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オトリカエ保険

 保険屋の男性営業が家に来た。いくら邪険にしても、顔色一つ動かさず食い下がってくる。
 聞けば、死亡または治療不可な怪我をした場合、保険金が降りるのに加え、新しい『本人』と交換できるらしい。しかし――。
「非人道的だ。警察に……」
「お待ち下さい」
「……」
「あくまでもご提案にございます。ご入用とお見受け致しましたので……」
 確かに、必要だった。半年前に娘が怪我をしていた。バレエに打ち込んでいた娘は家の階段で足を踏み外し、大切な足に怪我を。今では塞ぎ込んで部屋から出なくなってしまった。あの頃の健康的な娘の姿は、今では見る影もない。
「……ああ、頼む」
 契約にサインした二週間後、あたらしい娘が届いた。あの美しく健康的な娘が帰ってきてくれた。私は嬉しさのあまり涙が出た。
 しかし、娘の異変に気付いた妻がきつく問い詰めるものだから、ついには白状した。妻は悲しみ、やがて私を避けるようになった。お前だって、バレエができなくなった娘を憐れんでいたじゃないか。
 そのうち妻は私を見ると「娘を返して」と呟いて睨みつけるようになった。
 ある深夜、妻の態度に耐えかねた私は別室で寝ている妻のもとへ行き、バットで殴って怪我を負わせると、次の日には保険屋に取り替えてもらった。あたらしくやってきたのは以前の献身的で気の利く『妻』だ。
 良かった。これでもう逆らう者はいない。

 それでも時折、本物の娘や妻はいったいどこに行ったのか考える。だが、私には関係のないことだろう。
 それよりも、最近、娘に彼氏ができた。またあたらしい娘に取り替えるべきだろうか。

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