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吉田克朗展を観て。

 神奈川県立近代美術館は、思っていたよりも駅から遠く、曇りだった為にすぐそばの海もそれほど綺麗に見えなかった。
 イサム・ノグチやリー・ウーハンの彫刻が鎮座する庭に囲まれたその美術館は、私が思っていたよりもこじんまりした佇まいで、どことなく地元の美術館を思わせた。

 そこで開かれていたのは、「もの派」を代表する作家である吉田克朗の回顧展だ。
 1999年に55歳の若さで逝去した吉田は、もの派の先駆と呼ばれながらも、その作風を大きく変化させた作家と言えるだろう。

 この作品をパンフレットで見ていた私は、"もの派らしい"作品に心を躍らせた。難解で不可解で謎めいている。論理的に全て計算されているようでいて、全く感覚的なようでもある。
 この作品は、天井にロープで吊るされた木材を下では石が引っ張っている。石という絶対的に抗えない重力に、ひ弱とも思える木材が必死に抗っているように見えた。圧倒的な素材感と素材感の構成。現代の雑多な美術品とは全く違う、沈黙の美学が私にはとても魅力的に思える。

 しかし、展示が進むに連れ、吉田はもの派的な比重を弱めていく。特にこの絵画。

 吉田が手に直接つけた粉末黒鉛で描かれたこの<触>と代されたこの絵画は、もの派的ではなく、むしろその後に続く日本でのニューペインティングの先駆とも思える。

 抽象的であり、有機的な物質(具象性を孕む)は、私たち鑑賞者に不穏な気持ちを抱かせるに違いない。具象的な抽象画、とでも呼べばいいのだろうか。吉田は、絵画における新しいムーブも、その嗅覚で嗅ぎつけたのだろうか。ここまでくると、絶句の一言である。

 この展示では、常設で斉藤義重、先に紹介した李の彫刻もある。もの派を流れで見るのに適した美術館であろう。

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