面で事態は思わぬ方向に・・・

なんというか、三方良しと言えるのか、いや言えないか、「こう来るのかーっ!!」というところに番組は着地します。

その後、へこみまくった大人達は徐々に立ち直り、懲りずにまた仕掛けてみようとするのです。清々しさというか、ワイワイ感というか、いい感じで。

あの決勝ラウンドからすっかり変わってしまったキム・イルも、また巻き込まれるのですが、彼はそんな大人達の斜め向こうにジャンプしていくのです。

物語の中で困惑したのは、一場面一場面に反応して盛り上がるネットの声でした。
実情は知らないし、関係もないから特に知ろうともせず(中傷したい対象のプライバシーはメチャ調べるけれど)、勝手な推測もウソも織り交ぜて、持ち上げたり、たたきまくったり・・・
抵抗するにも、声の量に立ち向かうのは困難です。

けれど、立ち直るきっかけになったのもネットの声だったり。


巻末の、著者と同じ小説賞を受賞した作家による、小説風受賞インタビューも面白く、チョ・ナムジュの子ども時代のこと、放送作家時代のこと、興味深く読みました。
放送作家の経験があるから、番組制作をリアルに描写できるのでしょうね。

ドラマを観てるようなワクワク読書でした。







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